2010年6月22日掲載

2010年5月号(通巻254号)

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世界市場先導を狙う、韓国版「統合アプリケーション・ストア」

 韓国の携帯電話事業者3社は、統合アプリケーション・ストアを構築し、2011年下半期を目途に商用サービスを開始する計画だ。サムスン、LGなど携帯電話メーカーは商用サービス時期に合わせて、対応端末機を発売する意向を表明している。世界的なスマートフォン需要の高まりと2010年2月にモバイル・ワールド・コングレス(MWC2010)で発表されたホールセール・アプリケーションズ・コミュニティ(WAC)の設立が大きく影響している。

韓国内でしのぎを削っている場合ではない

 2010年3月、監督機関である放送通信委員会(以下、KCC)のチェ・シジュン委員長はSKテレコム、KT、LGテレコムの携帯電話事業者3社とサムスン、LGなどの携帯電話メーカーのトップと、無線インターネットの活性化に向けた懇談会を開催した。チェ委員長は、MWC2010で「無線インターネット大国への跳躍のためのビジョン」と題した基調講演を行ったが、今回の懇談会はその後続措置と受けとめられている。

 懇談会の主要な議題は2つ。まず1つ目は、事業者間のユーザー獲得競争に関わる販促費用の問題だ。KCCは、狭い国内市場で必要以上のユーザーの争奪戦が白熱することを懸念し、販促費の上限を売上高比20%とするガイドラインを設定した。これは、日米など海外事業者の販促費レベルを参考にして設けられた基準であり、現在、SKテレコムは26%、KTやLGも20%を超える水準だ。政府は、販促費用を制限することで余裕分の資金を研究開発や投資への転換を促したい考えだ。

 2つ目は、事業者各社が個別に構築・運用しているアプリケーション・ストアの統合に向けた具体的なアクションだ。無線インターネットの利用拡大により、端末機やコンテンツの需要の拡大が期待されることから、韓国政府は無線インターネット分野を成長産業の一つと位置付けている。韓国の通信事業者はアプリケーション・ストアでは出遅れ感があり、海外企業のレベルには至っていない。そのため、各事業者が単独でアップルやグーグルのような世界的な企業に太刀打ちすることは難しいという共通の認識がある。韓国企業が生き残るためには、通信事業者-端末機メーカー-コンテンツ事業者間の相互協力が不可欠であることを、政府は改めて関係者に求めた。 

韓国版「統合アプリケーション・ストア」とは

 統合アプリケーション・ストアの全容は、懇談会開催から2カ月近く経過した4月末にKCCから発表された。統合対象は、SKテレコムなど携帯電話事業者3社のアプリケーション・ストアだ。統合アプリケーション・ストアは、アンドロイド、ウィンドウズ、パダなど既存のオープンOS(いわゆるオープンソースのOS)すべてが利用可能とされている。サムスンやLGが運営するアプリケーション・ストアは除外されたが、2011年下半期(6月予定)の統合アプリケーション・ストア商用サービス開始に合わせ、同アプリケーション・ストアが利用できる端末機を供給するという意思を表明している。

 統合アプリケーション・ストアは、韓国無線インターネット産業連合会(MOIBA)が運営し、アプリケーションの登録、試験、認証、精算等、開発者に対する単一のコンタクト・ポイントの役割を担う。開発者はこの単一のコンタクト・ポイントに向けてアプリケーションを供給し、通信事業者はそこからアプリケーションを仕入れ、自社が運営するアプリケーション・ストアでエンド・ユーザーに提供する。

【図1】統合アプリケーション・ストアのイメージ
【図1】統合アプリケーション・ストアのイメージ

出所:KCC報道資料より情総研加筆

 ホールセール(卸売)という言葉は使っていないものの、統合アプリケーション・ストアはWACの仕組みによく似ている。KCCと携帯電話事業者3社は、「韓国版WAC」とも言える統合アプリケーション・ストアを国内で展開し先行的に実績を積むことで、WAC設立後に先導的な役割を担っていくための下地作りを進めているものと見られる。

WAC頼みの計画?

 韓国では2009年11月にKTからiPhoneが発売されたことでスマートフォン人気に火がついた。現在、韓国の携帯電話加入数は4,800万程度で人口普及率では9割を超える。そのうちスマートフォンの利用者は170万ほどと推定される(2010年4月末)。事業者別ではSKテレコムが80万、KTが82万だ。各事業者はそれぞれスマートフォンの攻撃的な投入を表明しており、統合アプリケーション・ストアの設置にも追い風になると予想される。WACの創設を踏まえた政策は、国内のみならず世界市場を見据えたエコシステム構築を目指していることもあり、韓国内では概ね肯定的な評価を得ている。

 統合アプリケーション・ストアがオープンOSをすべてサポートすると表明している点は、WACと方針が一致しており、iPhone対抗と言えるだろう。しかし、不安要素が少なくないという見方もある。韓国のスマートフォン利用者170万加入のうち、iPhoneが4割程度、Windows Mobileを搭載したOmniaの利用者も3〜4割に上ると見られている。iPhone人気がおさまる気配がない中、  iPhoneやApp Storeをしのぐ端末やコンテンツを供給できるのか。また、Windows Phone7向けのアプリケーションは、マイクロソフトのアプリケーションストアでのみで提供するという話もあり、OSを開発した事業者が閉鎖的な展開方針をとると、多様なOSをサポートするという統合アプリケーション・ストアの魅力も半減するだろう。

  統合アプリケーション・ストアに不透明感が漂うもう一つの理由は、全世界の24の事業者が同意したというWAC設立計画だ。これが計画通り実現するのかどうか、中断や取りやめという可能性もゼロではないという慎重論もある。WAC前提で進められている限り、統合アプリケーション・ストアの開設の成功可否は、WACの展開に少なからず影響を受けることだろう。サムスンやLGがそれぞれ独自にアプリケーション・ストアを展開し、統合アプリケーション・ストアの概念自体に理解を示しながらも、直接的な参加をしない理由はそこにあるのかもしれない。

  今回発表された統合アプリケーション・ストア計画が実現すれば、世界で初めての事例になるという。世界の無線インターネットを取り巻く環境変化を捉え、韓国が最初の一歩を踏み出した。素早い対応を見せた韓国がこれから1年間どのような官・民連携プレーを見せてくれるか、その動きを見守っていきたい。

亀井 悦子

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