2010年11月29日掲載

2010年10月号(通巻259号)

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InfoComモバイル通信T&S

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サービス関連(製品・端末)

携帯電話から車載端末へ〜次世代携帯通信によるサービスの広がり

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 HSPA+やLTEの導入により、携帯電話ネットワークがFTTH並みに高速化、低遅延化する環境が実現されつつある中で、その「移動体」としての特徴を活かした応用分野として、ITSやテレマティクスなど「車載端末」に向けたサービスに注目が集まっている。

エリクソン等がドイツでLTEを使ったITS実験

 ITS(Intelligent Transport Systems:高度交通システム)は、道路と自動車をネットワークを利用して情報化することにより、交通の最適化を実現するもので、「ナビシステムの高度化」や「自動料金収受」「安全運転の支援」など9つにわたる開発分野から構成されている。日本では、世界に先行して研究開発が推進されており、すでにETC(Electronic Toll Collection System:ノンストップ自動料金支払いシステム)やVICS(Vehicle Information and Communication System:道路交通情報通信システム)が実用化されている。VICSは、道路上に設置したビーコンとFM多重放送を使ったシステムであるが、LTEの登場などをきっかけに、後発となる海外でも、LTEを利用した、クラウド型サービスによる、ITSの実現を目指す取り組みが始まっている。

 エリクソンは、フォルクスワーゲン、ダイムラー、独ボーダフォンならびにBundesministerium für Bildung und Forschung(ドイツ連邦教育・研究省)と共同で、携帯電話網を使って交通事故などを防止する「Cooperative Cars(CoCar)」と呼ばれる研究を行っている。これは、数十メートル先を走行する車両の事故、急ブレーキなどの警告や、悪路、工事中、渋滞などの道路情報を、携帯電話網を使いサーバー(CoCar管理センター)経由で後続車両に知らせるというもの。実用化に向けては車々間通信の遅延時間が課題となるが、実験の結果、@車々間の遅延時間は0.5秒以下に収まること、A携帯網には現状のHSPAが実用に耐え得ることなどが検証された。共同研究ではさらに、直進する車両間の通信だけではなく、交差点において、交差点内の車両の情報を交差点に進入する手前の車両に通知するモデルの評価を行っている。この仕組みは、「CoCarX(CoCar Extended)」と称し、LTEを使って試験が行われている。

アルカテル・ルーセント、トヨタ自動車等とLTEを使ったテレマティクスを発表

 どちらかというと官主導で進められているITSに対し、自動車会社を中心にマーケット・ニーズを取り込んで発展しているのがテレマティクスである。ITSが自動車の「交通機能」の利便性向上を第一義にしているのに対し、テレマティクスは、自動車産業以外のプレーヤーと幅広く連携した「カーライフ」の高付加価値化といえる。提供されるサービスには、安心・安全のためのサービスと利便性の向上を目的としたサービスがあり、具体的には、盗難時の自動通報、故障時の工場・保険会社への連絡、リアルタイムの交通情報やナビゲーション、近辺の店舗案内、音楽のダウンロードなどが挙げられる。代表的なサービスに、日本ではトヨタ自動車の「G-BOOK」、日産自動車の「カーウイングス」、本田技研の「インターナビ」がある。また、海外ではGMの「OnStar」、ダイムラーの「TeleAid」、BMWの「BMW Assist」などが有名である。これまでは、各自動車会社が独自にサービスを行っている場合がほとんどであったが、LTEなどの次世代携帯通信の商用化に向け、自動車  メーカーと携帯電話事業者や設備ベンダー、サービス・プロバイダーが共同で研究開発を進める動きがでてきた。

 次世代通信におけるデバイスやサービスの開発に向けたエコシステムの構築を目的に設立された「ng Connect Program」に参加するトヨタ自動車、アルカテル・ルーセント、Atlantic Records、QNX Software Systems、chumby、Kabillionは共同で、2009年11月、LTEを搭載したコンセプトカー「LTE Connected Car」を発表した。LTE Connected Carはニューヨークで行なわれたLTE Connected Car技術展示会で発表され、2010年7月には、上海万博でも展示された。

 LTE Connected Carはトヨタの「プリウス」のダッシュボードや後部座席にLTE対応端末を組み込んだもの(図参照)。それらの端末はタッチスクリーン操作で、ナビゲーションだけでなく、インターネットや、ホームサーバーを介してコンテンツを楽しむこともできる。例えば、映画や音楽、録画しておいたテレビ番組、動画サイトを視聴したり、対戦ゲームなどを利用できる。また、通話やメールの送受信、SNSへのアクセスも可能となっている。さらに、交通・気象情報のリアルタイム配信、車の状態をモニタリングし、メンテナンス時期を確認したり、盗難を防止する機能も組み込まれている。それらの車両の状態や位置情報を、他のドライバーと共有することもでき、車内からLTEネットワークを介して自宅のセキュリティシステムを操作することも可能。車内はWi−Fiホットスポット機能も具備し、持ち込んだWi−Fi対応機器をネットに接続することもできる。

 テレマティクス・サービスは、これまでは主にドライバーに対してのサービスであったが、通信の高機能化によって、今後は、同乗者各々の「カーライフ」を満足させるサービスとして発展しそうだ。アルカテル・ルーセントの調査によれば、欧米の消費者のうち9,000人以上が、同システムを有料で利用してもよいと回答しているという。

<図:LTE Connected Car(出所:http://www.ngconnect.org/ より引用)>

<図:LTE Connected Car(出所:http://www.ngconnect.org/より引用)>

グーグル、Android対応のスマートフォン向け「ナビゲーションサービス」を開始

 通信側のアプローチとは別に、端末/サービス側からも、新たなテレマティクスの動きがでてきている。

 米グーグルの日本法人グーグルは2010年9月、GPSを利用した自動車向けのナビゲーションアプリ「Googleマップナビ(β版)」をAndroid対応のスマートフォン向けに提供開始した。Googleマップナビでは、Google音声検索との連携により、目的地を言うだけで、ナビを開始できる。この他、地図表示だけでなく、航空写真を表示したり、ストリートビューとの連携も可能で、周辺情報を確認し、店舗のクーポンも入手できる。ただし、現在のバージョンではVICSなどの交通情報は反映されていない。またバッテリーの消耗も激しく、動作もスムーズでないなど改善の余地はあるようだ。

 Googleマップナビは主に助手席の同乗者向けに提供されるサービスで、同様のサービスでは、auの「Ez 助手席ナビ」が先行している。「Ez 助手席ナビ」も2010年3月より、インターネットのポータルサイト「au One」と連携し、PCであらかじめルート検索や地点検索などをしておけば、「EZ 助手席ナビ」で外出先から検索内容を確認できるようサービス拡張したが、「Googleマップナビ」は、(1)インターネットのGoogleの各種検索サービスと連動し、スマートフォンから直接PCと同様の  サービス・機能が使える点、(2)通信キャリアに依存しない点、などが特徴である。GoogleマップナビはAndroid対応のスマートフォン向けのサービスだが、将来的にはAndroid OSを搭載した組み込み型デバイスに実装されれば、現在自動車メーカー各社が提供している独自仕様のテレマティクス・サービスと競合していく可能性もある。

 他方、NTTドコモは2010年10月中にも、ドライバー向け情報提供サービス「ドコモ ドライブネット」の開始を計画している。最新の地図情報や観光施設、駐車場満空情報などのエリア情報をリアルタイムで配信するサービスで月額使用料は315円。スマートフォンやFOMA対応通信モジュール内蔵のカーナビなど、さまざまな端末に提供予定で、すでに三洋電機のポータブルナビゲーション「ゴリラプラス」やパイオニアが開発したAndroid搭載スマートフォン用通信カーナビアプリ「ドコモ ドライブネット powered by カロッツェリア」への対応が決まっている。ドコモ ドライブネットのサービス開始に合わせ、専用料金プラン「ドライブネットプラン」と「ドライブネットプラン フル」の提供も開始する。両プランともに月額1,050円で20万パケットまで利用可能で、20万パケット以上はドライブネットプランの場合は利用停止、ドライブネットプラン フルはパケット当たり0.021円で上限額が9,765円となっている。NTTドコモは2010年12月に他社に先駆けてLTEサービス「クロッシィ」の提供を予定しており、それにより優れたユーザー体験が提供できれば、車載端末向けサービスで先鞭をつけられるかもしれない。

 HSPA+やLTEなど広帯域、高速、低遅延の携帯ネットワークの普及をきっかけに、車載端末に向けたサービスが一段の進化を迎えそうだ。将来的には、スマートフォンなどのモバイル機器を介して、車載端末/ドライバーと外部の人との間の新たなソーシャルサービスが創出されることも期待され、同分野の動向が注目される。

武田 まゆみ

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