2010年12月22日掲載

2010年11月号(通巻260号)

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サービス関連(通信・オペレーション)

アプリケーションストア、Vodafone 360の教訓

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 2008年に開設されたアップルの「App Store」およびグーグルの「Android Market」を追う形で、2009年から2010年に掛けて、モバイル・キャリアによる独自アプリケーション・ストアの開設が相次いだ。様々なキャリアのアプリケーション・ストアが開設されるなか、ダウンロード数や売上数をみると、App StoreやAndroid Marketの存在感が顕著である。では、モバイル・キャリアの独自アプリケーション・ストアの状況はどうであろうか。開設されたモバイル・キャリアの独自アプリケーション・ストアの現状を知るための情報は非常に少ない。その中で、ネット上で大きな話題を呼んだのが、ボーダフォンのアプリケーション・ストア「360 Shop」を含むモバイルプラットフォーム「Vodafone 360」である。ただし、話題になったのは、ボーダフォンが特定の端末に対するVodafone 360の提供を僅か21日間で打ち切るといった内容のものである。本稿では、Vodafone 360のサービス概要、さらに、特定の端末に対する同サービスの提供中止の経緯を紹介したい。

Vodafone 360の概要

 Vodafone 360は、2009年10月にPCとモバイル間の連動・同期等が可能なモバイルプラットフォームとして開設された。同プラットフォームでは、アドレス帳や写真の同期、音楽配信、地図など様々なサービスが提供されており、その中の目玉として「360 Shop」が提供されている。360 Shopでは、当初JIL(Joint Innovation Lab)のSDKで開発された無料アプリケーションのみを提供していたが、2010年4月から有料アプリケーションの提供を開始した。360 Shopのビジネスモデルは、収益の70%を開発者に配分するなど、アップルのApp Storeと似ている。ただし、App Storeでは禁止されているアダルトコンテンツ等を承認するなど、幅広いコンテンツを集める戦略を採っており、2010年6月時点で8,500種類のアプリケーションが提供されている。Vodafone 360は、ボーダフォンが提供しているLiMOべースの携帯電話端末50機種以上に対応しており、なかでも、2009年11月に発売されたSamsung H1はVodafone 360専用端末として販売されている。

【写真】Vodafone 360専用端末「Samusung H1
【写真】Vodafone 360専用端末「Samusung H1」

Android専用のアプリケーション・ストア「360 Shop for Android」

 LiMOベースの携帯電話端末に提供されていた「360 Shop」だが、ボーダフォンは2010年6月に、Android専用のアプリケーション・ストア「360 Shop for Android」を開始した。360 Shop for Androidは、最新端末の「HTC Wildfire」と「Sony Ericsson Xperia X10 Mini Pro」にプリインストールされて販売された。なお、既にボーダフォンが提供している他のAndroid端末である「HTC Desire」に対しては2010年8月3日に、ネットワーク経由のアップデートで「360 Shop for Android」がインストールされた。このアップデートが後に、HTC Desireユーザの批判を招き、ネット上で大きな話題を集めた。

ユーザの批判がVodafone 360に集中

 一般的にアップデートにより追加の機能やサービスを利用可能とすることは、ユーザにとってサービスの幅が広がるメリットであるが、HTC Desireユーザはメリットとして捉えなかった様である。Vodafone 360に対する批判が集まった理由は、HTC DesireユーザがAndroid 2.2へのアップデートを期待していたが実現されず、突然、キャリアのサービスであるVodafone 360がインストールされていたことにある。Android 2.1から2.2へのバージョンアップは、高速化、テザリング機能の追加など様々な追加機能・サービスを利用可能とするが、中でもiPhoneでは利用できないFlashに対応する。ボーダフォンのHTC Desireユーザは、アップデート時に2.2へのアップグレードに期待したが、実際はVodafone 360の追加であったことから大きく失望したのである。また、そのインストールされたVodafone 360が削除できないといった仕様に対しても批判が集まった。

FacebookでVodafone 360に対する
批判ページが出現
FacebookでVodafone 360に対する批判ページが出現
ユーザの不満が大きく
ネットで取り上げられる
ユーザの不満が大きくネットで取り上げられる

削除されたVodafone 360

 ボーダフォンは、ユーザからの批判に対応する形で、2010年8月24日にAndroid 2.2の配布を開始し、同時に、Vodafone360関連のアイコン等を全て削除した。不具合や利便性に関するユーザからの批判への対応策として、一般的に、パッチ(修正プログラム)等が配布されることが多いが、一度出したサービスを削除するケースは異例であり、ユーザの批判が集中したことを物語っている。なお、現時点では、Android MarketやPC経由でのVodafone 360の再インストールは提供されておらず、今後対応する予定となっている。


 HTC Desireユーザの批判は、同ユーザのAndroid 2.2への期待感が高まっているタイミングでVodafone 360を導入したことが批判の大きな要因となっている。ただし、Vodafone 360を削除できないことも批判の対象になっていることから、「タイミングが悪かった」が唯一の要因ではない可能性がある。モバイル・キャリアが作ったアプリケーション・ストアを提供することは、ユーザに選択肢を与えることになるが、Vodafone 360の例を見ると、本当にユーザが望んでいるサービスではない場合もあることが分かる。世界各国のモバイル・キャリアがアプリケーション・ストアを開設するなか、Vodafone 360の事例はユーザが何を望んでいるかを明確に認識し対応する必要性を示していると考える。

中村 邦明

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