2011年8月22日掲載

2011年7月号(通巻268号)

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InfoComモバイル通信T&S

※この記事は、会員サービス「InfoComモバイル通信ニューズレター」より一部を無料で公開しているものです。

巻頭”論”

「ガラパゴス」を超えて〜Wi-FiとLTEの取り組み

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 最近の我が国のモバイル通信サービスではスマートフォンの普及・拡大が著しく、今後数年のうちに契約数の過半がスマートフォンやタブレット端末(PC)になると予想されています。引き続きiPhoneの好調な販売と、他方でアンドロイド端末の急速なシェア拡大が目立っています。

 また、ネットワークサイドではLTEのインフラ投資やサービス展開がモバイル通信先進各国で盛んに話題になっており、各国のフォーラムなどでその中核となる無線周波数を巡って議論が活発化しています。最近では、欧州を中心に、既存の800MHz帯と2.6GHz帯に加えて、1.8GHz帯をLTEコア帯域とすべきとの主張が目立つようになっています。今年のLTE World Summitでも欧州を中心としたモバイル・オペレーターは、1.8GHz帯をコアの周波数帯域にしようと連携を深めており、ベンダーだけでなく各国規制当局に対しても働きかけを行おうとしていることが印象的でした。またまた、欧州勢のベンダーとオペレーターが足並みを揃えた世界戦略のしたたかさを感じさせられました。デバイスやOSレベルでは米国勢中心ですが、ネットワークでは欧州勢の強さが目立っています。3Gでは世界で中核的役割を果して来た日本のオペレーター、ベンダーの再登板を期待しています。日本のモバイル通信市場は「ガラパゴス」化しているとの揶揄を超えて、世界の潮流の中で行動する必要があります。

 こうした中、今回は、(1)公衆無線LAN=Wi-Fiの活用と (2)SMS(ショートメッセージサービス)の復権、の2点を取り上げてみたいと思います。

 スマートフォンの普及が進むに従って映像系を中心に通信トラフィックが急増し、ネットワークの輻輳(ふくそう:混雑のこと)が目立つようになり、スマートフォン化がより進展しているオペレーターから順次、混雑解消のためWi-Fiを活用する動きが進んでいます。スマートフォン先進国である米国では、iPhoneで先行したAT&Tだけでなく最近ではベライゾンもWi-Fi利用に力を入れています。LTEの導入・展開もまた急激に増大するトラフィック対策の意味があるので、LTEの展開とWi-Fiアクセスポイントの導入とを両立させる戦略が求められることになります。両者には、

  • LTE; 既存3Gネットワークにオーバーレイ、従量制料金導入の方向、モバイルインフラの段階的発展
  • Wi-Fi;既存ネットワークのオフロード、無料または低価格の定額料金、自由な付加的サービスの拡充

という違いがあり、LTEが無線インフラとして周波数の国家免許が伴うのに対し、Wi-Fiはフリーに使用できる周波数を用いているのが特徴となっています。

 固定と携帯の両方を手掛けるオペレーターにとっては、LTEとWi-Fiは矛盾なく、オフロードはWi-Fiで、本格的なモバイル高速ブロードバンドはLTEでと使い分けられているように見え  ますが、固定と携帯とが分離しているNTTグループでは少し問題が複雑で、NTTドコモはLTEを、NTT東日本はWi-Fiを推進していて両者のサービス関係が不透明のままとなっています。近い将来、超高速ブロードバンドが拡大し、そのデバイスとしてスマートフォンやタブレット端末(PC)が普及していく中、映像配信や映像系アプリが中核的なサービスになることが想定されるので、モバイルネットワークのトラフィック混雑解消は世界中の通信事業者共通の課題となっているところです。

 日本の通信事業構造の根幹をなすインカンバント事業者の固定と移動体サービスの分離政策は、既に世界の潮流から見ると“ガラパゴス”に見えます。世界の主要通信事業者の中でもモバイル専業なのは、NTTドコモ以外では、ボーダフォンくらいで他は固定とモバイル事業を兼営しています。情報通信(ICT)事業のグローバル展開を図る上では従来とは違う形での競合関係となっていて、固定とモバイルサービスの融合、補完が強くユーザから求められるようになっています。オペレーター相互の提携や協力はもはや固定だけ、モバイルだけでは成立しなくなっているのが実情です。

 その良い事例が公衆無線LAN=Wi-Fiの拡充であり、デバイスとしてのWi-Fi無線ルーターの展開であると思います。モバイルオペレーターから見るとWi-Fiスポットの拡充は、スマートフォン、タブレット端末(PC)利用者の定額料金サービスの延長でオフロード対策としての付加機能の位置付けである一方、LTEはオフロード対策の効果はあるが、本来既存3Gネットワークにオーバーレイしてネットワーク全体の効用を高めるのが狙いとなっています。その結果、同じ超高速の通信サービスであってもLTEでは一部の高トラフィック利用者の占有を避けるために使用制限や従量制料金の導入が見込まれています。モバイルオペレーターにとっては、映像系のパケット通信急増に備えて、Wi-FiとLTEの両方の施策が必要であり、ARPUの上昇効果を狙えるところから2つの方策はどちらも欠かせないものでしょう。

 他方で固定通信事業者にとっても光回線による超高速ブロードバンドをより普及させるためには、スマートフォンばかりでなく新しい形のWi-Fi対応デバイスの展開を進めてホームやオフィス・ユースばかりでなく広くインターネットのユビキタス化を図ることが望ましいところです。Wi-Fi対応サービスは光回線による超高速ブロードバンドにおいて、光電話に続く第二のキラーアプリケーションと成り得るものだからです。もちろん、屋外において、公衆電話と同様の役割を果す誰でも使えて災害時の輻輳に強い公衆IPインフラとしても期待できます。

 無線周波数不足が確実化し、周波数オークションが課題になっている中、モバイルサービスの超高速ブロードバンド化とWi-Fiの活用による光ブロードバンド利用とを補完的、融合的に進めることが急がれます。スマートフォンやタブレット端末(PC)などデバイス類の進歩は格段に速く、またユーザーのデマンドも非常に強いので通信インフラ側もサービスを複線化し、料金制度も定額制と従量制など多様化して応じていく必要があります。

 最後に日本のモバイル通信サービスでようやく脱ガラパゴス施策となったSMS(ショートメッセージサービス)の事業者間接続と利用料金値下げを大いに歓迎したいと思います。今月13日から開始と  なりましたが、本欄において2009年5月号で我が国モバイル通信サービスの2大ガラパゴス現象のひとつとして指摘して来たことが解決し一歩前進となりました。

 SMSは世界各国で広く標準的に使われているサービスで、単なるメールサービスに止まらず、周知・広報的な利用や多数の人達に送る挨拶状やお祝いカード的な利用まで各国でさまざまに工夫されて利用されています。世界に学ぶものはまだまだ多くあります。SMSは音声電話と同様の仕組みであり、当然、着信側に課金はなく特別の契約や手続きが不要で、かつ、相手側に電話番号で送信するというヒューマンタッチな要素を色濃く持っているので、スマートフォンやインターネットサービスとは違うやや人間くさい素朴で単純なサービスであり、中高年にも慣れ親しんで使ってもらえるサービスではないでしょうか。早晩、らくらくホンなどのシニア向け端末もスマート化するでしょうが、その中に電話番号で相手に送れるSMSを取り込んでおくことは、より一層生活に密着したモバイル通信とするために必要なことです。若い世代の人達にはなかなか分からないことでしょうが、メールアドレスを理解し使用することは結構難しいことなのです。

 Wi-FiとSMSは両極端のように見える取り組みですが、超高速ブロードバンドをより一層身近なものとし、通信サービスをユビキタス化する上では誠に重要なものです。世界の流れに沿ったことであり、ガラパゴス化しないための大切な取り組みでもあります。

 モバイル通信サービスがこれだけ広く普及し、かつ、さらなる高度化が進んでいる中、足もとを見てトラフィックの混雑を解消しながら高度利用を進めて新しい映像利用の世界を拡大する一方で、中高年の人達にもモバイル通信の効用を享受してもらう努力をすることは、相反するようですがサービスの厚みを増し、通信事業として公益性を高めて顧客満足度を上げる重要な経営方策です。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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