2012年5月28日掲載

2012年4月号(通巻277号)

ホーム > InfoComモバイル通信T&S >
InfoComモバイル通信T&S

※この記事は、会員サービス「InfoComモバイル通信ニューズレター」より一部を無料で公開しているものです。

コラム〜ICT雑感〜

「なでしこジャパン」の躍進とグローバル化

[tweet] 

「なでしこジャパン」ワールドカップ優勝、アルガルベ杯でも準優勝

「なでしこジャパン」は昨年7月のワールドカップ優勝という快挙に続き、3月上旬にポルトガルで開催されたアルガルベ杯では優勝を逃したものの世界ランク1位の米国を下し、準優勝と活躍した。スポーツの世界では野球、サッカー、ゴルフなどグローバルで活躍する日本選手への関心が高まっている。

これらのスポーツのなかでは「なでしこジャパン」や柔道、レスリングなど日本の女子選手の活躍が目立つ。グローバル大会では何故、日本の女性の方が活躍するのだろうか。一つには欧米選手との比較において男女の体格、体力差が男性より小さいことが考えられる。特にサッカーなど団体競技においては個人の体力・技量だけでなく、団結力、マネジメント、緻密さ、持久力などの総合力の勝負と考えられる。グローバルで活躍するスポーツとの対比で日本の産業、経済、社会が直面するグローバル化について考えてみたい。

日本の貿易収支が赤字に転落

2011年の日本の貿易収支が31年ぶりに2兆5千億円の赤字に転落したというニュースが流れた。ここ数年の超円高に加え、昨年は東日本大震災、タイの洪水などの災害に見舞われたという特殊な要因はあったものの、これまで長年築きあげた「貿易立国」の基盤が揺らいでいることが明らかになった。

 また、我が国を代表する電機メーカーが2011年度の業績見込みで創業以来の赤字、4期連続の赤字、1万人の従業員削減などという厳しいニュースが相次いでいる。一方、対象的にサムスンをはじめとする韓国企業、更には中国企業の躍進が際立っている。何故このような対象的な好不況の差が生じてしまったのだろうか?韓国では1990年代終わりのアジア通貨危機でIMFの構造改革により韓国企業が整理統合され、競争力のある韓国企業が再生されたことが大きな要因であることは間違いない。

しかし、それ以上に大きな違いは日韓企業のグローバル化に対する取り組みの違いにあるように思われる。

スポーツの世界でもゴルフなど多くの韓国の選手は、初めからグローバルで活躍することを前提に取り組んでいる。エンターテインメントの世界でも韓流は初めからグローバル展開を目指していると言われる。これに対し、これまで日本は1億2千万という内需があるため、業界によっては国内需要を取り込むことに主眼を置き、必ずしもグローバル展開を視野に入れてこなかった。

これに対し、「なでしこジャパン」はグローバルで活躍する選手の活躍で、ワールドカップを制し、一躍注目を集めた。それまでは女子サッカーが日本ではマイナースポーツであり、澤選手をはじめ有力選手が活躍の場を海外に求めざるを得ず、最初からグローバル競争で鍛えられ、それに日本の強みであるチームワークときめ細かな技術が付け加わった成果であると考えられる。

後戻り出来ない日本のグローバル化

少子高齢化が進み内需が縮退する日本のマーケットにおいては、今後の成長を目指す企業は海外へマーケットを求めざるを得ない状況になってきている。特に最近の円高の影響や規制緩和が進まず電気料金などのインフラ・コストが高止まりしていることにより海外に生産拠点を移す企業が増加してきた。

過去にも日本企業は海外進出を行ってきた。1985年のプラザ合意による急速な円高のため日本の企業が安い労働力を求めて1980年代の後半、タイなどの東南アジアに雪崩を打って進出した。筆者も当時、バンコック事務所に駐在していたが、「5円族の襲来」という言葉が流行した。急激な円高のため、短期間に1バーツが10円強から約半分の5円になったため、多くの日本企業や日本人観光客が押し寄せた状況を表した言葉であった。

その後、1990年代に入りバブル崩壊で日本経済の「失われた10年」が続いたが、2001年の中国のWTO加盟を契機として日本企業が「世界の工場」としての中国に本格進出していくことになった。この10年間の日本経済は中国の成長を取り込み、それによって支えられてきたことは間違いない。中国は2008年秋のリーマンショック後、「世界の工場」から内需型産業育成へ舵を切っている。これに対応し、日本企業の中でもコンビニなどの流通や化粧品など高品質な製品で中国のマーケットを開拓する企業が増加してきた。また、タイの洪水ではあらためて日本企業のタイにおけるサプライチェーンの重要性が認識された。今後、日本企業の2011年度決算が明らかされるが、グローバル化が進んでいる企業と国内に依存している企業で業績の差が出てくるものと思われる。

日本ICT産業のグローバル化の課題

ICT業界においても今年のラスベガスでのCES、バルセロナのMWCでも韓国のサムスン、LGに加えて中国のファーウェイ、ZTEの存在感が高まる中で、日本メーカーの影の薄さが指摘されている。スマートフォンの部品・材料では日本メーカーが全体の35%のシェアを占めていると言われている。日本メーカーもこの強みを生かし、避けられないグローバル化に正面からチャレンジしてもらいたい。

グローバル展開を図るうえでいくつかの課題が指摘されている。先ず重要なのは人材の獲得、育成である。韓国企業はグローバル化のため早くから社内用語を英語にしたり、新入社員を海外研修に送り出す制度を導入してきた。日本企業も楽天など社内公用語の英語化を進める企業も出始めてきた。海外事業においては海外でビジネスを行う個々人の資質が大きなウェイトを占めるため、海外要員を育成するキャリアパスと評価制度が重要になってくる。また、内なるグローバル化を図る上では対象となる海外マーケットの海外人材の採用が必要になる。次に意思決定のスピードを速めることである。そのためには現地で意思決定できる仕組みが重要である。筆者が駐在した北京では中国という大きなマーケットの重要性から欧米駐在の経験者が役付役員となって中国に派遣されるケースが増えていた。これは現地での意思決定を重視した人事と思われる。三点目はR&Dの現地化である。これまで日本企業はコア技術の流失を懸念して、R&D機能を現地に移すことに慎重であったが、欧米・韓国の企業は流失のデメリットよりも、マーケットに近いところでニーズを汲み上げ、現地で受け入れられる製品の開発が行えるメリットをとってきた。その他にも国際競争力を高めるため対応が急がれる課題があると思われるが、「なでしこジャパン」の躍進の要因、強みを分析することがグローバルで戦う一つの鍵になるように思える。

グローバル研究グループ 常務取締役 真崎 秀介

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。