2012年10月31日掲載

2012年9月号(通巻282号)

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巻頭”論”

ソーシャルメディアとSNS事業の課題

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ソーシャルメディアが話題になって久しい。その定義はいまだ正確には存在しないようですが、フリーオンライン百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」によると、“誰もが参加できるスケーラブルな情報発信技術を用いて、社会的インタラクションを通じて広がっていくよう設計されたメディアである”となっています。その種類として、電子掲示板、ブログ、ソーシャルブックマーク、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)、画像・動画の共有サイト、通販サイトのカスタマーレビューなど多彩な形態があげられています。また、ソーシャルメディアは従来の新聞、テレビなどのマスメディアと対比され、誰(個人)でも比較的安価に利用できるという特色を有しています。では、何故、最近21世紀に入って、こうしたソーシャルメディアが興隆してきたのか、その背景を考えてみたい。次いで、ソーシャルメディアのなかでも最も普及しているソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の事業サイドの動向や課題などに触れてみたいと思います。

ソーシャルメディアは、しばしば近代社会を典型的に表わしてきた、いわゆるマスメディアと対比されて語られています。19世紀以来の近代社会のなかで、生活者である個人は、情報の送受に関していえばパーソナルなメディアとマスメディアの2つを使い分けながら、社会的な活動をこなしてきました。それ以前に存在した個人を取り巻く共同体(コミュニティ)は、個人の権利義務が確立した大衆市民社会のなかで、拘束力を次第に失って今日にいたっています。コミュニティのなかでの情報送受の影響力が低下してきたのがソーシャルメディア以前の状況でした。特に日本では、このソーシャルに該当する適当な言葉が見あたりません。社会、世間、社交などいろいろな言葉が使い分けられますが、それではソーシャルメディアの場合はどれを用いればよいのでしょうか。社会や世間ではないようですから、社交が最もふさわしいと感じますが、それでも、しっくりきません。要は、パーソナルメディアである1対1の郵便や電話などとマスメディアである新聞や放送との間に有力なメディアが存在しなかったために、ソーシャルメディアにあたる適当な説明語が生まれませんでした。

しかし、パーソナルとマスの両メディアの間隙を埋めたのが、このソーシャルメディアであり、その技術的裏付けがインターネットであり各種のウェブサービスでした。個人と個人、個人と組織、組織と組織の情報発信がウェブサービスを通して、意味あるコミュニティとなって実社会に広がって影響力を持ち始めたのがソーシャルメディアです。現代社会においては、ソーシャルメディアはコスト面でマスメディアに比較して圧倒的に低いので、既にマスメディアの代表格たる新聞に対し、発行部数や広告料収入といった事業面だけでなく、ニュース等の記事内容においても強い影響を与えています。従って、近代社会が希薄化させた、パーソナルとマスの間のソーシャルな世界に再挑戦しているのが現代のソーシャルメディアです。近代国家はパーソナルメディアに対しては「通信の秘密」という保護を与え、マスメディアに対しては「表現の自由」という権利を用意して今日の社会を築き上げてきました。では、ソーシャルメディアが拠って立つ理念は何なのか、規制のない自由な世界ですがいまだ発展段階にあって人々が納得する共通の理念は確立していません。唯一、プライバシーと個人情報の保護が共通化しているだけです。今後のソーシャルメディアの社会的定着のため、国内的にも国際的にも理念の確立と共通化が望まれるところです。

ところで、現時点でソーシャルメディアのうち、最も利用者が多く、社会的影響力を有しているのが、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)です。SNSは、広義には社会的ネットワークの構築できるサービスやウェブサイト全般が含まれますが、ここでは狭義にとらえて、人と人とのつながりを促進しサポートするコミュニティ型の会員制のサービスと理解しておきます。SNSの主目的は人と人とのコミュニケーションにあり、趣味や好み、地域や学校、友人の友人のように直接には自身とは関係のない他人との繋がりを通じて新しい人間関係を構築する場の提供にあります。もちろん、最大のものは、米国のフェイスブックであり、日本ではmixiやGREE、最近では無料通信のLINEなどが多くの利用者を集めていて、社会的な影響力を強めているので企業と消費者の間でも活用の領域が拡大しています。

SNSの利用者の増加と裏腹に、最近、事業としてのSNSの動向が注目を集めていることをここで指摘しておきます。例えば、米国のフェイスブックは今年5月に新規株式公開してから市場の期待に反して株価が低迷し公開価格を大幅に下回っていて、成長の限界を指摘する声も出始めています。フェイスブックの利用者は世界で10億人近くになるのに十分な収益が上がっていない、つまり、収益の上がるビジネスモデルが確立していないとの批判が市場・投資家から寄せられる状況となっています。人びとの結びつきを強めるとの理念優先の事業運営姿勢を貫く同社なので、収益化の取り組みは始まったばかりなのかも知れません。しかし、上場会社として売上げを伸ばし、利益を増大することも社会的な使命なのではないでしょうか。多くの利用者が存在する以上、投資家だけでなく利用者も理解し、納得できる具体的なビジネスモデルが提示されることを願っています。

SNSのビジネスモデルのパターンとしては、(1)広告収入モデル、(2)利用者課金モデル、(3)他サイト誘導モデル、の3つに集約されますが、どれをとっても利用者数に比べて売上規模は大きくはないのが実情です。既存の広告産業へのインパクトは破壊的に大きいものの、それ自身が生み出す広告収入はあまり大きくありません。一方で、利用者課金モデルには、サブスクリプションのほか、日本のコンプリートガチャにみられたような一部サービスに付加機能を加えた有料サービスなど今後の多様化が期待できるモデルがあります。なかでも最も期待できるのが他サイト誘導モデルではないかと考えられます。ここに、Online to Offline(O2O)の取り組みが見られ、課金サービスと連動した収益に繋がることでしょう。日本でもmixiやGREEなどの今後の取り組みに注目しています。

SNSは利用者の規模と増加度合から投資家の期待を集める一方で、既存のマスメディアや流通産業(音楽や書籍など)に多大なインパクトを与え、一部に破壊的な影響をもたらしている現実にあります。ただ、ソーシャルなメディアとしての役割を大いに発揮して新しいコミュニティを成立させているものの、破壊に伴う“創造”がいまだ十分とはいえないようです。焦れているのは投資家だけではありません。新しい事業に期待している産業界、特にICT産業界も新しいビジネスモデルを探し求めています。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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