2013年11月28日掲載

2013年10月号(通巻295号)

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InfoComモバイル通信T&S

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巻頭”論”

iPhoneの先に見える政策課題

2013年9月20日、新しいiPhoneシリーズ5sと5cが発売開始されました。今回は従来からiPhoneを取り扱ってきたソフトバンクとKDDIに加えて、NTTドコモも販売に加わり3社による競合が展開されています。全体の売れ行き、3社間のシェアなどは現在(9月末)のところ十分なデータがなく、まだ評価できる状況になっていません。ただ、発売時の店頭における価格、契約条件、既存端末の下取り、キャッシュバック、その他キャンペーンの提示など3社間の販売競争が過熱していることがマスコミ報道やネットの書き込みに見られます。現実に代理店や大手家電量販店には人があふれていて盛り上っていることが見てとれます。

携帯3社の取り組みには、この新しいiPhoneの販売に賭ける思い入れ(狙いや戦略)の違いが感じられます。モバイル回線契約については純粋の新規顧客は既に少数なので、NTTドコモでは他社からの乗り換え組か、従来タイプの携帯(いわゆるガラケー)からの移行組をターゲットとしていると見られます。他方、取り扱い開始時期が早く既に多くのユーザーがiPhoneに移行しているソフトバンク、固定回線サービスと一体型でiPhoneを進めてきたKDDIの2社には姿勢の違いがあるように思われます。かねてより準備怠りなく比較的冷静に受けて立つソフトバンク(鉾先は既に海外か?)、ネットワークの自信から落ち着いた対応のKDDI(通信政策面の利点を享受?)に対し、顧客獲得の劣勢回復に力の入っているNTTドコモといったところでしょう。

このように新型iPhoneの発売によってモバイル通信サービスの市場競争が活性化するなか、その販売戦略において、モバイル通信市場全体やユーザー全体の視点から気懸りなことが散見されるので、ここで指摘しておきたいと思います。

それは、iPhone購入を契機に、他社からの乗り換えや他端末からの買い換えに対して特に優遇するキャッシュバックや割引の特典が大きく付与されていることです。顧客獲得や流出防止のため市場競争上、競争各社の取り組みはやむを得ないものであり、それこそ市場競争そのものと言えるものであることは十分に理解できます。しかし、その一方で弊害が伴うことを忘れてはいけません。つまり、何故iPhone購入者だけ、それも通信会社を乗り換えるユーザーが特に条件面で優遇されるのか、当事者以外にはなかなか納得のいかない問題です。結局のところ、個々の競争は当然としても、全体として市場を歪めないための仕組みや制度のあり方にこの問題は帰着するのではないでしょうか。

市場競争の活性化のため、消費者(ユーザー)間の不公平是正や消費者の選択肢拡大を目指して、これまでMNPの仕組みを導入し、モバイル端末販売と通信サービス料金の会計計上を切り離し、さらにSIMロック解除を進めてきた政策当局及びモバイル通信業界ですが、最近では、iPhoneの販売とその影響下の端末販売競争の結果、“実質○○円”の値札の下、端末価格と通信料金とポイント還元、さらにその他のキャッシュバックが混然一体化し、MNP政策だけが唯一活かされた市場実態が生じてしまっています。

端末価格の値引きが通信事業者の通信料金のあり方や水準を不透明にし市場競争を歪めるとの判断か    ら、これを切り離すべく会計規則を改めたのはほんの数年前、その結果、当時は端末価格が上昇して「官製不況」とまで揶揄される事態となったことは記憶に新しいところです。さらに端末による顧客の過度な抱え込みを回避するため、日本では当時ユーザーの多くの声とまでは言いにくいレベルであったSIMロックの解除(要請・提起)にまで踏み込んだ政策当局の行動は、いまやiPhone騒ぎのなか、どこかに追いやられてしまっているようです。現実に今回もまた、iPhoneはすべてSIMロックとなっていて、さらにロック解除の方針や取り扱いは各社とも触れていません。加えて、政策当局からもSIMロック解除に踏み込んだ措置については何もありません。これまで進めてきた一連の競争促進、即ち、消費者の利便向上・選択肢拡大の政策方針と市場で現実に見られるiPhone販売を巡る各種の取り扱いとはどういう関係となっているのかに疑問が残ります。

結局、ここ数年、ソフトバンクのiPhone発売を契機にMNPの利用者増大、市場シェアの変動、端末とサービス価格の引下げなどの競争成果が見られたので、従来の政策推進の道筋が一時的に停滞していたのではないかと思われてなりません。確かに最大シェアを持つNTTドコモとの競争が市場活性化に繋がったことは事実でしょう。ただ、それはiPhoneという端末の魅力のためであり、政策の方向と矛盾していなかったということなので、これから通信3社が等しくiPhoneを取り扱うことで再びユーザーの選択肢を制約したり、端末と通信サービスの価格未分離の不透明さに立ち戻ってはならないものと考えます。

モバイル通信3社の端末販売競争が当事者間の取り組みで進展した現在、iPhone販売をテコにした市場活性化の方途は困難になりますので、政策的には原点に立ち戻って、端末販売と通信サービスのより一層の会計分離の明確化、SIMロック解除の方向性(考え方や方法・時期など)の明示、さらには、下取り価格への市場性導入(中古市場の改善・育成など)といった政策のさらなる進展を望みたいと思います。そして、その先には当然、MVNOの影響力の増大があり、個別の特色あるMVNOのサービスによってモバイル通信市場全体の拡大が図られることが必要です。その際、これまで見られたような最大事業者のシェア移行をもって市場活性化とみるような視点ではなく、ユーザーの利便向上や選択肢拡大のために、MVNOへの接続の取り扱いや約款上の非対称規制、さらにはモバイル通信と固定通信との事業領域制約など、根本的な問題を含めて再構築が求められます。

まずは、端末販売方式の改善(健全化)及びSIMロック解除の方針と取り扱いの具体化など既存の政策の道筋の途中にあって、できるところから早急に取り組んでいくことが市場全体、ユーザー全体の声に沿う道だと考えます。

株式会社情報通信総合研究所
相談役 平田 正之

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