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InfoCom World Trend Report
2014年7月24日掲載

2014年6月号(No.303)

4月〜5月にかけて、携帯通信3社が2014年3月期の決算を発表しました。3社3様の決算内容であり、市場評価にも大きな違いが見られたところです。既に新聞等マスコミやアナリストレポートで報道や解説がされていますが、改めてここで3社のこれからの取り組みの方向性を中心に整理しておきたいと思います。但し、携帯通信3社の比較なのでNTTの決算はここでは取り上げません。取り上げる3社の順番ですが、今回の決算値の売上高順に従って、ソフトバンク、NTTドコモ、KDDIの順にまとめてみます。

  1. ソフトバンクは売上規模6.7兆円、営業利益1.09兆円で3社中売上高トップ、1兆円超の営業利益を達成、売上・利益とも成長率も3社中第1位となりました。米国スプリント社買収に象徴される各種のM&Aの実現とその連結グループ各社の好業績が成果でした。
  2. NTTドコモは市場トップは維持しているものの、シェアの漸減が続き、売上・利益とも苦戦。減収減益となり、売上・利益ともソフトバンクに抜かれ二番手となりました。
  3. KDDIは本業が携帯・固定のセット販売で好調なのに加えて、CATV分野の統合を進めて売上・利益とも順調な伸びを示しています。

決算発表に際して、またはそれに関連して3社の社長が語った内容の中に、決算数値以上に今後の事業運営の考え方や方向が示されていたので誠に興味深いものがありました。決算発表から2カ月近くが経過して、既に新年度の取り組みが数多く見られますが、3社3様の方向性を感じましたので、少し原点に立ち戻ってここで整理しておきたいと思います。

ソフトバンクは特に営業利益1兆円の短期間での到達に大きな自信をみせ、次はNTT越えを目指すと目標をリセットしました。引き続き、追い付け、追い越せの企業競争路線の継続です。NTTドコモが発表している新しい料金プラン「カケホーダイ&パケあえる」への対抗策としては、自社の新プラン「スマ放題」の提供時期を見直すと明らかにしていますが、具体的な時期と内容については、決算発表時には、1〜2カ月で発表するまたはNTTドコモの結果をみる可能性を示唆するに止まりました(6月7日に「スマ放題」を7月から開始すると発表)。加えて従来恒例となっていた夏モデル端末の発表会開催を見送る意向を示すとともに、さらに今後は新機種の一斉発表会自体を見合わせるとしました。これらの一連の動きからは、経営成果として投資家向けには、企業成長、M&A戦略、事業動向を訴求しているものの、携帯通信サービスの提供者としては、特に携帯端末のSIMロックフリー化(解除)についてユーザーの要望や世界の潮流に反して冷めた姿勢を示していて、ユーザー向けの対応においては物足りない印象でした。サービス面では、面的・質的な接続品質の向上を積極的にアピールしていましたが、決算発表の場という制約の下にあるものの、現在情報通信審議会特別部会で論議されているような、2020年代の通信サービスの展開には直接的な言及は見受けられませんでした。

次いで、NTTドコモは企業業績には見るべき成果を欠いていたものの、新料金プラン「カケホーダイ&パケあえる」を直前に発表し、また今夏(6月下旬)のVoLTE開始予定を明らかにするなどサービス面での取り組みを表明していました。なかでも2015年度内のLTE-Advanced(本来の4G)の導入計画を示したことはサービス面で注目されます。

最後に、最も関心を集めたのはKDDIでした、携帯と固定のセット販売の成果に加えて、新端末発表の場でCA(キャリアアグリゲーション)機能を搭載したLTE-Advanced対応機種を打ち出して、新世代(4G)サービスの国内一番乗りを宣言し、今後の主役はauとの印象をユーザーに与えていました。併せて、auWALLETの発表もあってイノベーションに最も前向きとの訴求にも熱心でした。

以上のとおり、ネットワーク構築やスマートフォンの普及など成熟化している日本の携帯通信市場で3社3様の方向性を示していたのが、今回の決算発表でした。こうした3社(社長)3様の展望や方向性の相違の根本は、携帯通信市場の成熟化(普及率の上昇)に対する捉え方に起因していると感じています。さらには、通信市場という特定の事業分野についてのこだわりと事業成長に対する価値観に違いがあるように思われてなりません。これは良し悪しの次元ではなく、事業観、経営観のようなものですので、経営トップの思考・行動様式や事業関係者のDNAに類するものと言ってよいと思います。

具体的には、事業の成長期にはいかに早く当該分野の成長を取り込むのかが市場で競争する者にとって共通の狙いであって、大胆に決断し行動を徹底することが課題となります。要するに新しい市場を創造して囲い込む方法です。しかし、成熟期に向かう流れでは、競合相手から顧客を奪う、自社顧客を競合から守ることに注力することになります。成長期/成熟期の境はサービス全体の契約数の伸びの鈍化と競合会社間の顧客移動の増加にあります。この間に製品やサービス、価格に大きな違いや差があれば顧客の選択は当然起こりえることですが、本来の製品・サービス・価格などが成熟化に伴い均質化してくると、少し前までみられた過度なキャッシュバックによるユーザー争奪戦のようなことになってしまい不毛な競争に陥ってしまいかねません。決算発表を機に、当局やマスコミ、既存ユーザー等の世間の目を意識してさすがにこうした過激な行為は沈静化していますが、まだまだ残念ながら予断を許しません。

こうしたなか、日本の携帯通信市場の中核の成長を意識した方向性を示したKDDI、市場成長を物販、健康、決済などの情報通信関連分野に重点化したNTTドコモ、また、国内携帯通信市場に止まらず世界市場への進出と広くインターネットやゲームなどの分野へのM&Aによる拡大を果すソフトバンク、というように次なる成長分野の認識に違いがみられます。それぞれの会社が持つ企業文化と経営トップの個性・姿勢によって違いが生ずるのは当然ですが、各社がどこに次なる成長領域を作り上げていくのかに注目しています、私自身は競合による消耗ではなく、新しいイノベーションによる価値創造に着目して、IoTこそ今後の成長のカギと考えています。それも通信トラフィックに基づく通信料ベースではない、新サービス提供による収入(付加価値)のレベニューシェアを収益源とする取り組みこそ、成長戦略のポイントである考えています。その際、NTT東西が新たに提供予定の光アクセスの「サービス卸」を活用したリアルビジネスと通信の融合がキードライバーになると予想します。この点、現在の携帯通信3社の取り組みの方向性とは少し違っています。

最後に今回の決算発表のなかで、異和感を感じたことを1点述べたいと思います、マスコミ的に話題を集めたソフトバンクの営業利益1兆円達成に関して、1兆円到達までの年数が語られていました。ソフトバンクの早期(短期間での)達成にはもちろん異論はありません。しかし、例えば、NTTとの比較において逓信省設立の1885年からの年数をあげていましたが、どうでもよいことかも知れませんが、長く電信電話事業に関与してきた私には何か異和感が残ります。つまり、日本の電話サービスの開始は1890年なので設立当時の逓信省には郵便と電報だけで電話事業はありませんでした。また、NTTグループの一員ですが、NTTドコモ自身は営業開始から9年目(ポケットベル開始からは46年目、自動車電話開始からは35年目)の2002年3月期から2004年3月期までの3年間に渉り営業利益は1兆円を超えていました。私がここで申し上げたいことは、自動車・携帯サービスの成長拡大がいかに急速であったかということです。成長の波に上手に乗れば急激に拡大する訳ですが問題はむしろ、NTTドコモがその後営業利益1兆円を割り込んで以来、1兆円のレベルに回復していないことにあるのではないでしょうか。トヨタ自動車は2009年3月期に1期営業赤字に転落しましたが、その後5期目の2013年3月期には再び営業利益1兆円にV字回復を成し遂げていますので、営業利益1兆円の維持こそ大切な点だと感じます。厳しいようですが、NTTドコモは現在まで市場が成熟するなか、新しい成長の柱を創造できていないことがポイントでしょう。

ソフトバンクの営業利益1兆円超えが今後どうなるのか、その成果に注目しています。また、NTTドコモやKDDIの成熟市場を見据えた成長戦略が楽しみです。総務省での「2020年代に向けた情報通信政策の在り方」論議においても、今後の通信各社の取り組みの支障とならず、これを支援・拡充することでユーザー利便の向上が図られる施策に結びつくことを期待しています。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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