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InfoCom World Trend Report
2014年10月24日掲載

2014年9月号(No.306)

※この記事は、会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

2013年末に全移動通信事業者のLTEサービスが出揃った英国では、4社中で唯一の非外資系であるVodafone UKが苦戦を続けている(EEはドイツとフランス、O2 UKはスペイン、3 UKは香港資本)。その主な原因としては、LTEのネットワーク面もさることながら、料金面によるところが大きいと思われる。2010年4月にT-Mobile UKとOrange UKが統合してEEが誕生して以来、英国のモバイル市場は4社体制となっている一方、固定通信事業者のBTが本格的にモバイル市場に再参入する準備を進めている。そのため、英国のモバイル市場は今後、競争激化が必至だ。Vodafone UKはこれにどう立ち向かうのだろうか。

英国におけるLTEサービスの概況

英国ではLTEサービス向け周波数の割り当てが欧州主要国の中で最も遅れたこともあり、2012年10月になってようやくEEによる最初の商用LTEサービスが始まった。その後、O2 UKとVodafone UKが相次いで2013年8月に、最後の3 UKも2013年12月にLTEサービスを開始し、全移動通信事業者のLTEサービスが出揃った。

規制当局Ofcomが2014年8月に発行した“The Communications Market Report”によれば、2014年3月末時点において、EEのLTEネットワークの人口カバー率が73%と最大のカバレッジを誇る。これに41%のO2 UK、36%のVodafone UKと続く。なお、3 UKはLTEネットワークの人口カバー率を公表していないが、36都市がサービス地域になっているとしている。

LTEサービスの開始時期で先行したEEがネットワークカバレッジの点でも他をリードする形だが、残りの3社も急ピッチでLTEネットワークの拡張を進めている。

また、2014年第2四半期末時点における英国全体のLTEサービス加入数は約920万件となっている。しかし、このうちVodafone UKが占める割合は10%にも満たない。なお、モバイル市場全体のシェアは首位のEEが34%、O2 UKが32%、Vodafone UKが22%、3 UKが12%となっている。これはVodafone UKにとってかなりアンバランスな状況だと言えるが、何に起因しているのだろうか。

Vodafone UKの低迷要因は料金が濃厚

同4社のLTEサービス加入数とLTE料金の水準の関係を見てみると、実に興味深いことが分かる。
Vodafone UKの最安LTE料金プランは、データ利用上限が1GBのSIMオンリーのもので月額22.00ポンドだ。一方、競合各社の最安かつ同等(データ利用上限が1GBでSIMオンリー)内容の料金プランを見ると、EEが同16.99ポンド、O2 UKが同16.00ポンド、3 UKが同13.00ポンドとなっている。

一方、同4社のLTEサービス加入数は420万件のEE、210万件のO2 UK、200万件の3 UK、90万件のVodafone UKという順になっている。前出の同4社のLTEネットワークの人口カバー率に照らすと、EEとO2 UKまでは順当だが、3 UKとVodafone UKに関しては比例していない。

なお、同4社のLTEサービス加入数とLTE料金の水準の関係を一覧すると、グラフ1のようになる。

【グラフ1】各社の最安LTE料金とLTEサービス加入数
【グラフ1】各社の最安LTE料金とLTEサービス加入数(各社発表の数値から情報通信総合研究所作成)

(出展:各社発表の数値から情報通信総合研究所作成)

【グラフ2】各社のLTEサービス加入数とLTE人口カバー率
【グラフ2】各社のLTEサービス加入数とLTE人口カバー率(各社発表の数値から情報通信総合研究所作成)

(出展:各社発表の数値から情報通信総合研究所作成)

【グラフ3】各社のLTE市場シェアと全体の市場シェア
【グラフ3】各社のLTE市場シェアと全体の市場シェア(各社発表の数値から情報通信総合研究所作成)

(出展:各社発表の数値から情報通信総合研究所作成)

プレミアム料金は内容を問わず敬遠傾向

つまり、競合各社が比較的安価なLTE料金を提供している一方、Vodafone UKはプレミアム料金を維持している。ただし、Vodafone UKはLTE料金を高額に設定する代わりに、Netflix、Sky Sports、Spotifyへのアクセスを6か月間無料とすることを主な訴求点としている。しかし、結果的にこのようなサービス内容はユーザからの支持を得られていないということが示されている。

Netflix、Sky Sports、Spotifyといったコンテンツをバンドリングすること自体の評判が悪いわけではない。しかし、これらのコンテンツを利用している(あるいは利用したいと思っている)ユーザは、Vodafone UKに加入せずとも、他の手段を通じて利用するものと推察できる。少なくとも、コンテンツのバンドリングに月額5ポンド(Vodafone UKとEEの最安LTE料金プランの差額)分以上の価値があると感じているユーザは多くないということだ。したがって、設計や狙いはともかく、結果的にVodafone UKのプレミアム料金戦略は成功しているとは言い難い。

Vodafone UKにかかる値下げ圧力

LTEサービスにプレミアム料金を採用し続ける限り、Vodafone UKは今後も苦しい戦いを強いられるだろう。Vodafone UKはこれまで2G市場や3G市場でもブランド力を根拠としてプレミアム料金で勝負してきたという経緯があるため、伝統に照らせば自然な動きと捉えられなくはない。しかし、同社は今日、強力な値下げ圧力に晒されている。

また、BTは現在、EEのネットワークを利用するMVNOとしてモバイルサービスを提供している。しかし、BTは今後、それに留まらず、オークションで落札した2.6GHz帯周波数を使って2014年中に本格的なコンシューマ向けLTEサービスも開始するというロードマップを描いている。これが実現すれば、Vodafone UKに対する値下げ圧力はさらに強まるだろう。BTは約740万件のブロードバンドサービス加入数を抱えており、これを基盤としてモバイル市場戦線に食い込んでくると思われる。

総じて、Vodafone UKが近い将来に値下げに踏み切る可能性は十分に考えられる。譲歩して値下げできれば、LTEネットワークカバレッジの拡張ペースに伴って、LTE市場における競争力を取り戻し、巻き返しを図ることができるだろう。BTのモバイル市場への再参入などを含む新たな競争の局面を迎えるには、それが前提となりそうだ。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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