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Global Perspective 2011
2011年1月6日掲載

トルクメニスタン:ロシアMTSのライセンスを剥奪

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 2010年12月21日、ロシアMTSは、トルクメニスタン政府当局によりトルクメニスタンでのライセンスを剥奪されるとの発表を行った。

 ロシアMTSの子会社BCTIは、トルクメニスタンで約240万ユーザ(約80%以上のシェア)をもつトルクメニスタン最大のキャリア。ライバル企業は、国営企業のAltyn Asyrのみで全部で2キャリアしかない。

 ライセンス剥奪通告を当局から受けたBCTIは、2011年1月1日から通信網の撤去するようにも命じられており、2012年2月1日をもってトルクメニスタンで営業ライセンスが停止されるとのこと。
ライセンス剥奪の理由は公表されていない。
MTSは、全ての契約内容を遵守しており、ライセンス剥奪に正当な理由はないとコメントしている。MTSは国際仲裁機関(ICC)に提訴し、引き続きトルクメニスタン当局との協議を継続している。BTCIは売上の20%(2009年は約1,000万ドル)をトルクメニスタン政府に払っている。

 MTSはロシアの携帯電話加入者率が150%を超える飽和状態で、海外への進出も積極的でウクライナ、ベラルーシ、ウズベキスタン、アルメニア、トルクメニスタンで事業を展開し最近ではインドにも進出している。
 トルクメニスタンでの売上は全体の1.9%、純利益の2.7%を占めており、今回本当にトルクメニスタンでの事業を停止させられると、1年で約1.6億ドルの損失があると報じられている。

 前代未聞の当局からの通達で本当にライセンス剥奪になった場合に一番迷惑するのは約240万人のBTCIのユーザで、一番得をするのは、残った1社の国営企業のAltyn Asyrだ。

 トルクメニスタンと携帯電話事情について以下に簡単に明記する。

【トルクメニスタン簡易概略】
トルクメニスタンは1991年にソ連から独立。
1995年12月、国連総会で「永世中立国」として承認される。
ニヤゾフ大統領は個人崇拝による独裁体制で、2002年8月には終身大統領とされた。
ニヤゾフ大統領の金メッキの像が太陽を追って24時間回転し続けていた。
インターネットも禁止で、情報統制もされていた。ニヤゾフ大統領が禁煙中だから、国家ごと煙草禁止や映画館封鎖、バレエ上演禁止というような、失笑してしまうような法律も多々あった。
ニヤゾフ大統領死去後の現在ではだいぶ緩和されてきていてインターネットも利用可能になった。
欧米からは「中央アジアの北朝鮮」「中央アジアのイラク」と揶揄された。
しかし、天然ガスの埋蔵量が世界第4位で、天然ガスや綿花の輸出により潤沢な資金があるため、独裁国家だが、国民は生活には困っていなかった。
食料品や日用品、住居等の物価は低く抑えられ、教育、医療、電気、ガス、水道は無料である。働かなくても生活に困らないのか、失業率は30%と高いのが皮肉。
2006年12月ニヤゾフ大統領が死去し、グルバングル・ベルディムハメドフ大統領代行が、大統領に就任している。(北朝鮮のような世襲化はしていない)

(基礎データ)
首都:アシガバート
人口:約510万人
公用語:トルクメン語、ロシア語
民族:トルクメン人が85%、他ロシア人、ウクライナ人
宗教:イスラム教(独裁国家だったが、宗教は禁止していなかった)

携帯電話事情についての簡易概略:
携帯電話加入者数は約297万人、普及率約55%、成長率約9%(2010年9月現在)
(近隣諸国のカザフスタンの普及率は約100%、ウズベキスタンは約68%)
キャリアは以下の2社のみ。

1.MTSトルクメニスタン(BTCI)

  • ロシアMTSの子会社
  • シェア約80%

2.Altyn Asyr(TM-Cell)

  • ホームページなし。
  • 国営企業Turkmentelecomの子会社
  • シェア約20%
  • ブランド名のAltyn Asyrとは、ニヤゾフ大統領が好きだった言葉「Golden Age」という意味。

 今回のトルクメニスタン当局による突然のロシアMTS子会社BTCIのライセンス剥奪の背後には何があるのか正式な見解は出ていない。
ロシアとトルクメニスタン間でのパイプラインをめぐる両国でのビジネス関係の緊張状態の一環にあるのではないかという憶測も報じられているが定かではない。
歴史的にもトルクメニスタンはロシアに良い感情は持っていない。
しかし、先述した通り、2012年2月1日でBTCIのライセンスが剥奪され、ネットワーク、携帯電話が停止したら、一番迷惑を被るのは既存の240万人の顧客である。
彼らは使えなくなったBTCIのSIMカードから、Altyn Asyrに乗り換えなくてはならない。
まさに漁夫の利だ。そして、Altyn Asyrの独占状態になり、市場での競争がなくなる。
まだ加入率が約55%と今後の成長の余地ある市場なのだが、このままでは先行き不安な状態である。おそらく当面はどこの外資系キャリアも受け入れないのではないだろうか。
トルクメニスタン政府にはお客様視点という観点は全く見受けない。独裁国家だったから仕方がないのだろうが、このような前代未聞の暴挙に驚きを隠せない。
今後、トルクメニスタンの携帯電話市場は一体どうなってしまうのか、引き続き注目が必要。

【参考動画:トルクメニスタン紹介ビデオ】
【参考動画:ニヤゾフ大統領の独裁と「中央アジアの北朝鮮」と揶揄されるのかがわかる。】 動画を見る
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