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ソフトバンクによるイー・アクセス買収の背景と問題点

情報通信総合研究所 グローバル研究グループ
2012年10月2日


ソフトバンクは10月1日、イー・アクセス(イー・モバイル)を株式交換で買収し、年度内をめどに完全子会社化すると発表しました。弊社モバイルチームではこの買収の背景、問題点、利点、将来像について、下記7点のように見ています。

(1) イー・アクセスの1.7GHzは、iPhone5で対応可能

イー・アクセスの1.7GHz帯はLTEの国際標準帯域(Band3)であり、この帯域にiPhone5が対応している。これがイー・アクセスの企業価値を大きく上げ、ソフトバンクの買収を後押ししたことは明らかだ。ソフトバンクのLTEへのこだわりは、「Wi-Fiを切ってでもLTE」という孫社長の会見発言からも明らかだ。

(2) プラチナバンド整備の遅れを挽回

両社は設備面での親和性が高く(設備ベンダーが共通)、また音声通話ならタイムラグが気になるローミング接続もLTEのパケット通信なら気にならないだろう。大都市圏(とくに首都圏)におけるプラチナバンドでの設備展開に苦心するソフトバンクにとって、合併による遅れを一気に挽回できるかもしれない。

(3) 周波数を会社まるごと買う

ソフトバンクが最も欲しかったのはイー・アクセスの周波数。周波数の二次売買ができない日本では、会社まるごと買収するしかない。これはウィルコム然り。 なお、これで通信事業者の競争体制は4グループから3グループとなる。競争企業数の減少を、規制当局はどう考えるか注目する必要がある。

(4) 周波数保有シェアという観点

規制当局は、周波数の保有シェアという観点を、通信事業者を規制対象とする/しないの判断基準に入れざるを得なくなるかもしれない。周波数保有シェアではソフトバンクが国内首位となるためだ。具体的には、着信接続料規制でソフトバンクを優遇しなくなる、などが想定される。

(5) ソフトバンクは、基地局資産も手に入れる

周波数はもちろん、土地の交渉など基地局建設で時間がかかるという課題を極めて短期間に解決できる「買収」はメリットが大きい。なおソフトバンクの基地局とイー・アクセスの基地局は現状、異なる周波数帯を使っているが、同じ周波数帯で運用しようとすると、干渉対策など技術面での工夫が必要だ。

(6) 買収額は高いのか安いのか

1.7GHz(世界的には1.8GHz)帯の周波数免許は、ドイツ(2010年)では高騰せず(プラチナバンドは高騰)、英国で近々予定されている周波数オークションのルール(2012年7月発表)では、この帯域の2×15MHz幅の最低価格は2.25億ポンド(300億円弱)である。
しかし、これらはiPhone5登場以前の話である。iPhone5がこの帯域の価値を大きく上げた。現在稼働中のLTE設備もろとも約2,000億円というのは、設備投資規模、また時間も買うと思えばひどく高い買い物ではなさそうだ。

(7) NTTドコモとKDDI(au)、どちらにとって「痛い」のか

iPhone5勝負で、LTEサービスでの優位が伝えられたKDDI(au)も買収交渉をしていたと報じられた。逃した魚は大きい。しかも買収対象となる通信事業者は残っていない。
一方、NTTドコモはここまで「LTE」で先行し「Android」を武器に戦ってきたが、LTE勝負でソフトバンクの急追がほぼ確実。LTEでの優位性を維持できるか、さらにその差を広げられるかに注目したい。

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