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志村一隆「ロックメディア」
2008年2月掲載
ロックメディア 第4回

電子書籍と小説家のチャンス、レコード会社と出版社


志村一隆(略歴はこちら)
 本が売れなくなったといわれ久しい。その理由として誰もがあげるのがインターネットの影響だ。草思社の倒産、駐車場になってしまう本屋、シャッター通りになっている神保町。確かに、ぴあで調べていた映画館の上映時間は、インターネットで調べるようになった。でも一方で、毎月25 日にでる北方謙三の水滸伝は楽しみだ。パソコンで水滸伝は無理だ。

 本というデバイスには、紙というOS(と呼んでいいのか・・・まぁ仮に)に2 種類のコンテンツ、「情報」と「小説」が垂直統合されていた。このうち、「情報」分野は、コンテンツ流通手段が、インターネットに置き換わってしまった。「情報」はなにかをするために知るもので、なるべく情報自体はタダなほうがいい。本が売れなくなったという話の正体は、「情報」をアグリゲートする役割が「情報誌」から「ヤフー」に移ってしまったということだろう。(書籍も1997年頃から市場規模が縮小している。2007年休刊した雑誌点数は、史上最多の218誌になった。出版科学研究所より)

本で流通するコンテンツのうち、「情報」がインターネットに置き換わった

 もうひとつのコンテンツ、「小説」はというと、紙というOS がデジタルに置き換わることができないおかげで、インターネットの大波の下で息をひそめてきた。紙、本は、なんといっても寝そべっても読めるし、モニターを見ているより目に優しい。めくったページが多くなるにつれ、物語の世界にハマっていく実感がともなう。なにより、水滸伝を読むのが目的だし、水滸伝は本を買わないと読めない。

 そこで、電子書籍である。アマゾンが昨年「Kindle」を発売し話題になった。「Kindle」の重要なポイントは、画面表示がインクで、紙の代替手段になるという点である。長編小説を読むのも問題がなさそうであり、紙という不滅に思えたOS が置き換わられる可能性が大きくなっている。

 これは、作家にとってまたとないチャンスだ。今までは、出版社がコンテンツ開発、宣伝、配本する本というデバイスを中心にした垂直統合モデルでしか、作品を発表できなかった。これからは、大手企業が拡大した電子書籍端末市場へ、作家が読者に直接届けることができる。ようやく、小説の世界でも知られざるクリエーターにチャンスが増えることになる。

 音楽の世界では、出版社より一歩先を進んでいる。2007 年には、Radioheadなどビッグネームが自分のサイトで楽曲のダウンロードを始める動きが活発になった。ビッグネームは直販体制を志向し、レコード会社はロングテールの中から新しい才能を発掘、マネジメントする方向に戦略変更している。あるアメリカの音楽関係者と話していたら、「ローカルに考え、グローバルに行動する」ことが重要だということを言っていた。出版社の役割も、レコード会社のように変化、ローカルな才能が翔く時代になる。

ちなみに・・・・

 電子ペーパーの特許を握るE Ink 社は、次世代のマイクロソフトになる可能性を秘めている。アマゾンの「Kindle」、ソニーの「LIBRIe」「ソニー・リーダー」は、この会社の技術を用いている。EInk 社の技術は、紙を見ているのと同じ反射光を利用し文字を認識させる。原理は、ごく小さなカプセルの中に入ってる黒(-に帯電)と白(+に帯電)の粒子を、電気を流すことで表示させる黒白の粒子量を調整し、文字、形を浮かび上がらす。1ミリより薄く、紙のように曲げられるし、電気が必要なのは表示を変えるときだけだから、消費電力も少ない。

 書類作り、経理処理、ブログ、SNS、パソコンで楽しめるコンテンツジャンルが広がれば広がるほど、パソコンが普及しマイクロソフトが儲かった。紙の代替需要は、電子書籍というデバイスだけではない。屋外広告、建物の外装、インテリアなど様々に用途が考えられる。そして、用途が拡大すればするほど、電子ペーパー技術というOSを握るE Ink 社が儲かる仕組みになっている。大きなイノベーションに投資するチャンスはまだ残っている。

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