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志村一隆「ロックメディア」
2008年3月掲載
ロックメディア 第8回

オーバースペックな作り手の欲望、主体的な視聴者の誕生


志村一隆(略歴はこちら)
 テレビは受動的なメディアだといわれる。しかし、視聴者は受動的だろうか?

 読者の皆さんは、ザッピングという言葉を聴いたことがあるだろう。番組がつまらないと思ったら、すぐチャンネルを変えてしまうことを、ザッピングと呼ぶ。ザッピングは、テレビを受動的ではなく、主体的に視聴しようとする工夫ではないか。

 インターネットに映像が散在するようになると、何を見るか主体性が必要だ。テレビチャンネルのような枠組みがないインターネットでは、コンテンツを探すために、検索技術が重要性を増す。

 特定の番組タイトルをいれるだけでなく、「癒されたい」とか「泣きたい」とか抽象的な検索ワードでも検索できたら嬉しい。アメリカの“Tivo”というソニーの「スゴ録」のようなサービスを提供している会社は、今非常に注目を集めている。

 というようなことを書こうと思い、あるテレビマンと話をしていたら、

「ある時間にテレビの前にいないと見れない、という風にしないと番組なんか見てくれないよ」と言っていた。この深く重いテレビマンの実感に、あらためて「現場と研究」、「視聴者とコンテンツ制作者」、「インターネットとテレビ」といった違いを考えさせられた。

[図表]

 要らない機能ばかり盛り込んだオーバースペックな商品を見て笑ってしまうことがあるが、研究にもオーバースペックな研究ってある。アメリカやインターネットの動向を追っていると、いつの間にか現実を超えてしまうのだ。

 たとえば、消費者に編成権が移り、ビデオオンデマンドがこれから主流になるという結論はアメリカの現状を追って作り上げたものであって、実際に編集スタジオ(たいてい薄暗い)で、映像を編集している人たちはそんなこと考えていない。

 現実に働いている人が考えてなければ(ビデオオンデマンドには人気コンテンツをださないとか、そちらに投資する人がいないとか、現実的には色々なことがある)、ロジカルに考えた結論どおりには物事は進まない。

 ただ、制作者側もオーバースペックな実感というものがある。長年変化のない組織は、自らのセオリー、伝統に頼りすぎ、コンテンツの評価をお客さんの支持ではなく、身内、国からの権威づけで格付けする傾向がある。

 テレビ局が、テレビは受動的なメディアであるという制作者側からのオーバースペックな自意識にとどまっている限り、主体的な消費者が主体的な手段を手にいれたときに、どうしたらテレビを見てもらえるかわからないだろう。

 テレビ局のコア技術である番組編成ノウハウは、テレビをスイッチオンしている人に向けての技術だ。今後のテレビ局にとって、テレビをつけない人たちへのマーケティング技術が重要となってくるのではないか。

[図表]

 アメリカやイギリスのテレビ局は、テレビという24時間×7日間よりも広くならないマーケットから外にでて、インターネットでドラマを配信するサービスを開始している。

 そして、次に注目されているのが、番組の検索技術であり、視聴データを持っている“Tivo”などの会社だ。

 TivoやTVガイドなどの番組検索画面を表示して、画面に見たい番組、たとえば“CSI”と入力すると、たいてい“CSI”のどのエピソードがこの1週間以内にどのチャンネルで放送するかを表示してくれる。

 オンデマンドの世界では、チャンネルを選択して見たい番組を見るのではなく、見たい番組タイトルが最初のタッチングポイントになる。

[家電店で売られるTivo 299ドル(左)、コムキャストと提携。「CSI」を検索しているところ(右)]

Tivo
  • 1997年の創業、会員440万人
  • 毎月8ドルから12ドルを払うと自分の好みの番組を自動的に録画してくれる
  • 2007年までDIRECTVと提携していたが解消、今年からはコムキャストと
  • 既に台湾に進出しており、漢字表記のTivoが存在している。

 「生じゃないと見ない」これも実感だが、見たいドラマは録画しても見る。見てもらって感動、発見などを与える商品が映像なのに、そのニーズを満たす商品がないことに尽きる。ビデオオンデマンドが「主流」になるかという結論はオーバースペックであるが、消費者としての自分を考えてみたときの実感であることは確かだ。

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