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2008年3月掲載 |
自分でモノを作ると自分で売ってみたくなる。だけど、自分で売ろうとすると、結構面倒で、結局全てお店に任せたほうがいいやということになる。かといって、人に預けるとあまり熱心に売ってくれなさそうで心配だ。
メーカーと流通という視点で、ビジネスを理解すると面白い。 メーカーと流通ではどちらが力をもつのか、なぜなのか、映像コンテンツの世界もこの視点で捉えると、テレビ局と映画会社、番組制作会社、ネット配信などの動きが整理される。 食品、ジュース、シャンプー、髭剃りとか値段勝負の生活必需品をコモディティとよぶ。必需品を売るお店は来店頻度も高いし繁盛する。売れている店はメーカーに対しパワーを発揮しそうである。売れてるお店が他のお店を合体していって、大きくて有名なチェーン店となる。 生活必需品ではないブランド品は、メーカーが強い。ルイ・ヴィトンとか、アップルなど自らのショップを作って、流通も支配する。 映像、エンターテイメントは、生活必需品ではない。ところが、映像には、世帯普及率100%の「テレビ」という強力な流通網がある。 テレビは映像をコモディティ化する。 テレビを映像チェーン店と考えると、映像の世界もメーカーより流通が強そうだ。日本の映画市場は約2000億円、テレビ広告市場は約2兆円だ。 ところが、アメリカではメーカーであるハリウッドの映画会社がテレビ局を傘下におさめている。 なぜなのだろうか? それは、1970年から1995年まで存在したフィン・シンルールという規制のおかげである。人為的に、テレビ市場の開放と著作権を制作会社にもたせるという2段構えでコンテンツ育成に力をいれた結果だ。
この規制で、テレビ局向けのドラマ制作の仕事がハリウッドに回ってきた。あたるかわからない映画制作は、ある種ギャンブル(投資ともいう)である。テレビの仕事は制作費を出してもらえるのでリスクがない。 さらに、コンテンツの権利はハリウッドの制作会社に帰属された(これも規制)ので、地方局、海外市場へ転売、ひとつのコンテンツが何回も稼ぐようになる。(日本の番組制作会社は、テレビ局編成部からの予算で番組を制作、著作権はテレビ局が保持する。お金を出しているのだから当然といえば当然だけれど・・・ドラマ終了後にでる「製作●●」というカットをみてみよう) こうして、ハリウッドの映画会社は息を吹き返し、1995年にディズニーがABCを買収するまでになった。現在、NBCはユニバーサル映画と合併、CBSはバイアコム(MTV、パラマウント映画などを保有)と緊密な関係にあり、テレビとハリウッドの力関係が逆転してしまった。 欧州にも、「国境なきテレビ指令」という規制があり、番組制作会社から番組を買わなければならない仕組みになっている。イギリスのテレビ局“Five”のように、外部から番組購入をするよう求められているメディアもある。 このように考えると、映像コンテンツ産業も商品がコモディティ化すると流通が強くなるという感覚は正しそうだ。 映像はテレビがないと必需品から嗜好品になる。嗜好品は必需品より市場は小さい。 今、アメリカのメディア・コングロマリットが劇場を豪華にしながら、インターネットに投資、SNSサイトなどを買収しているのは、テレビ、DVDの次にくる、映像を必需品化するメディアを探しているのである。
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