「ハリウッドはもっとシリコンバレーに通って、テクノロジーを学習するべきだ」
アンソニー・ズイカー、CSIプロデューサー NAB Showで
実際、ハリウッドとシリコンバレーの関係は深まっている。たとえば、2007年3月、ハリウッドの芸能事務所ウィリアム・モリス社と、シリコンバレーのベンチャーキャピタル、アクセル・パートナーズらは提携して、数千万ドルの資金を用意、デジタルメディアのベンチャー企業に投資するという。
人材交流も進んでいる。FOXとNBCのベンチャー「Hulu」のカイラーCEOは元アマゾンだし、CBS Interactive の、クインシー・スミス(Quincy Smith)CEOは、ヤフーのdel.icio.us買収などを手掛けた人物だ。先日CBSがCNETを買収したのも、スミス氏の昔のコネは生かされているハズだ。
そして、一番大きな変化が、シリコンバレー流の考え方、「規制・規格ではなくデファクト」というユーザー視点のコンセプトが、放送、ハリウッド(ハリウッドは元々そうだが・・)にも持ち込まれている。
結局、牛耳るハリウッド
テレビを見るのに、家でも海外のホテルでも迷うことはない。パソコンでは、GyaoとNBCだと、ちょっと手順が違う。動画を作る側も、テレビ局用には同じ機械で撮影すればOKだけど、インターネットや映画館の場合はちょっとややこしい。
そこを誰もが迷わない仕組みを我が社が作る、と頑張ってるのがアドビ、マイクロソフトだったり、ハリウッドが投資するHulu、iTunesの映像版を狙うアップルである。
インターネットで配信ビジネスを行うには、配信プラットフォーム、配信環境技術、デバイスが必要で、音楽の場合はアップルが全部一人でやっている。コンテンツを持っていない場合、全部一人でやったほうが、規模が大きくなるにつれ利幅が大きくなる。
ハリウッドは、アップルにとくに警戒を抱いている(※1)。音楽業界の轍を踏みたくないからだ。コンテンツを買ってくれる人が限られていると買い手の力が強くなる。iTunesのように、買い手がほぼ一人になるのは都合が悪い。
コンテンツを持っているハリウッドの動画配信への取組は、コンテンツ・ウィンドウをひとつ増やしてまた儲けようという感じだ。マーケティングの名言、テオドア・レビットの「消費者はドリルが欲しいのではなく、壁にあける穴が必要なのだ」を思い出してほしい。ユーザーは、映画が見たいのであって、パソコン画面が見たいわけではもちろんない。
コンテンツを持たないシリコンバレーの会社が動画配信ビジネスで頑張るには、必ずハリウッドのコンテンツが必要になるのをよく知っている。DVD、ビデオ、新たな メディア、ウィンドウが出てきては、コンテンツビジネスは儲かってきた。この辺が、動画配信ビジネスへのシリコンバレーとハリウッドの違いだ。
買い手がたくさんいる自由競争が続く限り、人気コンテンツをもつハリウッドは優位にたてる(※2)。人気のあるプラットフォームがでてきたら、テレビ局を買収したのと同じく買収すればよい。ハリウッドとシリコンバレーの融合は、きれいごとじゃなく進んでいく。
※1 ディズニーだけは、今のアイガーCEOになってから、アップルと仲がよさそう。スティーブ・ジョブス氏はディズニーの株主、取締役会のメンバーでもある。
※2 ひとつだけの懸念は、ハリウッドと関係のない新たなクリエイターが直接YouTube、Beboに動画コンテンツを
アップロードして、人気を博していることだろう。