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志村一隆「ロックメディア」
2009年10月27日掲載
ロックメディア 第34回

コンテンツ・ベンチャーVol.5
出版の革命〜雑誌からの解放〜
上坂真人氏インタビュー

[tweet]
本って出すのは難しい。でも、デジタルなら?大事なのは、メディアじゃなくてコンテンツだ。

上坂さんは、出版界の外資系エリート。しかし、生き方は『ロック』だ。本人は、中央線ジャズ派らしいけど。。。「マイナー志向」の上坂さんの人生、そして今後・・・を聞いてみました。

マイナー志向の早稲田魂

志村 こんにちはー

上坂 いやぁ、久しぶりぃ。

志村 新ビジネスはどんな感じですか?

上坂 順調ですよ。

志村 今日は、出版界の革命児、上坂さんのめくるめく人生を振り返りつつ、メディアの産業革命について話を伺えればと思ってます。

上坂 そんな大したもんじゃないよ。大学のクラブ活動の延長を続けている感じ。

志村 出版業界を目指したきっかけから伺いたいですけれど・・・

上坂 僕、早稲田なんだけど、そこで新聞作ってたんだね。

志村 えぇ。俺も早稲田・・・ 新聞の名前は?

上坂 早稲田タイムスっていうんだけど。

志村 うっ、聞いたことあるような、ないような・・・

上坂 部室が1号館の屋根裏部屋。天井が斜めなんだよ。この前見に行ったら、新しくなっていて、屋根裏につながるはずの階段がなかった。

志村 早稲田はだいぶ変わりましたよ。僕が大隈会館脇に借りてたアパートは変わってないんだよなぁ。ビフォア・アフターとかAERAに出てた。30年変わらないって。早稲田タイムスは、編集長?

上坂 まぁ、当時は全員編集、全員広告取り、全員販売という理想を掲げてたね。たくさん書きたければ、印刷代が増えるから、つらい広告取りもたくさんせねばならない。それで、毎号編集長は変わるの。

志村 なるほど。

上坂 本キャンのまわりの雀荘とかさ、あと当時あった学生ローンとか廻って、広告取ってね。映画館、外国語学校から形成外科まで。

志村 へー。チョコトンとか?

上坂 ん?それはオレたちんときは無かったよ。

志村 学生ローンって、学費とか借りるんすか?

上坂 みんな生活苦しかったからねぇ。まわりはみんな、借りていたなあ。

志村 上坂さんも?

上坂 いやオレは実家だったから。でも印刷代の前金のために、一度借りた。

志村 早稲田タイムスの部数ってどれくらいだったんすか?

上坂 5,000部だね。印刷は、中野刑務所だよ。

志村 へぇ〜

上坂 安いんだけど、仕事は遅かったね。

志村 ほー。定価はいくらだったんですか?

上坂 値段は覚えていないなあ。

志村 どんな事を書いてたの?

上坂 社会批判。大学当局から、キャンパスに関わる政治団体、宗教団体、なんでもかんでも、部員がおかしいと思ったことを、取材して、素直に書いてた。そうそう、「提灯記事」も書きましたよー。雀荘とかの広告主から言われるわけよ。記事書いてって。真剣に悩んでだけどねぇ。みんなで罪悪感を共有しながら書いてた。

志村 あはは。上坂さんが早稲田に居たのって、何年頃なんですか?

上坂 僕は1980年卒だね。

志村 高校は?東京でしたっけ?

上坂 都立富士高ですよ。

志村 新聞作りは高校から?

上坂 いや、高校は、ラグビー。

志村 ええっ。

上坂 マイナー志向なの、オレ。

志村 あぁ・・・ ポジションは?

上坂 スクラム・ハーフ。

志村 野球じゃないんだ。

上坂 野球も好きだったよ。大洋ファンだもん。

志村 3割打てない大打者松原誠

上坂 近藤昭仁とか。。。

志村 マイナーに筋金入ってますね。実家はどこっすか?

上坂 中野ですよ。2丁目。

志村 TAC(Tokyo Athletic Club:水泳教室があった。中央線乗ってると見える)あったあたり?

上坂 そうそう、すぐそば。小学校は桃ヶ丘小だから。

志村 僕TAC通ってたんですよねぇ。

上坂 あれ建つとき大変だったのよ。サウナ風呂ってあんまり一般的じゃなかったから、風俗施設と間違われて、変な噂が流れてさ。

業務系で就職 −ジャーナリズムの財政基盤を作りたい!

志村 早稲田出て、最初はドコ勤めたんでしたっけ?

上坂 朝日新聞。記者じゃなくて、業務系を受けたんだよね。

志村 ほー。そりゃまたなんでですか?

上坂 世の中にジャーナリズムを支える財政基盤、システムを作りたいみたいな青雲の志。学生時代にちょっと記者の人と付き合いがあって、記者は夜討ち朝駆けで、書きたい事書けないだろうと。それなら、自分の書きたい事はバイトで外部メディアに書こうと思ってね。それと当時、村上春樹がデビューして、僕の周り全員、僕も含めて「あ、オレも小説家になれる」って思ったの。

志村 ほー。

上坂 入社したらさ、同期80人いたんだけど、記者系、業務系から1人ずつ出版局に配属になるっていうのよ。

志村 ほーほー。

上坂 タマタマ俺が行くことになってしまったんだよ。

志村 ちょっと、残念?

上坂 当時は「雑誌を読むやつは軽薄、広告なんてのは、商業ジャーナリズムだっ!必要悪だ!」なんて言って、最も馬鹿にしてたからね。

志村 おー。反骨、反権力主義。

上坂 そーそー。

志村 いいですねぇ。早稲田ぽい。

上坂 認めてる雑誌は、朝日ジャーナルのみ。

志村 時代の空気?

上坂 いや。少数派でしょう。世間では「左手に朝日ジャーナル、右手に平凡パンチって」って言ってたから。

志村 普通はバランス取るんですねぇ。

上坂 朝日新聞社内でも出版と新聞じゃあ、立場も給料も違うわけよ。記者でも、政治部、経済部、社会部で手当てが違うんだよね。

志村 へぇー。

上坂 で、まぁ4年いたんだけど、全く学ぶモノが無かったなぁ。

出版社にもマーケティング戦略があってよい

志村 日経マグロウヒル(現:日経BP)は、偶然?

上坂 新聞広告で見たんですよ。それで電通の知り合いに聞いたわけ。そしたら、マジメでいい会社だよって言われてさ。

志村 なるほど。でも、当時4年で辞めるって珍しいんじゃ?

上坂 珍しいね。マイナー路線(笑)

志村 配属は、広告ですか?

上坂 人生ずっと広告営業ですよ。社長の室伏さんっていう人が、スゴい人で、欧米式の出版社経営を日本に持ってきた人なんだよね。日本の伝統的な出版社とはまったく異なる雑誌ビジネスをやろうとしてたね。社員も、メーカーとかMR出身とか、そういう人が多かった。

志村 ほー。

上坂 入社するとまずマーケティングの本を読まされるわけ。レビット、コトラー、ポーターとかさ。

志村 「ドリル自体じゃない、ドリルで開ける穴にニーズがあるのだよ」ってやつね

上坂 そー。読んでショック受けたね。マグロウヒルで出す雑誌も、「部数の多さじゃなくて、読者の質が重要なんだ」なんて言って。日経ビジネスは、「課長以上しか購読できません」って広告てたしね。30年前からターゲットメディアを本気でやってたんだね。

志村 ふーむ。

上坂 媒体資料も、細かいデータがたくさん掲載されててね、分厚いんだよ。アタッシュケース持ち歩いて営業してる出版社は、日経マグロウヒルだけでしょ。

志村 ほー。

上坂 企画書作って、広告提案するなんてのも、日経マグロウヒルだけだったなぁ。

志村 へー。

上坂 僕は「日経マイクロデバイス」っていう半導体製造技術者向けの雑誌の担当だったんだけど、14,000部で黒字だったからね。

志村 おー

上坂 定期購読だと、返本ゼロだし、読者のプロフィールがわかるから広告単価も高いんだよ。そして、広告は絶対値引きしない。

志村 本屋に売ってない?

上坂 そう。私のいた頃は本屋では売ってなかった。本屋以外にも、いい流通網あるでしょ、っていうのが基本コンセプトなのね。「日経デザイン」っていう雑誌を創刊したときは、企業のデザイン室や業界の会員名簿にダイレクトメール送ったり、デザイン事務所と取引ある企業を販売代理店にしたり、デザイン関係の展示会にブースだしたり、読者がいそうな場所に出掛けてPRしたよ。

志村 なるほどねー。でもどんな雑誌かわからないのに、どーしてみんな申し込むんですか?

上坂 創刊前に、準備号を3回出すんだよ。ちゃんとフルな企画で、取材して。それで、見込み客にセールスするんだね。

志村 マーケティングがしっかりしてれば、営業は不要っていう。コトラーだっけ?

上坂 そー、理論武装して、営業するっていうスタイルが自分にあってたね。広告出稿率は、業界でトップだったし、利益率も抜群でした。

志村 もー、そのころは学生の青い部分は抜けて?

上坂 そーだね。

志村 ふむふむ。

インターネットの無料モデルって雑誌が原型?

上坂 欧米の雑誌って、そもそも定期購読がメインなんですよ。

志村 へぇ。

上坂 しかも安いんだよ。キャンペーンによって値段も違うんだけど、『VOGUE』と『VANITY FAIR』が、1年間24ドルですよ。24冊だから1冊1ドルだね。定価の80%引きとかはしょっちゅうやっちゃう。。

志村 えぇぇー。そーなんすか。

上坂 毎月200円で分厚い雑誌が自宅に郵送されてさ、カード決済、自動更新だったら、定期購読止めないでしょ。それで部数を確保して、広告で儲けるんだよ。

志村 へぇぇー。メディアビジネスってことだ。インターネットの無料モデルって、雑誌ビジネスが原型なんすか?

上坂 そーかもしれん。まぁ、配達料(雑誌の郵送料)も安いんだよね。

志村 ほー。

上坂 売上の85%は広告。

志村 雑誌ビジネスってメディアビジネスなんですね。なんかシビアな感じ。

上坂 コンデナストは雑誌しかやらない。絶対単行本には手を出さない。

志村 えー。それって、当たるかどうかわからんから?

上坂 ノウハウが全然違うんですよ。

志村 ハリウッド・スタジオとテレビ局の関係と、全く一緒じゃな いすかー。(感動)

上坂 そーだよ。

志村 文化がどーのとか、クリエイティブとか、そんなんじゃないと。

上坂 いや、文化なんですよ、それは。しかし、質の高い読者維持して、広告で儲けるメディアビジネスってのは。ヤワじゃないわけよ。

志村 なるほど。

上坂 『LIFE』は、何百万部の名簿残したまま廃刊になったからね。広告入らないと、購読料だけじゃ赤字なわけ。

志村 へぇ。(1939年の『LIFE』は1冊10セントだった)

上坂 米国版『VOGUE』の売上ってどれくらいか知ってる?1冊(月刊)20億円ですよ。日本の『VOGUE』は、1年で30億円ですから。

志村 なにぃー。なんでそんなに違うんですか。

上坂 そりゃ部数が違うから。だからさ、欧米の出版社ってのは、儲かる事業、ビッグビジネスとして、巨大コングロマリットの一部門になってるんだよね。

志村 へぇー

上坂 アシェット婦人画報の親会社は、ラガルデール(Lagardere )っていうエアバスとか防衛産業やってるコンゴロマリットですよ。出版事業も、エアバスと同じポジションにあるわけよ。 (現在、ラガルデール・アクティブに名称変更。同社CEOのJulien Billot氏のインタビュー, 2009年3月13日、マイコミジャーナル)

志村 ほー。GEがNBCユニバーサルを持ってるのと同じですか。

上坂 そーそー。

志村 日本の出版社は、市場が大きくて、今まで独立で経営できていたってことすか?

上坂 いや。欧米の方がスケールがデカいってことかな。出版事業は儲かるってことで投資対象になってんだから。マグロウヒルもコンデナストも、マンハッタンのド真ん中に50階建てのビルが建ってるから。欧米では出版界のニュースは新聞のビジネス面に掲載されるけど、日本では文化面のニュースなんだよね。

志村 ふーむ

上坂 これから、日本もそーなりますよ。

志村 出版社は買収されていくんですか?やっぱ、オールドメディアは、単体で生き残れないってこと?

上坂 いや。そーじゃくて、ビジネス化していく。プレーヤーが交代する。投資対象になるってことだよ。たとえば、トヨタが講談社買収したり、東急グループが集英社を買ったりすることが起こるよ。トヨタは年間広告費4,000億円ですよ。出版市場と同じ。出版社なんて安いもんですよ。

志村 なるほどねー。

上坂 海外のファンドとかさ。興味あるみたいよ。

志村 でも、出版業界は、不況って言われてますよね???

上坂 いや、流通システムとか形態や収入構造を変えれば、ビジネスとして成り立つんですよ。

志村 それが、上坂さんのやりたいこと?

上坂 そう。マグロウヒル流のシステムを作りたいわけよ。デジタル時代に合った形で。

志村 ふーむ。でも、そのマグロウヒルはなんで辞めたんですか?

上坂 すっごい勉強になったけど、マグロウヒルの広告営業ってさ、クライアントに対して何もしてあげられないんだよね。値引きもないし。ただ、広告枠を売ってるだけ。

志村 なるほど、マシンだ。

上坂 そー、マシン。

志村 仕組みがしっかりしてるだけに、現場に裁量の幅がないんですね。

上坂 そー。それで、ちょっとイヤになったんだね。まぁ、それが産業化ってことなんだけど。家庭内手工業から工場生産へ。

志村 なるほどねー。

タイアップはメディアを滅ぼす!悪のサイクル

上坂 まぁ、それで1990年にマガジンハウスに移ったわけ。

志村 いい時代?

上坂 全盛期の末期だね。もーさ、社風が全然違うのよ。

志村 やっぱり。

上坂 営業の企画書を書いていると「そんなのいらねぇ。大事なのは、客と飲んだりすることだろ」なんてね。クライアントから「媒体資料を」って言われると、「そんなのありません」って答えてたからね。

志村 オモロイっ!

上坂 でもさ、給料いいわけ。ボーナスが夏8ヶ月、冬6ヶ月でたから。

志村 イエーイ!

上坂 「anan」は100万部出てたから。タイアップ広告も完全に編集部主導。クライアントの要望より編集テイスト優先。絶頂期ですね。

志村 上から目線。

上坂 いや、編集テイストを支持してくれる読者目線重視なんだけどね。そこが崩れ始めたんだなあ。でも、だんだん崩れ始めたわけじゃない。

志村 なんでなんすか?

上坂 高額の広告を出してくれるクライアントの服を、編集テイストに関係なく掲載し始めてからじゃないかな。

志村 ふむふむ。

上坂 広告主の服を記事で言及する習慣ができてしまった。

志村 ふーん。タイアップ?提灯記事?

上坂 自分の好きなファッションだけが載ってるから雑誌を買うんだよね。それが、自分の感覚と違う服が載るようになったら、そんなの誰も買わないよね。

志村 読者目線から離れてった。

上坂 読者は敏感ですよ。定期購読じゃないしさ。エッジ効かない内容にはお金払わないわけよ。

志村 読者数って、どれくらいの期間で減るんですか?

上坂 1年くらいだね。

志村 あらら。

上坂 部数が落ちて売上減ると、タイアップに頼るようになるんですよ。1,000万円収入得るために、500円の雑誌売ろうと思ったら20,000部売らなきゃいけないわけよ。でも、広告なら大口1社が決まればね、可能性はあるじゃない。

志村 はい。

上坂 タイアップ広告だと、クライアントが原稿直せとかって言ってくるんだよね。大口クライアントだと編集部が修正依頼を断れない。すると、記事がつまらなくなり、読者が減る。読者が減ると、ますますタイアップ広告に頼る、という『悪のサイクル』に入ってしまうんですね。マグロウヒルの時のように、広告主に読者を提示しているときは良かったけど、もう、広告主に「編集」を売り始めていたんだね。

志村 それ、テレビと同じじゃないですか!

上坂 そう。タイアップはメディアを滅ぼす。

志村 名言だなぁ。毒まんじゅうですね。

上坂 広告取ってくる営業部は、顧客(広告主)のために色々してあげることがなんで悪いんだ、ってことを主張するしさ。

志村 なるほど。出版社の中で、広告営業部門と販売営業部門は、分離してるから。

上坂 そう。でも、広告クライアントは、メディアの先の読者にアクセスしたいわけだよ。だから、広告クライアントとメディアは、本来同じ目線なわけ。でも、生き残ることが目的化すると目先の利益に飛びつくよね。それでコンテンツを疎かにしちゃう。

志村 販売部署の立場は弱いんですか。読者からの反応を吸い上げるというか。

上坂 そうですね。広告と編集って、やっぱり記事連動で華やかな雰囲気だけど、販売って取次と書店さん相手だから。ただ、取次と書店ルート以外を開拓しない販売もダメだよね。マグロウヒルは、書店以外の販売ルートを自ら開拓してたから。私の持論「広告部が雑誌の中身に対してクチをだしてる雑誌は、2年でダメになる。

志村 キメますねぇ。

BRUTUSの復活

上坂 マガジンハウスの「BRUTUS」って雑誌が、当時潰れそうだったんだよね。広告が16ページあったんだけど、半分の8ページが自社稿な状態。そこで、当時ムック編集部にいた斎藤さんを編集長にして、なんかやってみようってことになったんだよ。

志村 ふむふむ

上坂 その斎藤さんが、欧米のマーケティングスタイルを理解してる人でねぇ。「広告貰ったら、記事にする」という、悪しき風習を止めたわけ。たとえば、車の特集組んでも、車メーカーのタイアップ広告を取らないんだね。そしたら、内容が面白いって評判になって、復活したんだよね。広告も自然に入るようになった。

志村 へぇー。

上坂 そんな成功をもとに、斎藤さんは斎藤さんで、会社に、変革案を出した。

志村 ふむふむ。

上坂 自分も雑誌ごとに事業部制にしてくれって提案したんだよ。全然毛色の違う雑誌の広告営業を一緒にやろうってのはおかしいでしょ??

志村 そ、そうですね。。

上坂 広告営業と販売営業も同じ目線で一つの雑誌に集中したほうがいいじゃない。会社には受け入れられなかったけど。

志村 それで次の会社に移ったんですか?

出版社にはいいコンテンツ作る能力はない?

上坂 そうだね。2002年に日経コンデナストに移ったんだけど、実は、2年前に、誘われたけど、いろいろあって、落ちたんですよ。

志村 ほー。

上坂 それで、2001年に「BRUTUS」の斎藤さんが、コンデナストの社長にスカウトされたんだよ。でも、斎藤さんは、マガジンハウスのチームは連れていかないって言って、俺はそのまま残ったんだよね。

志村 ほー。

上坂 でも、1年後に、自分が斎藤社長から誘われて入ったわけです。

志村 ポジションはなんでしたっけ?

上坂 最後は副社長でした。

志村 すごいっ!それで、アシェット婦人画報に移ったのは?

上坂 2006年かな。お誘いを受けて。コンデナストは素敵な会社で安定していたけど、やっぱり、『VOGUE』と『GQ』は、特殊な雑誌だと思われているからね。

志村 なんか上坂さんて、高級人材なんすねー。

上坂 マイナーだから。ともかく、自分の出版ビジネスのノウハウを日本の主流の考え方にしたくてね。

志村 それは、達成できたんですか?

上坂 いや。結局もう出版社にはいいコンテンツ作る能力残ってないってことに気付いた。だって、ずーっと出版市場って縮小してるわけじゃない。市場が答えだしてるんだよ。

志村 ぎょぉー

上坂 それで、辞めたのよ。

志村 何歳ですか?

上坂 52歳かな。

志村 早稲田タイムスから30年かぁ。

上坂 ジャーナリズムを支える出版システムを作りたいね。

出版のビジネススキームを作る

志村 システムねぇ。なんかいいネーミングないんすか?

上坂 それが・・・ないのよ。

志村 呼びづらいのよねぇ。

上坂 まぁともかく、本は書店だけでなく、もっと売れる場所があるわけ。それと、コンテンツはエッジが利いたもの。広告は、値引きなしで、やるっていう仕組み。欧米流のモデルを日本にも根付かせたい。

志村 それってどういうものなんですか?

上坂 ともかく発想の解放かなあ。雑誌の編集者だけがコンテンツを作れるわけでもないし、流通させるメディアが雑誌である必要もない。コンテンツが認められれば、そこからビジネスが拡大すると思ってる。

志村 たとえば?

上坂 取材先や広告主企業のPR業務を代行したり、サイトやカタログ製作、さらにはスタッフ教育から空間設計を請けてもいいんだよ。無限のビジネスの可能性があると思うね。その可能性を実現するのが僕がやりたいメディアが企業として成立するシステムなのよ。

志村 発展しますねぇ。

上坂 精神科医がこころの雑誌作ったら、信用あるコンテンツが作れるんでしょ。

志村 は、はい。

上坂 僕の言うシステムは、メディアでない実ビジネスをしている人たちが、自分たちの情報を発信しやすくする仕組み、ってことになるかな。

志村 ふーむ。

上坂 フレンチレストランがフランス文化についてのメディア作ったら、絶対面白い。一度、システムを作ったら、コンテンツの発想は無限に広がるよ。

志村 デジタル展開ですよね?

上坂 そう。でもそれにこだわる必要もない。オリジナル・コンテンツだったら、違うメディアに提供できるから、それで儲ける仕組み。

エンタメ革命!

志村 エンタメとはなんでしょうか?

上坂 質のいいコンテンツでしょ。質のいいコンテンツこそ、人を楽しませる。分野は関係ない。現在「エンタメ」と称しているコンテンツの大多数は、エンタメとは言えない。プロフェッショナルと呼ばれる人たちがあまりに軽く作りすぎている結果だね。

志村 CGMのほうがよく見られてるかも。

上坂 うん。

志村 今までメディアって、プロっていう名前のもとにコンテンツ制作を独占して、良質なコンテンツ作れる人と、それを求める人の間に立って邪魔してきたんじゃないですか?

上坂 そーお?

志村 上坂さんのシステムも、コンテンツはメディアが作るんじゃなくて、眠ってる情報を顕在化するってことですよね。

上坂 そーかなぁ。

志村 良質なコンテンツを探すとき、グーグルがあれば特定メディアは要らないんじゃないですか?

上坂 それが盲点なのよー!! IT系の人たちが普通に思ってることは、普通の人には難しいんだよ。わかってるぅ?検索とかさ、iPhoneとか。。

志村 あぁ、そうか。それはそうですね。

上坂 そこに、僕の言ってるシステムの存在価値があるんです。革命なの。

志村 なるほどぉー。

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