トレンド情報
トレンド情報 -トピックス[1997年]
<国内情報>

変化到来!'97東京おもちゃショー

(1997.3)

  1. 新たな幕開け
  2. 「何を」育てる?
  3. おもちゃに見るお国柄
  4. おもちゃと子供の教育


1.新たな幕開け
 昨年もご紹介した「東京おもちゃショー」が、今年は日程を従来の6月から3月19〜23日に、場所を幕張メッセから有明ビッグサイトに移して開催された。テレビ・新聞でも定番ニュースとして取り上げられるようになったが、今年の展示会は日程、場所以外でも大きな変化があった。それは、任天堂やソニー(SME)等の主要テレビゲームの出展がなくなったことである。セガ自身は出展したものの、「セガ・サターン」関連の出展は見られなかった。

 昨年も既にブースを分ける等、一線を画す傾向が見られたが、加えてゲーム関係については別途の展示会(E3)が日本でも開催されるようになったためである。展示会ビジネス花盛りの今日、他の業界と同様、展示会の棲み分けがここでも進みつつある。

 しかし、おもちゃ業界自身は棲み分けどころか、テレビゲーム業界の勢いもあって流動的な状況にある。それを象徴するのが、先日のセガとバンダイ合併の電撃発表であろう。セガは数年前にもおもちゃメーカのヨネザワを傘下におさめている。総合エンターテイメント業のリーダーを自負しつつも「サターン」が劣勢となっているセガと、おもちゃ業界をリードするバンダイの合併は、少なくとも将来のビジネスにそれぞれ大きな危機感を頂いていることを象徴している。

 当日の会場は、テレビゲームなしということもあって、昨年と比べて来場者層も男子中高校生の姿が少なくなり、親子連れや小学生、女子学生の姿がより目立ったように思われる。また、私が訪問した土曜日の午前中はあいにくの雨模様だったこともあり、昨年よりも来場者の出足が鈍かったようにも感じられた。が、おもちゃショー特有の迷子の案内放送は、相変わらず盛況であった。

2.「何を」育てる?
 エディテイメントという言葉が示すように、おもちゃには教育(エデュケーション)と娯楽(エンターテイメント)の大きな2つの側面がある。教育面ではもちろん「子供」を育てることが目的である。しかし、それとともにどちらかといえば、娯楽面から「おもちゃ」自身を育てることが現在のもう一つのトレンドである。それは、いうまでもなく「たまごっち」ブームのことである。(「たまごっち」に教育面を見いだす意見も見られるが、私自身は基本的に娯楽商品であると考えている。)
 これを含めて、今年の「東京おもちゃショー」の出展内容をごく簡単に紹介しよう。

○「たまごっち」+「ピッチ(PHS)」=「たまぴっち」
 今回の主役は、やはりバンダイの「たまごっち」であろう。極度の品薄状態が犯罪までも誘発したところは、スポーツシューズの件を彷彿させ、このようなプレミア現象それ自身が1つのブームのようにも感じられる。(ちなみに「たまごっち」の場合は、本来はプレミア製品ではない)。これに追随する形で、他のメーカでも電子玩具に何らかの形で飼育ゲームを搭載している製品がいくつか見られた。
 当然のことながらバンダイは次の準備にぬかりない。まず「たまごっち」自身は5月、6月と時期をずらして新製品を投入、パソコン版やゲームボーイ(任天堂)版も初夏に発売予定である。さらに、文具や洋服、食品、雑貨、出版等の幅広い関連ビジネスも4月から一斉展開される。
 その中で、我々としては見逃せないのは「たまぴっち」、即ち、「たまごっち」搭載PHSである。「たまごっち」の購入層が、PHSやポケベルの重要顧客である中・高校生中心であることを考えれば、生まれるべくして生まれた製品という気もする。基本機能は普通のPHSと遜色無く、定価は4万円台であるが、実売は1万円前後になるのではないかともうわさ話もちらほら。そうなればプレミア付きの「たまごっち」よりも安く入手できるかも!?しかし、遊び終わったあとも、このPHS端末を果たして持ち歩いてもらえるのか、少々心配してしまう。いやいや、端末買い換えの促進にはうってつけかも?
 いずれにせよ、本当のペットと比べれば遥かに手軽で短時間に「飼う」ことのできるこのバーチャル・ペットは、現代人の生活を象徴したおもちゃと言えるだろう。果たしてこのブームがどこまで拡大しつづけるかどうかは、今後目を離せないところだ。

○子供用パソコン玩具 〜知育玩具〜
 前回のキーワードであった知育玩具も健在である。その中で、セガの「キーボードピコ」はいわばパソコンのおもちゃであるが、その内容はかなり現実的。まず、子供には決して優しくないパソコン同様のJISキーボードを採用。ローマ字にも対応し、キーボード練習や早撃ちゲーム等、本格的なタイピング練習機能を搭載している。大人の世相を反映するのもおもちゃであるが、ここまでくるとキーボードアレルギーに四苦八苦する大人の悩みは相当深刻かもしれない。
○リカちゃん、芸能界に進出
 着せ替え人形の代名詞でもあるタカラの「リカちゃん」、30周年を記念して、本物の芸能界にデビューすることに。デジタル・メディア・ラボと共同開発された「アイドルリカちゃん」は、CGで作成されたデジタルキャラクター。声優の顔に電極を取り付け、微妙な口の動きや表情をリアルタイム反映する等、かなり凝った内容である。ちなみに所属プロダクションはホリプロであり、同プロダクションとしては2人目のバーチャルアイドルとなる。昨年のレポートで、ままごとは子供にとってのいわば疑似体験ツールであると述べたが、リカちゃんはこちらのバーチャル世界でも活躍できるかどうか、楽しみなところだ。
○ご家庭でフィッシング
 タカラの「バスマスターズ」は、釣りのリールの形をしたルアーフィッシング・ゲームである。単にルアーを選択するだけでなく、実際に振りかぶったり、リールを回したするほか、魚がヒットした場合には本体が振動する。今回、全く別商品として同社はHMD(ヘッド・マウントディスプレイ)を出展していたが、あとはこれを応用して画面さえ用意すれば、本格的なバーチャルフィッシングか可能になるかもしれない。
○携帯電話用アクセサリ
 複数のメーカが出していたアクセサリ製品に、携帯電話の着信を光で知らせるマスコットがあった。これは、携帯電話の着信電波を関知して、キーフォルダー状のキャラクタが点滅して着信を知らせるアクセサリである。電話別のID登録を省略しているため、極端に近い場所に複数の携帯電話があると両方に反応してしまうが、そこはおもちゃと割り切って1500円程度に抑えたのがむしろ大きなポイントである(ID登録機能を付けると1万円を超えてしまうとこと)。バイブレータ機能が標準となりつつある今日の携帯電話、これは結構一般にも受けるかもしれない。

3.おもちゃに見るお国柄
 同展示会には、毎年海外企業も団体で出展しており、それぞれお国柄を反映しているところが興味深い。
 例えば、香港のブースでは、その先進的なライフスタイルを反映して、携帯電話やオーディオ機器等の電子機器をモチーフにしたおもちゃ、あるいは電子玩具が目立っている。また、ビジネスとしても他の工業製品と同様、OEM供給先を捜すことに主眼がおかれているためか、一般公開日は毎年活気があまりない。
 一方、ドイツやフランスのブースでは、電子機器関係あるいは電子玩具はほとんど見受けられず素材(木)やデザインを重視した積み木や滑り台等の室内遊戯器具、テディベア、雪そり等、伝統的で自然重視のおもちゃが主体である。こちらは、幼児を中心とした親子連れの関心を集めている。
 このようなおもちゃの違いは、子供の育て方を含めた文化の違いそのものを表している。

 

4.おもちゃと子供の教育
 玩具に関する調査研究、およびその助成・表彰活動を行う(財)佐藤玩具文化財団では、「遊び文化社会」への変革を提言すると共に、遊びの考え方とあり方の混同が深まっているとして、以下の点を指摘しているのが興味深い。(同財団資料より)
・遊びと怠けることの混同
・遊びと享楽主義の混同
・人道に反するさまざまな行動と遊びの混同
・遊びの責任の取り方の混同 等

 私個人としては、娯楽指向のテレビゲーム抜きとなった今回を展示会を通じて、おもちゃと子供の教育についてあらためて考えさせられたように思う。
 例えば、前述の「バスマスターズ」のような体験ゲームは、本物への関心を高めるという役割が期待できる。その一方で、本物の体験なしに、おもちゃで代替して済ましてしまう危険性も持っている。仮想の体験でもあったほうがよいという見解もあろうが、もしそれが親による教育の「手抜き」につながるのであれば、懸念を示さざるを得ないだろう。そうなると、本物を知らない親を教育するための玩具が必要になるかもしれない。
 また、確かにビジネス必須ツールとなったパソコンの利用教育を早めに行うために、パソコン玩具は有効かもしれない。しかし「キーボードになれる」ことが小さな子供にとってどの程度重要なことなのであろうか?道具を扱うスキル向上が、おもちゃに課せられた重要な役割なのだろうか?これが「知育」なのだろうか?
 様々な社会環境の変化があるにせよ、親はおもちゃに子供の教育をより頼る(代替させる)傾向が出てきている感が若干感じられる。しかし、教育の責任はおもちゃを作るメーカーではなく、あくまでもそれを与える親にあることを忘れてはならない。
 ビジネスにおけるパソコンと同様、道具は使い方が重要である。若干大げさだが、おもちゃも使い方を間違えば、創造性豊かな人間どころか、内向的でパターン化された人間を増加しかねないという不安がよぎってならない。
 素朴でもハイテク満載でも構わない、大人も子供も一緒になって楽しめるおもちゃに、来年の「おもちゃショー」でもっとたくさん出会えることを楽しみにしている。


※参考:'96年東京おもちゃショーのレポート

主要な関連URL

(産業システム研究部:鬼頭 隆 kito@icr.co.jp)

(入稿:1997.03)

このページの最初へ
トップページ
(http://www.icr.co.jp/newsletter/)
トレンド情報-トピックス[1997年]