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トレンド情報 -トピックス[1997年]
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1996年度決算に見る長距離通信市場の問題点
(1997.7)


 通信各社の株主総会も終了し、新しい体制が発足した。ともすると、6割を超える増収・増益を達成したNTTドコモをはじめとする移動体各社の好調な経営のみが注目を浴びがちである。しかしながら、長距離通信各社の決算を通して明らかになった長距離通信市場の問題点も見逃すことができない。長距離通信各社とも1996年度はそろって増収・増益と好調な業績であるが、その中味を見ると新しい変化も見て取れる。
 例えば、電気通信事業の売上高では第二電電が2年連続で減収となり、初めて日本テレコムが第二電電を上回ったのもその一例である。
 本稿では、各社の財務数値を分析し、その意味するところを考えてみたい。

  1. 各社とも本当に増収・増益か?
  2. 売上高の伸び悩みの中でも高い利益率
  3. おわりに

1.各社とも本当に増収・増益か?
 長距離各社の売上高及び、経常利益の推移はそれぞれ、図1、及び図2の通りである。これからは、各社が順調に売上げを伸ばし、それに連れて収支も改善傾向を示していることが分かる。特に、1996年度においては日本高速通信も経常ベースで黒字転換したことが特筆される。
 しかしながら図3に示すように各社の電気通信事業と附帯事業の構成には大きな差がある。

 そこで、各社の本業である電気通信事業のみをとってみると、また、新しい事実が浮き彫りになる。各社の電気通信事業の売上高、及び営業利益はそれぞれ、図4、及び図5の通りである。これから分かるのは、電気通信事業の売上高は、第二電電の場合、1994年以降わずかながら,減少傾向を示し、この結果1%とわずかにではあるが伸びを示した日本テレコムを下回ったことである。また、日本高速通信も1996年度は伸び率が2.3%と大きく低下した。次に、営業利益の方は第二電電が順調に増益傾向を示しているのに対して、日本テレコムは1996年度に0.4%とわずかながら減益となっている。一方、日本高速通信はようやく黒字基調に乗り始めたといって良いだろう。全体としてみると、減収・増益ないし、増収・減益とこれまでの順調な成長に翳りが見え始めたとも言える。

  図6は各社の電気通信事業の売上高の内訳を示したものである。日本テレコムの専用線の比率が高いのが注目される。これは、日本テレコムが事業所にも重点を置いた営業を展開し始めていることの反映であるとも考えられる。

2.売上高の伸び悩みの中でも高い利益率
 前節で見たような、業績の伸び悩み傾向は、長距離通話料金の相次ぐ値下げの中では当然の帰結とも言えるが、それでも各社、特に、第二電電、日本テレコムの2社は高い売上高営業利益率を確保できていることに注目する必要がある。図7は各社の電気通信事業の売上高営業利益率を示したものである。
 特に、第二電電、及び日本テレコムが10%を上回る営業利益率を確保していることが特徴的である。売上げが伸び悩む中で何故にこうした利益率を確保できているのであろうか。筆者はその一因がアクセス・チャージの負担軽減にあると考える。

 表1は長距離各社が支払っている通信設備使用料の推移を見たものである。これから分かるのはアクセス・チャージの毎年の改定により、長距離各社の負担が大幅に軽減されていることである。
 これをさらに図8のように分解してみるとアクセス・チャージの値下げが各社の利益の確保に貢献していることが分かる。

3.おわりに
 以上、長距離通信各社の決算を見る限り、長距離通信市場に翳りが見えてきたことが分かる。料金値下げの影響もあって売上高が伸び悩む中で、アクセス・チャージの値下げが現在の利益レベル確保の大きな要因となっているという構図である。アクセス・チャージ=相互接続料金については、現在検討が進められている相互接続ルールの中で、算定方式も含めて基本的な見直しが行われると考えられる。相互接続ルールの確立は遅きに失したとは言え、それ自体は歓迎すべきことである。しかしながら、現在のアクセス・チャージの算定方式に見直しが必要であり、またそのレベルがNTTの経営の非効率な側面を反映していることも否定できないにしても、相互接続ルールにのみ関心が集まっているのは極めて不幸なことである。各社ほぼ横並びの料金、サービスを提供する中で、アクセス・チャージの値下げがなければ利益を増やせないという構造はどこか歪んでいるような気がしてならない。長距離通信事業において、サービス・料金の多様化を競うという積極的な事業展開をする中で利益を確保する、という方向に向かわないと競争導入のメリットは生かせないであろう。

(経営研究部長 福家 秀紀)
e-mail:fuke@icr.co.jp

(入稿:1997.6)

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