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トレンド情報 -トピックス[1997年]
<海外情報>

FCCが目指す
「競争の三部作(Competitive Trilogy)」の完成

(1997.2)

1996年電気通信法(以下、新法)の成立を受けて、FCCは新法の「市内通信競争の促進に向けた相互接続ルールの確立(新法第251、252条)」及び「ユニバーサル・サービス改革(第254条)」の施行規則の制定を新法成立直後から進めている。さらに、米国ではユニバーサル・サービスの維持のために数十から数百億ドルの赤字が発生しており(全米電話会社協会はその額を200億ドルと主張しているが、FCCは60-120億ドルと見積もっている)、その赤字のかなりの部分がコストよりも相当に割高に設定されているアクセス・チャージから補助されていることから、市内通信競争と長距離通信競争の健全な発展、及びユニバーサル・サービス改革の推進のためには、新法では見直しが命令されてはいないものの、アクセス・チャージの見直しを同時に行うことが不可欠であるとFCCは判断し、独自に「アクセス・チャージ改革」の手続きも平行して実施している。FCCではこの3つの問題を「競争の三部作」と称し、1997年5月頃までの最終決着を目指している。

これら3つの改革の進展状況を見てみると、「市内相互接続ルール」の確立については昨年8月8日にFCCが命令を採択したものの、FCCが設定した市内交換事業者がネットワーク要素をアンバンドリングして販売する際の料金原則(長期増分コスト主義)や、小売サービスを卸売料金で販売する際の割引率が、修正憲法第5条に違反している(財産権の侵害)という市内交換事業者や、あるいは、FCC規則は州の管轄権を侵害しているという州公益事業委員会の訴訟に直面し、セントルイス巡回控訴裁でFCC規則は施行の仮差止の決定を受けている。
次に、「ユニバーサル・サービス改革」は新法で連邦・州合同委員会の設置が義務づけられており、1996年11月7日には合同委員会がFCCに対する勧告を採択した。FCCは合同委員会の勧告に基づき、新法成立から15ヵ月以内の今年5月に最終的な規則を制定することを命令されている。
最後に「アクセス・チャージ改革」であるが、FCCは1996年12月23日に、以前から進めて来たアクセス・チャージ改革の提案(「プライス・キャップ第2次追加規則制定提案告示」)に対する最終命令と、さらに包括的な見直しに向けた規則制定提案告示を採択した。この件に関する最終決定も、ユニバーサル・サービス改革と同時期の5月頃に下される見込みである。

続いてそれぞれの改革の内容を説明したいが、内容が複雑で多岐にわたるため、ここではその重要部分の概要だけを簡単に指摘するにとどめたい。

  1. 市内相互接続ルールの確立
  2. ユニバーサル・サービス改革
  3. アクセス・チャージ改革

1.市内相互接続ルールの確立
FCCが今回定めた中心的な内容は、(1)相互接続とネットワーク要素のアンバンドリングの地点の最小限の義務づけ、(2)市内相互接続、ネットワーク要素のアンバンドル、小売サービスの卸売における料金設定原則の2つである。

(1)については、相互接続ポイントとして、市内交換機(ライン側、トランク側)、帯域外信号転送ポイント、アンバンドルされた網要素へのアクセス・ポイントなどの6ヶ所、ネットワーク要素のアンバンドリング部分として、加入回線、交換機、信号網および通話データベースなどの7ヶ所を指定している。ただし、これはあくまでも最小限の義務づけであり、州委員会はこれ以上の地点を命令してもよい。

(2)については、市内相互接続における相互補償(Reciprocal compensation)及びアンバンドル要素の料金は「長期増分コスト」に結合・共通コストの適切な配分を行って設定するという原則を命令している。また、卸売料金については、新法の規定通りに、小売料金マイナス回避される小売コスト(avoidable cost:マーケティング、料金請求・徴収費用など)で設定することを定めている。

さらにFCCは、州が相互接続の仲裁を行う際の料金設定のガイドラインとして、これらの料金の上限や範囲を「デフォルト・プロキシー(州が料金設定困難な場合の代替値という意味)」という名称で具体的に示している。一例をあげると、卸売料金の小売料金に対する割引率は17-25%引きという範囲が指定されている。

2.ユニバーサル・サービス改革
連邦・州合同委員会はまず、ユニバーサル・サービス・サポートに含まれるサービスとして、公衆交換網に対する音声級アクセス、タッチトーン(プッシュホン)、単独電話サービス、緊急サービス(911番)に対するアクセス、オペレータ・サービスに対するアクセス、長距離通信サービスに対するアクセス、番号案内に対するアクセスの7つをあげている。次に、現行の低所得者に対する支援プログラムである「ライフライン」「リンクアップ」の2つをすべての州と地域に拡大し、ユニバーサル・サービス・サポートを受ける資格のあるすべての通信事業者は参加を求められるとした。

さらに、過疎地、島などの高コスト地域でサービスを提供する事業者に対しては、(簡易なモデルで算定した当該地域の提供コストの推計値)-(全国区的な基準値)を支援するとしている。さらに注目すべき点は、住宅用回線と単独事務用回線ユーザーが基本料に加えて支払っている加入者アクセス・チャージ(SLC:現在は月額の上限が3.5ドルと決められている)について、値上げをすべきではなく、さらに長距離通信事業者が支払う加入回線に対するアクセス・チャージの従量料金(CCL料金)を見直すことにより、SLCはむしろ引き下げるべきであると勧告している。

最後に、学校・図書館・医療機関に対する支援であるが、「資格のある学校と図書館が、割引料金ですべての電気通信サービス、教室における接続、インターネット・アクセスを購入できるように勧告する」として、学校・図書館に対しては最小限で20%、経済的に恵まれない学校・図書館には40-90%の大幅な割引率が望ましいとしている。ただし、そのユニバーサル・サービス・サポート支出の総額は年間で22.5億ドルを上限と定めている。

3.アクセス・チャージ改革
今回FCCが採択したアクセス・チャージ改革の文書は、従来から進めて来た改革手続きに対する最終命令、及び、さらに包括的な見直しに向けた規則制定提案から構成されている。まず命令の部分であるが、市内交換事業者の州際アクセス・チャージに課されているプライス・キャップ規制の下限の撤廃、ならびに、州際アクセス・チャージの新サービス導入の際の要件の緩和という、比較的マイナーな2点の変更にとどまっている。

次に将来の包括的見直しの提案であるが、現在のアクセス・チャージの料金水準が経済的コストよりも相当割高である(AT&Tは現在の州際アクセス・チャージの230億ドルは、前向きの経済的コストを110億ドル上回っていると主張している)という認識に立ち、その引き下げの方法として、「市場力すなわち競争に頼るアプローチ」と「FCCが具体的な引き下げ方法を命令するアプローチ」の2つを提案し、これらを単独もしくは組み合わせて採用するとしている。

  1. 「市場力すなわち競争に頼るアプローチ」
    競争の進展に応じて2つのフェーズを設定し、フェーズ1ではアクセス・チャージの地理的な非平均化、利用量・利用期間に応じた割引を認めるなどの規制緩和を、また、フェーズ2では顧客ごとに料金設定を変えること、プライス・キャップ規制の適用されるサービスの区分をより統合的なものとする、などの規制緩和をFCCは行う。

  2. 「FCCが具体的な引き下げ方法を命令するアプローチ」
    市場力だけに任せていては、アクセス・チャージを経済的コストに近づけるのに十分でないと想定される場合に採用するアプローチである。FCCは具体的な引き下げ命令の案として、長期増分コストに基づいてプライス・キャップの初期値を再設定する、同様に初期値を一定の公正報酬率を越えない水準に引き下げる、プライス・キャップ規制の上限値の算定式で、物価指数から差し引く%をより大きくする(上限を引き下げる)などの方法を提案している。このアプローチにおいても、既存の市内交換事業者のアクセス・サービスが相当な競争に直面した段階で、FCCはプライス・キャップとタリフ規制を緩和・撤廃するとしている。
以上、競争の三部作の内容を説明して来たが、今年の5月頃までには三部作が完結することになっている。しかし、先に述べたように市内相互接続ルールを巡る訴訟の行方は不透明であるし、加入者アクセス・チャージ(SLC)を取ってみても、ユニバーサル・サービス勧告では引上げをすべきでないとしているのに対し、アクセス・チャージ改革提案では、トラヒック量に依存しない加入回線コストを、現在のように従量料金(CCL料金)で長距離通信事業者から徴収する構造は見直すべきであるとして、SLCの値上げを示唆しており、両者の考えは正反対である。

このように三者のバランスをとることは容易ではなく、残された短い期間に問題がすべて解決されるのかどうか、FCCの手腕が大いに注目されるところである。

(海外調査第一部 神野 新)
e-mail:kamino@icr.co.jp

(入稿:1997.2)

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