トレンド情報
トレンド情報 -トピックス[1997年]
<海外情報>

アジアのマルチメディア・プロジェクト-マレーシア

(1997.4)

「マルチメディア・スーパー・コリドール計画」マレーシアの概要
 マレーシア政府は2020年までにマレーシアを先進国入りさせるという国家ビジョン「ビジョン2020」をかかげ、この達成のためにマレーシアの産業構造を現在の製造業中心からサービス業や知識集約中心の形態に転換させる必要から、情報とマルチメディアを戦略分野に指定している。その第1段階として、マハティール首相は、アジア版「シリコンバレー」を目指したマルチメディア・スーパー・コリードール(MSC)計画を提唱、1996年8月に全体構想が公表された。

 MSC計画とは、クアラルンプール(KL)から南南西20kmに建設される「プトラジャヤ」に行政首都を移転し(98年から首相府が移転、10年計画ですべての官庁がKLから移転する)、KL、新行政首都及び新空港を含む15km×50kmの地域を、21世紀に向けた世界のマルチメディア拠点として発展させようという国家プロジェクトである。「サイバージャヤ」と呼ばれる情報技術都市が、MSC中心部に新設される予定で、世界的規模の情報通信企業やサービス産業等を誘致して、マルチメディアを中心とした産業振興を図ることが計画されている。同計画では、電子署名法の制定や通信法の改訂などマルチメディアの利用を推進するための法制度や、誘致企業への優遇措置等の環境整備が用意されている。

MSC計画の主な内容

  1. 政府公約の主な項目
    • 世界レベルの情報基盤の提供
    • 知識労働者の雇用は内外で無制限
    • 会社所有権の自由を保証(外資規制の撤廃)
    • インターネットの無検閲
    • 資金調達手段の自由化
  2. 主な基幹プロジェクト
    • 多目的カード:電子マネーやクレジットカード、身分証明用のIDカードなどを1枚のカードに一元化
    • 電子政府:政府への申請手続等を電子化
    • 世界規模の遠隔生産網:世界各地に分散する工場を遠隔操作で一元管理するバーチャル工場システムを開発、導入
    • スマートスクール:インターネットや通信衛星等を利用した教育システムの導入

 マレーシア政府は、MSC構築にあたり、1996年6月、政府機関としてMSCを運営するマルチメディア開発公社(MDC)を設立した。MDCによれば、進出第1号はサン・マイクロシステムズが決定しており、現在25社程度の外国企業と交渉中で、IBM、富士通、マイクロソフトが含まれると見られている。
  NTTは、97年1月に発表した「今後の国際事業への取り組み」の中でも、特にアジアにおける先進的なマルチメディア・プロジェクトとして重点をおいており、MSC計画の実施にあたって、マスタープラン作成段階から参画している。NTTは、96年4月にテレコム・マレーシア、MIMOS(マレーシア・マイクロエレクトロニック・システム研究所)とともに委員会を発足させ、ネットワーク・システムのグランドデザインを開始、今後MSC計画が計画段階から実行段階に移行するにあたって、マレーシア政府に対して全面的な協力を約束している。具体的には、MSC地域内の情報通信システムの構築やR&D等への協力、MSC内に設立されるマルチメディア大学(仮称)への協力等人材育成への支援、サイバージャヤの都市開発及びインフラ作りへの協力の3分野の協力を検討している。また、マハティール首相が、97年1月、日本企業のMSC地域への進出を推進するため来日して際にも、NTTが協賛して説明会を開催している。
 アジアの情報拠点化を進めるアジア各国は、マレーシアの動きに無関心ではいられない。とりわけ構想に敏感なのは、MSC計画の対象区域の面積がほぼ国土の大きさと一致するシンガポールだ。シンガポールはこれまでの実績があるとはいえ、マレーシアだけでなく、将来はタイやインドネシアも加わった大競争の時代への備えを高めている。

(海外調査第一部 武川 恵美)
e-mail:takekawa@icr.co.jp

(入稿:1997.4)

このページの最初へ
トップページ
(http://www.icr.co.jp/newsletter/)
トレンド情報-トピックス[1997年]