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トレンド情報 -トピックス[1997年]
<海外情報>

米国の電気通信産業に対する
プライス・キャップ規制の導入状況

(1997.5)

わが国の郵政省は、NTTが持株会社の下に分離・分割されるのを契機に、1999年度を目処に通信料金規制を抜本的に見直し、長距離、国際通信料金にプライス・キャップ規制を導入する方針を固めたと報道されている(日本経済新聞3月26日)。1984年に同規制を世界で初めて電気通信の分野に導入した英国から、実に15年遅れて、ようやくわが国の通信料金規制の方式が簡素化の方向に向かおうとしている。
(英国ではBTに対して、1984年8月に「小売物価指数(RPI)マイナス3%」のプライス・キャップ規制が導入され、その後3回の見直しを経て、現在はRPI−7.5%の料金上限が課されている−1997年7月末まで)

米国では、まず連邦レベルでプライス・キャップ規制が採用されて来た。FCCは1989年7月、長距離通信市場で唯一の支配的事業者であるAT&Tに対する料金規制を、従来の公正報酬率規制からプライス・キャップ規制に変更した。その後同社については、「国民総生産物価指数(GNP・PI)マイナス3%」の料金上限が長らく適用されてきたが、市場におけるAT&Tのシェアの急落を受けて、FCCは1996年5月に同社を「非支配的事業者」と認定し、プライス・キャップ規制の適用を撤廃した。従って、現在、米国の長距離通信市場においては、料金規制を受けている事業者は存在しない。

ベル電話会社をはじめとする市内交換事業者(LEC)に対する料金規制について見ると、連邦が規制管轄権を有している州際アクセス・チャージについて、FCCは1991年1月からプライス・キャップ規制を適用している。料金上限の算定式は、GNP・PIからマイナスする値として、4.0%、4.7%、5.3%のいずれかを選択させるというものである。さらに、プライス・キャップ規制のもとで、LECの利益率が一定の基準値を超え場合には、超過利益を顧客(長距離通信事業者)に還元するというメカニズムが併用されているのが特徴である。

これに対してLECの州内サービスに対しては、州の公益事業委員会が規制管轄権を有しているが、料金規制の方式は従来からの公正報酬率規制をベースとして、いわゆるインセンティブ規制に徐々に移行しつつあるというのが、1、2年前までの状況であった。しかし、最近になり、州のLECに対する料金規制は、急速にプライス・キャップ規制導入の方向に進んでおり、もはや同規制を「代替的規制」と呼ぶことは適当ではないようだ。

米国の電気通信専門ニュースレターの State Telephone Regulation Report誌の最新号によれば、米国では30州及びワシントンDCが州内の大規模LECに対する料金規制方式として、何らかの形でプライス・キャップ規制を採用している。以下に、代表的な州におけるプライス・キャップ規制の例をあげてみたい。

ニューヨーク州(対ナイネックス)
1995年から1999年の間、基本サービス以外の料金は「GNP・PI−4%」のキャップで規制。利益に対する規制は行わない。

イリノイ州(対アメリテック)
1995年から1999年の間、非競争的なサービスは「GNP・PI−4.3%」のキャップで規制する。競争的なサービスは、さらに柔軟な料金設定が認められる。利益に対する規制は行わない。

フロリダ州(対ベルサウス)
非基本サービスは非競争的市場では年間6%、競争的市場では年間20%まで値上げ可能。基本料金は2001年まで凍結。その後は、「GNP・PI−1%」のキャップで規制。利益に対する規制は行わない。
以上のように、多くの州ではサービスを基本的サービスと非基本的サービス、あるいは競争的サービスと非競争的サービスにわけ、異なった規制を行っている。ニューヨーク州のように基本サービスはプライス・キャップ規制に移行していない州もあるが、イリノイ州のように「非競争的サービス」すなわち、基本サービスもプライス・キャップで規制している州もあり、規制形態は様々である。しかし、少なくとも非基本・競争的サービスは公正報酬率のような利益規制によらず規制するというのが米国の市内通信市場における規制の主流である。将来的には基本・非競争的サービスも含めて、プライス・キャップ規制に移行していく州がますます増えていくのは間違いないであろう。

(海外調査第一部 神野 新)
e-mail:kamino@icr.co.jp

(入稿:1997.5)

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