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トレンド情報 -トピックス[1997年]
<海外情報>

日本の通信ハブ化に光明有り

(1997.8)
 実はつい最近まで、日本が世界的な通信ハブとなる可能性については、非常に悲観的であったのである。世界的にみれば日本発着のトラヒック量はかなりのもので、表面的にはハブ化している(図1)のだが、「仕方なくそうなっている」というのが実状だろう。つまり、日本企業の海外進出という日本経済のグローバル化を反映しているに過ぎず、トラヒックの大半は日本企業/日本人が創出するものとみられる。特に海外の多国籍企業を見るとアジア統括機能はほとんど、香港及びシンガポールに置いており、その通信ハブ(電算センター/通信センター)もこれらの国に設置しているのである。残念ながら欧米企業で日本にアジア統括機能/通信ハブを置いている企業は皆無といってよいだろう。何しろ国内及び国際通信料金が高かった。また、ハブ化の他の要素であるオフィス賃貸料や人件費も日本は飛びぬけて高くグローバル企業が日本にアジア統括本部や通信ハブを置くメリットはあまりにも少なかったのである。

 ところが最近、世界的に規制緩和が加速化している。EUは来年1月から、電気通信市場の完全自由化を開始する。WTOでは国際計算料金システムの見直しが進んでいる。米FCCは、8月7日、国際計算料金に関するベンチマーク規則を採択した。これらはすべて通信料金の大きな引き下げ圧力として働く。これに合わせて日本国内でも自由化/市場開放が急速に進んでいる。昨年の国内公専公接続解禁に続いて、国際公専公接続も今年12月には解禁される。また、NTTとKDDの相互参入が認められ通信分野に国内/国際の垣根はなくなった。 NTT、KDD、NCC、外資を含む再販売事業者などが入り乱れ、国内(市内/市外)/国際とネットワークを分断する産業構造が、市内-市外-国際という一貫したものへと変化してゆく(まあ、これは当たり前のことなのだ。ネットワークなのだから)。そして、この劇的な環境変化に対応するため国内事業者同士の提携・合併劇が今めまぐるしい(図2)。いわば、通信分野でビッグバンが進行している訳である。国際公専公接続の解禁と共に外資が本格的に参入してくれば、従来の「コントロールされた秩序ある競争」に終止符が打たれ、米国型の弱肉強食に近い本格的な競争市場が誕生するはずだ(余談だが、米国人と話をしていて感心するのは「競争が好きだ」といとも簡単に言ってのけるところである。心から自由競争を歓迎している。日本人の感覚は「競争は良いことだろう、それは分かる。しかし…」と半信半疑、あるいは感覚的には歓迎できないでいる。これは産業主義で高度成長してきた日本経済の残照なのだが、この感覚の差は実に大きいと思う)。こうした供給サイドのダイナミックな自由化とともに、需要サイドも実に明るいのである。インターネットの成長は止まるところを知らない。また、通信を最大の戦略ツールとする金融業界のビッグバンが外国為替業務の自由化を皮切りに98年度から本格的に開始される。そして、日本の個人金融資産1,200兆円をターゲットに外国金融機関が押し寄せてくる。国内外へ莫大な資金がビット単位で移動し、新たに膨大な通信需要が生まれる。規制から解き放たれた市場では、この膨大なトラヒックボリュームをめぐって外資を含めた通信事業者の激烈な競争が展開され、通信料金の引き下げとサービスの多様化が急激に進むはずである。通信料金の低廉化は、日本発着のトラヒック増を促進するだけではない。最後の成長フロンティアであるアジアを背景に、日本経由で第3国へトラヒックを発着信させるトランジット・ビジネス、いわゆるリ・ファイリング・ビジネスの機会も拡大するだろう。

 ただ、通信ハブになることを国家目標としている近隣諸国があることも忘れてはならない。香港及び上海を拠点として巨大市場を背景とする中国、すでにASEANのハブとなっているシンガポール、更にマレーシアも急速にその技術水準を上げてきている。
 しかし、香港が中国に吸収されたこと、日本経済の規模と技術水準などを考えると、このまま他のアジア諸国に先駆けて実態のともなった規制緩和と競争導入(ユーザー/消費者主体の市場形成)に日本が突き進めば、その結果として日本が名実ともに世界的なハブとなる日はそう遠くないように思われる。決して夢物語ではなくなった。
 「通信もなかなかおもしろくなってきたなあ」とこの頃、ちょっとウキウキしている私である。

(海外調査部 横川 豊彦)
e-mail:yokokawa@icr.co.jp

(入稿:1997.8)

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