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トレンド情報 -トピックス[1997年]
<海外情報>

フランス−自由化直前の3大競争事業者の動向

(1997.10)
 1998年1月1日の欧州の電気通信における全面自由化まで残すところ3ヶ月を切った。フランス・テレコムと対抗する主要な競争事業者は、目下、大手水道会社で多角化路線の一環として電気通信事業に最も野心的な「カンパニ・ジェネラル・デ・ゾー(CGE)」グループ(電気通信子会社は「セジェテル」)、CGEと並ぶ2大水道会社でケーブルTV事業によってマルチメディア化をめざす「リヨネーズ・デ・ゾー」、さらに、移動体通信事業で躍進する大手建設会社の「ブイグ」グループ(電気通信子会社は「ブイグ・テレコム」)の3社に集約されてきた。 これら3グループの最近の動向を整理してみる。
  1. フランス・テレコムとの全面競争に備えるCGE
  2. リヨネーズはマルチメディア戦略で対抗
  3. 移動体通信分野からさらにグローバル企業を目指すブイグ

1.フランス・テレコムとの全面競争に備えるCGE
 フランスの2大水道会社の1つCGEは、かねてよりフランス・テレコムと対抗する主要な電気通信事業者となる野心を明確に打出しており、96年9月に子会社「セジェテル」を設立した。このセジェテルにはBT(英)やSBC(米)、マンネスマン(独)等の有力な外国の通信事業者が参加して、自由化されるフランス市場に進出することになる。さらに、CGEは今年2月、9,000キロに及ぶフランス有数の光ファイバー網を所有する「フランス国鉄(SNCF)」とセジェテルとの提携が決定して、新規参入事業者の中でトップの地位を確立したと見られている。

 セジェテルは傘下に第2移動体通信事業者SFRを擁し、急成長する同分野でフランス・テレコムとのシェア争いを展開しているが、その一方で、フランスの主要な都市においてDECT方式によるワイヤレス・ローカル・ループ(WLL)を構築する準備を進めている。まず、パリのビジネス開発地域であるデファンス地区においてWLLサービスを開始したのに続いて、全国20個所にWLL網を構築する計画である。このほか、マルチメディア実験を各地で行っており、ニースの自社系ケーブルTV網を利用した「テレリビエラ・マルチメディア」により、200世帯を対象として高速インターネット接続サービス、各種映像伝送サービスを含むオンライン・サービスなどの実験を行っている。同社の目標として、2003年までに、移動体通信:40%、長距離通信:20%、市内ループ:100%、データ伝送:20%の各シェアを獲得することを目指している。

 なお、CGEは多角化戦略として早くからケーブルTV分野に進出しており、国内大手のケーブルTV事業者「CGV」の72%を保有しているほか、英国においてもケーブルTV事業(第5位の「ジェネラル・ケーブル」に出資)を行っているが、CGVが多額の負債を抱えていることからフランスのケーブルTV事業の将来性については悲観的であり、現在、CGVの持株比率の縮小を検討中である。

2.リヨネーズはマルチメディア戦略で対抗
 CGEと並ぶ2大水道会社である「リヨネーズ・デ・ゾー(以下、リヨネーズ)」は、1980年代後半に民間事業者へのケーブルTV網の建設・運営が認可されて以来、同分野に参入し、フランスの3大ケーブルTV事業者「リヨネーズ・カーブル」を傘下に持っている。また、1994年に行われたフランス第3の移動体通信免許(DCS1800方式)の入札にも参加したがブイグ・グループに敗れた経緯があるため、それ以来、専らケーブルTV事業や放送分野(民放局M6を所有)に基盤を置く事業展開を行ってきた。近年は特にケーブル電話やインターネット接続サービスなどマルチメディア・サービスの開始に向けて意欲的に取組んでいる。さらに、リヨネーズは97年4月にスエズ運河と合併し、総売上高でCGEを抜くフランス屈指の大企業(正式名称は「スエズ・リヨネーズ・デ・ゾー」)となったため、豊富な資金力に基づいて、これまでCGEに比べて出遅れていた電気通信分野でどのような展開を見せるかが注目されている。

 ケーブルTV子会社のリヨネーズ・カーブルは現在、パリを含むフランス全国25地域でケーブルTV網を運営しており、96年末の加入数は41.5万、接続可能世帯数は210万で第1位のシェアを占める。フランスのケーブルTV業界は同社のほか、「フランス・テレコム・カーブル(フランス・テレコムの子会社)」とCGVの3社合計で接続可能世帯の86%、加入数の81%を占めており、市場は寡占化されている。

 フランスのケーブルTV加入総数は97年6月末で155万であり、接続可能世帯数670万に対して普及率は23%台と欧州諸国の中ではかなり低い部類であるが、ある調査会社の報告では、2005年までにフランスの加入数は400万、普及率37%となると予測されている。この成長の原因は、主としてデジタル化とインターネット・サービスの導入によるものとしているが、ケーブル電話の成長性は低いと見られているようだ。

 リヨネーズ・カーブルは、96年末にケーブル電話サービスの実験的免許を獲得しており、今秋からニースで商用サービスの提供を開始する一方、今年6月にはケーブルTV網のデジタル化に着手している。また、これらと前後して、インターネット接続サービスについて国内数地域で実験中である。同社はインターネット・サービスの開始に先立ち、ケーブルTV網の所有者であるフランス・テレコムとの間で料金問題の交渉を行っていたが進展せず、電気通信規制機関ARTに調停を請求した結果、今年7月にリヨネーズ側に有利な条件(ケーブル回線使用料の引下げなど)で決定が下された。リヨネーズはこれにより、98年初頭にもパリのケーブルTV網を利用して商用インターネット接続サービスを開始する予定であり、「マルチカーブル」、または「サイバーカーブル」と名づけた一連のマルチメディア・サービスは軌道に乗りつつある。同社は、今年、フランスのケーブルTV事業者の中で始めて赤字経営を脱却して収支均衡に達する見込みであり、ケーブルTV事業の将来は明るいと見ている。

3.移動体通信分野からさらにグローバル企業を目指すブイグ
「ブイグ・テレコム」は、DCS1800方式に基づくPCNサービス免許を獲得するために設立されたコンソーシアム(94年10月免許取得)で、ブイグが過半数を保有し、C&W(英)、フェーバ(独)等が資本参加しているフランス第3の移動体通信事業者である。同社は96年5月末にパリでサービスを開始したが、当初の予想以上に加入数を伸ばして健闘している。97年末には加入数30万、人口カバー率50%を目指して現在、ネットワークを全国へ拡大中である。

 フランスの移動体通信加入数は、今年8月末現在で400万を超え、前年末の250万に比べて急増しているが、この急成長の主な要因は、ブイグの参入によって移動体通信サービスがそれまでの企業対象から一般大衆にまで提供の範囲を拡大したためであると見られている。なお、GSM加入数(7月末時点)では、フランス・テレコム(サービス名:Itineris)が210万とトップであり、セジェテル傘下のSFRが130万と続いている。

 ブイグは、CGE/セジェテルとBTとの提携が発表された翌月の96年10月にSTET(伊)との戦略的提携を発表し、移動体分野を足がかりとしてグローバルな電気通信事業を展開していく野心的計画を明らかにした。続いて今年7月には、STET及びフェーバとの間で新たな住宅用通信サービス会社を設立して固定/移動サービスの統合化の方向で事業に取り組んでいくことを打出しており、98年以降の全面自由化に向けて組織体制の強化を進めている。

 また、ブイグはフランス国鉄(SNCF)の電気通信子会社への資本参加は逃したものの、一歩先を行くCGEグループに対抗していく意欲に変わりはなく、SNCFに代わる代替的インフラ事業者との提携を画策している。有力な候補として「フランス電力公社(EDF)」等の名前が挙がっているが、EDF側が電気通信市場へ本格的に参入する意思が固まっておらず、決定にはなお時間を要する見込みである。また、同じく強力な提携相手を求めているリヨネーズとも接近中であるが、放送分野では両者とも民放局を擁した競合関係にあるため、部分的な協力関係に留まる可能性もある。

◇◆◇

いずれにせよ、これまでフランス・テレコムの安定した独占の元にあったフランスの電気通信市場は、来年1月はじめ以降、これら3大グループを中心とした新規参入者の競争によって大きく変貌していくものと予想される。

表:3大競争事業者グループとフランス・テレコムとの事業概要比較

(海外調査部 水谷 さゆり)
e-mail:mizutani@icr.co.jp

(入稿:1997.9)

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