トレンド情報
-トピックス[1997年] | ||||||||||||
完全自由化を目前に控えた欧州諸国の状況 | ||||||||||||
(1997.11) | ||||||||||||
93年6月に欧州電気通信閣僚理事会で決定された、EUにおける電気通信の完全自由化期限「98年1月1日」が目前に迫ってきた。EU加盟国は、猶予期間を認められた5ヶ国(図表1)を含め、完全自由化に向けて、国内法の制定・改正などの準備を進めている。
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1.国内法整備状況 欧州委員会が策定する政策文書は、文書の形態によって法的拘束力の程度が様々に異なる。完全自由化は、「指令」という形態で文書化された。この形態では、文書で規定された内容に法的拘束力はあるが、政策の実現方法(法改正を行う、政令を発出するなど)は各国政府に任される。 欧州レベルで完全自由化の日程が決定されたのは93年6月であったが、この政策が具体的に指令として欧州レベルで最終的に採択されたのは、96年3月であった。しかし、この指令の最終採択を待っていては期限通りに完全自由化を実施することは困難であるため、最終採択に先立って加盟国はそれぞれ国内法の改正等に着手した。 英国は、EU加盟国の中では最も電気通信の自由化が進展しており、91年には国内通信の複占を終了し、96年に国際再販売における相互主義を撤廃し、設備ベースの国際通信を全面的に自由化したことによって、昨年末の時点で既に電気通信市場は完全に自由化されている。 ドイツでは、96年7月に新しく電気通信法が制定されてから、新規参入事業者に対して順次免許が付与されている。なお、現在電気通信政策の策定および規制を担当している郵電省は本年末に解散され、来年初頭より、経済省の参加に新しく規制機関が設置される。 フランスでは、96年6月に新電気通信法が制定され、本年初頭より独立規制機関ARTが電気通信の規制を担当している。9月には、新規事業者2社に対して免許が付与された。 イタリア、スペイン両国では、本年6月、電気通信法改正法案がそれぞれ閣議で了承された。 |
2.新規参入事業者の準備状況 統一された欧州市場では、欧州企業は国内企業と見なされる。したがって、欧州の既存の通信事業者は、外資規制を設置している国に対しても自由に参入することが可能である。そのため、完全自由化の方針が決定した後、欧州全域で既存の通信事業者と現地企業による提携の動きが活発化した。現在、「世界には3つのアライアンスがある」と言われているが、それらはすべて、欧州市場の自由化をにらんだ既存の欧州キャリアの合従連衡に端を発している(図表2参照)。 以下に、欧州主要国における新規参入事業者の動きを概説する。 ◇◆◇ |
(1)英国 前述のとおり、英国ではすでに全面的に競争が導入されており、97年9月現在、230弱の免許が付与されている。英国で特に注目すべき点は、CATV電話の普及により、世界でも例外的に市内電話市場で競争が活発化していることである。英国における主要な新規参入事業者は以下のとおりである。
このほか、送電会社の子会社である設備ベースの長距離電話会社エナジスや、AT&Tを初めとする多数の再販売業者がしのぎを削っており、市内電話市場では、さらにワイヤレス・ローカル・ループ(WLL)業者が本格的に商用サービスを開始し、競争がますます活発化している。 |
(2)ドイツ 93年に欧州レベルで完全自由化の方針が決定された後、大陸欧州諸国の中で、新規参入に向けて国内外の企業が最も早く、また最も活発に合従連衡を始めたのは、ドイツであった。ドイツ・テレコムのライバルと目されるのは、次のグループである。
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(3)フランス フランスでは、まだ新規参入事業者には免許が付与されていないが、次の2グループにすでに公衆電気通信事業者としての事業者アクセス・コードが付与されている。
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(4)イタリア イタリアでは、これまでのところ、まだ新規参入事業者には免許が付与されていない。NCC有力候補は次の2グループである。
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(5)スペイン スペインは、完全自由化に関して11ヶ月の猶予を認められている。それまでの間は、既存のキャリアであるテレフォニカと、第2キャリアとして免許を付与された国営放送業者レテビシオンによる複占となる見込みである。また、かつて、BTが現地のサンタンデール銀行と提携を結んでいたが、これを解消してテレフォニカとの提携を決定し、その結果テレフォニカがユニソースから撤退することとなった。
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3.さらなる課題―相互接続料金とイコール・アクセス 単に新規事業者に免許を付与するだけでは、効果的な競争は進展しない。現在わが国で論議の対象となっている相互接続料金とイコール・アクセスの問題は、欧州においてもホット・トピックである。
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4.むすび これまで、米国が通信自由化の最先進国であり、日英両国がそれを追い、大陸欧州諸国は非常に後方に位置している、という構図だったが、完全自由化により、欧州諸国は日本と肩を並べるか、あるいはそれ以上に競争が進展する可能性がある。欧州連合諸機関と各国政府による二重構造のため、欧州では政策の方針決定から実施までに非常に時間がかかるという欠点があるが、通信自由化にかける意気込みは本物であり、今後の動向が非常に注目される。 |
(海外調査部 光山 奈保子) e-mail:mituyama@icr.co.jp (入稿:1997.10) |
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