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2001年1月掲載

どこまで続くぬかるみぞ……
情報通信業界の不況

 戦時中に「どこまで続くぬかるみぞ」という軍歌があった。異郷の地で雨でぬかるむ山野を歩兵部隊が移動する苦しみを詠った有名な曲である。

 最近の情報通信業界は、ITバブルがはじけ、欧州を中心とした超高額な3G携帯電話免許の取得、熱狂的に吹き荒れた合併買収のツケ、米国の1996年電気通信法以降に雨後竹の子のように芽を出した新興通信事業者の淘汰、などのトガメがいちどきに噴出し、通信事業者の業績が急速に悪化した。その結果、設備投資に急ブレーキがかかり、情報通信機器メーカーの業績もきびすを接して急降下。事業者、メーカーの双方レベルでドラスティックなリストラが相次いでいる。まさに「どこまで続くぬかるみぞ」である。

 ちょうど1年前、この欄に「傷む通信事業者の財務〜超高額の携帯免許取得、凋落する消費者むけ長距離通信、巨額買収等で大手事業者の財務にヒビ。相次ぐ格付ダウングレード〜」という記事を書かせていただいたが、その時点ではまだ米国の景気は活気ある蒸気が続いており、これほどまで深刻な事態となろうとは、筆者も予想だにできなかった。

(最近のバッド・ニュース)

 最近3か月だけの主なニュースを業態別に拾ってみても、その惨状には驚かされる。

1. 通信事業者

  • BT
    1. 第2四半期は一時収入を除き1.7億ドルの大幅赤字
      3G携帯電話免許の取得や世界各地へのバラマキ投資に起因した過大負債削減のため日本、スペイン等での資産売却にもかかわらず依然多額の利子支払いと携帯電話事業での損失が直接の要因。(7月)

    2. AT&Tとの合弁国際事業のコンサートを早期精算か
      赤字続きのコンサート事業の精算をこれ以上先延しできないと表明。(8月)

    3. 米国投資会社グループEarth Leaseが提案していたBTの市内回線資産の買収提案を拒否
      過剰負債の削減に必死のBTも、中核資産である2,100万の英国顧客の加入者回線設備を114億ドルで買収したいとする米国ベンチャー・グループの提案は拒否。(8月)

  • AT&T
    • CATV部門(AT&T Broadband)の売却で難航
      昨年10月に4分割を決めたが、3年前のArmstrong会長就任以来のビジョンである「CATVインフラ利用の市内/長距離通信/国際通信のall−distance company」の中核ともいえるCATV部門を他社に売却する動き。Comcastからの買収提案は「安すぎる」として拒否。しかしAOL TimeWarner,Walt Disney、Cox等との交渉が進んでいる模様。(7月、8月)

  • KPN
    • 財務で苦境
      NTTドコモやベル・サウスとも提携して華々しく国際進出を行ってきたオランダの元国営事業者KPNも財務面で著しい苦境に直面。(6月)「次項参照」

  • Qwest
    • 第2四半期に33億ドルもの記録的赤字を計上
      ベル系地域電話会社だったUS Westを買収し傘下に収めた新興事業者Qwest Communications Internationalは、US Westとの合併費用415百万ドルとオランダの子会社KPN Qwestの持分の償却31億ドル等の一時的費用計上で、大幅赤字。(8月)

  • Global Crossing
    • 国防総省の契約破棄で打撃
      国防総省の研究開発設計ネットワーク部門はGlobal Crossing社に1.37億ドル
      相当の三ヵ年契約を先月与えたばかりだが、これを解約。同社株式も13%下落。(8月)

  • Williams Communications
    • 第2四半期赤字
      全米で光フアイバ網を運営する同社も2.5億ドルの赤字。(8月)
      6月には400名の削減を行っている。

  • Globalstar
    • 赤字計上、人員半減、負債元利払停止
      衛星携帯電話会社のGlobalstarは常勤340人のスタッフのうち175人をカット。(8月)

  • PSINet
    • 破産手続に移行
      企業顧客を対象にグローバルな光ネットワークでのインターネット・サービスの提供を目指し、76社をも買収しつづけてきたPSINetがついに破産手続へ。負債 総額43億ドル、うち29億ドルは一般投資家の公募社債。(6月)

  • 360networks
    • 社債の利払い停止
      アジア中心にグローバルな光海底ケーブルの敷設を進めてきたカナダの同社は、ついに1,090万ドルの利払い不能に。(6月)

  • Covad
    • 破産手続へ移行
      高速インターネット・アクセス事業者のCovad Communications グループも、8月中旬には破産手続を申請すると示唆。(7月)

  • Rhythms NetConnections
    Covadのライバル。8.5億ドルの負債で破産手続を申請。(8月)

 

  • Sonera(フィンランド)とEnitel(ノルウェー)
    • 次世代携帯電話のJV事業から撤退
      両社は合弁でノルウェーに結成していたBroadband Mobile ASAを解散。Sonera は3G免許をノルウェー政府に返還。(8月) 

2.メーカー

  • ルーセント
    • アルカテルによるルーセントの買収挫折
      ルーセントの資金欠乏はその極限に。光製造部門の売却も進まず苦境。アルカテルはそれでも米国への進出意欲。(6月)
    • 光ファイバ部門を古河電工へ売却
      苦しい財務資金状況に悩み9月までに光部品/半導体部門Agereの売却を銀行に公約しているルーセントは、光ファイバ製造部門を古河電工に売却(7月)
    • 来年末までには黒字化を言明
      本年初めには12.3万人いた従業員のうち5.7万人をレイオフ/早期退職/事業分割切り出し等で削減し、あわせて諸経費の削減で、来年末までには黒字化が可能とCEOが言明。銀行から65億ドルの資金手当ての約束も取りつけたと表明。(8月)

  • Nortel
    • 第2四半期に192億ドルもの巨額欠損を計上
      過去のバブル時に法外な価格で買収した企業の実態価値との乖離を一挙に精算。さらに実行中の2万人削減にあらたに1万人を上乗せ削減へ。(6月)

(立ち直りの展望ひらけず)

 DSL事業者や海底ケーブル、衛星通信事業者のような新興事業者だけでなく、AT&TやBTのようなしにせの巨大事業者までが、軒並み大変な苦境に直面し、もがいている現状である。勿論、それぞれの事業者ごとに今日の惨状に陥った原因は違うわけであるが、当面、明るい展望はまったく見えない。AT&TやBTは、思い切ったリストラや会社の自主的分割に活を求めているものの、それらもビジョンやポリシーに裏打ちされた着実な構想というものではなく、急落した株価対策とか、成長分野だけを切離し必要投資資金確保のための苦し紛れの姑息な手段といわざるをえない。

 大方のアナリストたちも、回復には大変時間がかかろうという意見ばかりで一致している。

(健闘のベル系地域電話会社)

 ただ、こうした最近の悪いニュースばかりというなかで、米国のベル系地域電話会社だけは悪いニュースはほとんどない。1996年電気通信法成立後、7社あったベル系地域電話会社は合併を経て今日では4社(US Westを吸収合併したQwestも1社として)に集約されているが、そのせえかCovad、Rhythms等の新興DSL事業者が相次ぎ破産に追い込まれているなかでそのDSL事業も順調で、その経営基盤も揺るいではいない。不振に苦しむわが国のNTT東西会社とはまったく異なる様相を呈している。このあたりの背景をもっと掘り下げてみる必要があるのではあるまいか。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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