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2005年1月掲載 |
欧米通信業界この一年の動き
2004年も終わり新しい年に入ったが、この一年の主な出来事を振り返り、整理してみよう。
1. 規制関係---FCCの従来からの「競争事業者偏重」姿勢が「既存地域事業者にも配意」に規制面では、FCCの動きでは、なんといっても「市内通信競争 (UNE) 規則での迷走」と「インターネット電話の規制の検討開始」の二つが重要であろう。「電力線利用の広帯域通信規則の制定」も、わが国との対比で目を引く。 とりわけ鮮明になったのは、FCC政策の右旋回である。競争重視の基本線は変わらないものの、高度通信の全国への早期普及という別の重要政策目標のために、これまでの「とにかく競争事業者の参入支援を最優先」というスタンスから、既存地域事業者の設備投資インセンティブにも目配りし、既存地域事業者が競争事業者に設備を利用させる義務を大幅に軽減した。例えば、フアィバ・ツゥ・ザ・ホームなどの光ファイバ回線は、競争事業者から貸与の要請があっても、拒否できることを明確にした。 1-1. 市内通信競争 (UNE) 規則での迷走 1996年電気通信法が、市内通信での競争促進策の切札として持ち込んだUNE(細分された市内通信サービス要素)制度の実施のためにFCCが制定した三度目の規則が、またまた裁判所により違法としてFCCに差し戻された(3月)。法施行後8年あまりを過ぎてなお、実施規則が定まらない異常事態に逆戻りした。 現在、UNE制度を利用した競争事業者の顧客は2千万近くあり、その法的根拠であるFCC規則が無効となったため、FCCは業界による既存地域事業者と競争事業者の話合いによる解決を奨励する(3月)とともに、とりあえず半年間はUNEの事業者間料金を据置く暫定措置をとった(8月)。 FCCは2004年の年末ちかくにやっと第四回目の規則を制定したが、5名の委員のうち2名は反対と、論議が分かれている(12月)。 FCCも、既存地域事業者の設備投資等のインセンティブにも配意し、競争事業者側に圧倒的に有利だったのを軌道修正しはじめた。今回の第四回目の新規則では、「事業者間料金の値上げ」と、既存地域事業者の提供義務のうち「交換機能は除外」することとしている。加入者回線のみでなく交換までセットで既存地域事業者に依存し、それを強制的な大幅割引で取得して顧客に再販売し利益を挙げてきた「他人の褌で相撲を取る」競争事業者の甘い事業姿勢が否定されたわけである。 しかし、既存事業者/競争事業者両者の対立は根深く、最新規則にも両サイドが不満で、またまた裁判所に提訴する姿勢を見せており、迷走が今後もしばらく続きそうである。 1-2 インターネット電話の規制の検討開始 FCCは伝統的に、インターネット等の新テクノロジーは、その自然な発展のため規制は差し控える方針を採ってきた。 しかし、VoIPが本格化し、しかもテクノロジーの進歩でパソコン同士の間だけに留まらず一般電話と変わらない形の利用形態が登場しつつある。競争事業者のみならず既存地域事業者、さらにはケーブル事業者までが積極的に提供をはじめ、爆発的な普及が予測され始めたため、FCCも規則策定作業を開始した(2月)。これまでFCCは「情報サービス」だとして当面を糊塗してきた面もあり、電話会社側は、「われわれ電気通信事業者は厳重な規制に服しているのに、VoIP事業者は規制なしで、アクセス・チャージもなく、ユニバーサル・サービス基金への分担金もないのでは、競争にならず公平を欠く」と不満をもらしてきた。 FCCは現在、いろいろな筋から広くコメントを求めている段階であるが、利害の対立も鋭く、きわめてデリケートな問題であるとともに、VoIP等が将来の通信の本流となる勢いであることから、今後の推移が注目される。 1-3 電力線利用の広帯域通信規則の制定 FCCは、電力線利用の広帯域通信(Access broadband over power line( Access BPL))について、検討を開始していた(2月)が、10月に規則を制定した。 このサービスは、屋内配線が不要になり様々な機器の間で手軽に情報のやり取りができるなど、様々なメリットが提示されているが、電磁波の他の通信への干渉が問題となっていた。FCCはそれを解決するメドがたったとして、規則制定に踏み切った。 松下電器がこのサービス用のアダプターを開発し、まず米国で販売するというが、日本では規制体制の整備が2006年以降になるためとされている。インターネットの場合でもそうであったが、米国の規制当局の「新テクノロジーの積極的導入で世界をリード」という、規制だけではなく産業開発までを視野にいれた先を見据えた姿勢には、学ぶべきものがあろう。 1-4 FCC、フアィバ・ツゥ・ザ・カーブ回線について既存地域事業者による競争事業者への貸与義務を免除 FCCは既に2003年に、フアィバ・ツゥ・ザ・ホーム(FTTH)回線については、UNE制度での既存地域事業者による競争事業者への大幅割引事業者間料金での貸与義務から除外していたが、このほど、フアィバ・ツゥ・ザ・カーブ(FTTC)回線についてもFTTHと同様に既存地域事業者の義務から外した。FTTCは加入者回線の途中までは1本の光ファイバで、最後の500フィート以内は数軒の顧客に分岐した回線を用いる構成で、コスト削減をはかる方式である。 1-5 CATV設備のライバル事業者への貸与義務 電気通信分野では、前述のUNE制度のように、既存地域事業者の設備を競争事業者に貸与する義務があるが、ケーブル・テレビの設備でも同様にライバル事業者に貸与する義務を認めるかどうかが、争われている。競争関係にあるインターネット・サービス・プロバイダーが顧客に到達する手段としてケーブル会社のネットワークを利用することが認められるかどうかの問題である。 FCCは二年間の審議のすえに広帯域ケーブル・サービスは「情報サービス」であり、「電気通信サービス」とは別のカテゴリーに属すると決定し、電話会社のような義務からは解放したのである。 しかし連邦第九控訴裁判所は昨年、ケーブル広帯域サービスはハイブリッド(混成物)であり、FCC規則のような行政命令だけでは電気通信事業者の義務から解放することはできないと判示した。これに対し、最高裁は、連邦政府とケーブル業界が上訴していたものを受理し、審理をおこなうこととなった。(12月) 電気通信業界ではこの件に対する関心はきわめて強い。ケーブル会社と電話会社とはライバルではあるが、この問題では立場を同じくする。電話会社は、ケーブルの次にFCCでの最近の規制緩和ムードの恩恵に浴するのはわれわれだと期待しているからである。電話会社はそのDSLサービスについても電気通信事業者としての規制に服しており、その伝送設備を系列外のインターネット・サービス・プロバイダーにも提供する義務を課されている。ベル系地域電話会社は最高裁への申立てで、次世代の広帯域ネットワークへの投資を継続するためにはこの規制枠組を解決することが不可欠であると強調している。最高裁の判断が注目される。 2. 買収/合併関係グローバル事業者として生き残るためには、規模の経済を追求する以外にないという信念から、1990年代後半に吹き荒れた合併/買収の嵐は、2000年以降のいわゆるIT不況で、一転して静まってしまった。電気通信業界の景気動向も、次項のように多少は薄日がさしてきたが、まだ買収が盛行する状況には至っていない。例外は携帯電話業界のみである。 この関係では、米国第二位の携帯電話事業者であるCingularによるAT&T Wirelessの買収が最大のニュースであろう(1月、2月、11月)。 このほかにも、第三位の携帯電話事業者SprintによるNextelの買収もある(12月)。 米国携帯電話市場では寡占の傾向が強まったが、競争の縮減ではなく、全米をカバーするジャイアント同士の料金面、サービス面での激烈な競争時代に突入している。 3. 業績関係 2000年から鮮明になったいわゆるITバブルの崩壊で、電気通信業界では事業者、メーカーを問わず一大不況に突入し、倒産、経営破綻、リストラが横行し、氷河時代とまでいわれたが、今年になって業績が上向く企業が散見されるようになり、明るさが見えてきた。
などであるが、業績が堅調なベル系地域電話会社でも
が伝えられるなど、全体として厳しい状況が続いている。 4. 電話会社とケーブル会社の競争が本格化、巨人同士の激突へこれまでは電気通信業界での競争といっても、ベル系地域電話会社中心の「既存地域事業者」と市内通信市場にUNE制度を武器に進出を狙う長距離通信事業者中心の「競争事業者」との競争が主であったが、FCCの前述のスタンスの変化もあり、長距離通信事業者の市内市場進出にブレーキがかかっている。それどころかこれまで多額の設備投資までして市内サービスへの進出を図ってきたAT&Tは住宅顧客には今後は市内サービスのマーケティングを断念すると表明し、Sprintも追従した(7月)。 長距離通信事業者は、携帯電話やインターネット電話に蚕食され、構造的に弱体化していたが、その挽回策としての市内市場進出も裏目に出たわけである。第一ラウンドとしての両者の勝敗は既についたといえる。 代わってベル系地域電話会社の新しいライバルとして登場したのがケーブル(CATV)事業者である。彼らはケーブル設備を使った固定電話サービスに積極投資するとともに、携帯電話事業にも食指を動かし始めている。例えば、
など、枚挙に暇がない。 ベル系地域電話会社等も負けてはいない。これまで市内通信、長距離通信、携帯電話を一体化したパッケージの料金プランで成功を収めてきたのをさらに深化して、増加する光ファイバ設備でビデオ番組まで伝送する設備投資を始めつつある。例えば、
ケーブル会社は電気通信事業に、ベル系地域電話会社はビデオ放送事業にと、お互いが相手方の本来の縄張りに参入しようとしつつある。 第二ラウンドの競争は、財務基盤もしっかりしたベル系地域電話会社とケーブル会社の激突になることが明らかとなりつつある。これに電力線利用の広帯域が動き出し、電力会社が加わり、三つ巴となるのであろうか。 5. VoIPサービスの急増VoIPサービスの急増が目覚しい。「ComcastがVoIP用に光ファイバを借入れ」(12月)などケーブル会社は電気通信市場への進出の手始めとしてVoIPを用いるケースが多い。固定網を抱え、逡巡してきたベル系地域電話会社もVoIPにいよいよ本腰を入れだした(11月)。 重い腰をあげていよいよVoIPの規制方式の検討を開始したFCCの規制がどうなるのか、その見通しが立たないことも事業の採算見通しの障害となっているので、FCC規則の進展次第では、爆発的に普及が進もう。 6. その他欧州では、BT, FT, DTと三カ国の最大手事業者が1990年代後半の国際進出でいずれも火傷を負い、このところ目立った動きがなかったが、11月にBTが国際通信事業者のInfonetを10億ドルで買収した。しかし、大方の見方は、AT&TとのJVだったConcertで手ひどい授業料を払い撤退したのに「また懲りもしないで」と冷淡で、BTの株価も発表を受けて値下がりした。
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寄稿 木村 寛治 編集室宛>nl@icr.co.jp |
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