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2005年7月掲載

早期解決「待ったなし」のFCCの「インターネット規制のあり方」
つぎはぎ、場当たりの対処には限界

■6月の二つの出来事

6月にはFCCがらみで二つの重要な動きがあった。すなわち、

  1. 最高裁、ライバルであるインターネット・サービス事業者へのケーブル事業者の設備開放義務を否定
    ----控訴裁判所の判断を覆し、FCCの方針を支持----(6月27日、判決)
  2. FCC、インターネット関連の音声サービス提供事業者に対する高度緊急通信の提供の義務づけ(6月3日、規則公示)

である。この二件の背後で共通しているのは、「インターネット事業者の規制をどうすべきか」という大きな課題である。

 まずこの二件の動きの要点を見てみよう。

(1) 最高裁によるケーブル事業者の設備開放義務の否定

 最高裁は6月27日、「ケーブル(CATV)会社には自己のネットワークをライバルのインターネット・サービス事業者が利用するのを制限する権利がある」と判示し、ケーブル事業者はライバルにネットワークを開放する義務はないと判断した。

 今回の最高裁判決は、かねてからFCCが主張していたことを認めたものであるが、これとは対照的に、電気通信事業者は、DSLサービスのインターネット事業者をも含めたライバル事業者に自己のネットワークを利用させる義務を負わされている。これではケーブル事業者の場合は、電気通信事業者とは正反対となるわけである。さらに電気通信事業者はこのほかにも、アクセス・チャージの支払義務、ユニバーサル・サービス基金への拠出金分担義務、犯罪捜査当局による通信傍受義務、等実に様々な義務を負わされている。FCCはなぜ、一見矛盾する方策をとっているのか?

 今回の最高裁判決のさきがけとなったのは、インターネット事業者のEarthLinkやBrand X Internet Servicesによる第九控訴裁判所への提訴であり、いずれも自前のネットワークをもたず、自己の顧客に接続を提供するにはケーブル・ネットワーク事業者に依存せざるをえなかった。この控訴裁判所は原告の主張を支持し、「ケーブルによるインターネット・サービスは、簡単なデータ通信(これは「電気通信サービス」として規制されるべきもの)と、より複雑な「情報サービス」という二つの部分に区分できる」とした。その結果、ケーブル会社はそのサービスのうちベーシックな電気通信部分については(電気通信事業者と同様に)ライバルにも利用させねばならないと判示していた。

 FCCはこの控訴裁判決を不服として、「ケーブル・サービスは一体的なサービスであり、データ伝送部分だけを独立した電気通信サービスであるとは考えられない」とし、最高裁に持ち込まれた。

(2) FCC、インターネット関連音声サービス事業者に対する高度緊急通信の提供を義務づけ

 FCCは6月3日、インターネット・プロトコル(VoIP)のサービスを用いて相互接続される音声サービスの提供事業者に対し、その顧客に高度化された緊急通信(enhanced 911 (E911))の機能を提供することを義務づける規則を採択した。

 1965年にAT&Tが911を緊急通信のための特殊番号として初めて定めて以来、米国民は911に慣れ親しんできた。National Emergency Number Association (NENA)の推定によれば、2005年2月現在では、911サービスは米国の郡の96%で人口の99%近くが利用可能となっている。毎年2億回もの通信がなされているという。FCCはテクノロジーの進展による多様なサービスの出現に伴い、1996年には携帯電話事業者に911またはE911(高度版)サービスの提供を義務づける措置を講じてきた。後述のように、FCCはインターネット関連のサービスについては、その自由な発展を阻害しないよう規制をできるだけ行わないことを基本方針としてきた。後述のようにFCCは、インターネットの規制のあり方について、グランド・ルールの策定を急いでいるが、今回VoIP事業者についても米国民の生命・財産を守る緊急通信については、とりあえず事業者に早急にこれを可能とするよう義務づける規制を発動することとしたわけである。

■これまでのFCCの基本的なスタンス

 今回の最高裁の判決は、FCCが「ケーブル・サービスは『電気通信サービス』ではなく『情報サービス』だと区分したことを追認したわけである。

 FCCは、インターネットのような新しいサービスについては、できるかぎり規制を差し控え、自由なのびのびとした成長を尊重するという方針を一貫して採ってきている。生まれたばかりの若い技術や事業分野では、規制により人為的にその発展をゆがめることを恐れてのことである。FCCはインターネット以前でも、コンピュータ関連等の情報サービスは規制の重い通信サービスとは対照的に、規制をできるだけ避ける姿勢を貫いてきた。もっとも、そうした結果、IP電話は規制されず、サービス面では大差のない通常の固定電話は重い規制が課されたままという矛盾も露呈しつつある。

 FCCは早くからコンピュータ関係は「情報サービス」として「通信サービス」と峻別し、規制をできるだけ差し控える(forbear)方針を貫いてきた。 現在の通信事業規制の基本法である1934年通信法の制定当時には、もちろんコンピュータもなく、CATVもインターネットもなかった。新しいテクノロジーやサービスの出現に応じて、1934年通信法もFCCもその都度、次々に対応してきた(CATV関係規定の大幅追加等)が、テクノロジーやサービスさらには事業者自体までが融合/一体化の傾向にあり、通信サービスと情報サービスの境界もあいまいとなってきた。先にも触れたIP電話も良い例で、インターネット関係のサービスだとしてFCCは規制を差し控えているものの、電話事業者側からは「われわれが、設備のライバルへの開放義務や料金面等で様々な重い規制に服しているのに、ISPが提供するIP電話は、サービス面で差がないにもかかわらず、規制フリーで、アクセス・チャージやユニバーサル・サービス維持のための分担もないというのでは、公正を欠き、競争のイコール・フッティングが侵害されている」との苦情が絶えない。

■FCC、ようやく重い腰をあげ、インターネット関係の規制のグランドルール策定へ

 インターネット関係のテクノロジーの急速な進歩で様々な新サービスが市場に登場し、従来からの電話事業者と競合、衝突するケースが増えてきたため、これまでFCCは、特定のケース、特定の事業者、特定のサービスについて個別に、declaratory ruling(裁定公示)という形で認定し、切り抜けてきた。

(例えば、Pulver.comの提供している Free World Dialup (FWD)について、FCCは引き続き不要な規制を行わない方針についても確認、AT&Tのインターネット電話サービスについては、一部インターネットを利用しているものの基本的には従来型の電話サービスと変わらないとして規制の継続を確認、等である。)
極言すれば、FCCはこれまでこうした問題を当面糊塗して、抜本的な解決を先延ばししてきたとも言えよう。

 インターネットも十分に市民権を確立した今日、VoIP等が急激な普及で従来型の電話サービスに取って代わろうかという事態となり、もはやケース・バイ・ケースの認定という形では追いつかず、FCCもついに2004年2月に「インターネット・サービスの規制のあり方」について抜本的なグランド・ルールの策定作業に入ると発表した。

 その「規則制定の予告」のなかでFCCは、その背景として、

「本日採択された規則制定の予告は、インターネットの諸サービスは引き続き最少の規制に服すべきであるという方針を再確認するだけでなく、同時に、通信がインターネット利用サービス(internet enabled services)へと移行するのに対応して、公安、警察への緊急通信、法律執行部門によるアクセス等の重要な社会的諸目標の実現のためのメカニズムも変革が必要であることをも認識してのことである。

 インターネット利用の通信サービスは、100年以上にもわたり米国が利用してきた公衆交換電気通信網(PSTN)利用サービスとは異なるものである。これらの新しいサービスは、低通信コスト、より一層革新的なサービスと機能、より一層大きな経済生産性と成長、等をもたらすだけでなく、ネットワークの余裕拡充や消費者の選択肢の向上にも資する。」

としている。

 FCCはこの規則制定予告で、まず、以下のようにひろくコメントを募ることから着手した。

「インターネット・サービスに関する規制の妥当な取扱いのあり方に関するコメントの募集に加えて、本日の規制制定予告は、多様なサービスをカバーする広範囲の諸問題を下問し、インターネット・サービスと在来型の電話サービスとの差異の具体的な適用、さらにインターネット・サービスにもいくつかの区分の適用を提起している。具体的にいえば、例えば、E911(訳注:高度化版の警察消防への緊急通話)、障害者によるアクセス、アクセス・チャージ、ユニバーサル・サービス等が様々なタイプのインターネット・サービスにも拡大適用されるべきかどうかについても下問している。さらに、制定予告はインターネット・サービスの各タイプごとの法的および規制面での枠組や各カテゴリーごとの司法面での考慮点についても下問している。」

 FCCが最終的にいつ頃、どのようなグランド・ルールを制定するかは明らかではないが、恐らくインターネット・サービスをいくつかのカテゴリーに区分して、それぞれに規制の度合いの違う規制を定めることとなるのであろう。

■米国での様々なインターネット・テクノロジーの台頭と既存サービスとの競合の現状

 FCCはさらに今年の3月に、上記のグランド・ルール策定の細部を公表した。その中でこうした検討の必要性を迫っている市場の現状を次のように解説している。また、コメントをも織り込んだ最終的な規則の姿、方向を示唆する内容も含まれている。わが国でも大いに参考となろう。(「インターネット利用の音声サービス」の規則制定手続の予告
(2004/3/12)NPR)

  • インターネットは、この10年あまり米国で、従来からの規制管轄を超越して、消費者の選択と利便、テクニカル・イノベーション、および経済的成長の推進力として機能しつつある。FCCは、このようになるためには伝統的な電気通信サービス・ネットワークに課されている規制や責務から開放されてきた事実が貢献しているものと認識する。

  • FCCは、このような消費者の選択や力の増大という新しい環境のなかで、どのような役割を果たすべきかを自身で検討しなければならない。そして、これまでのインターネットとそれを利用するサービスの規制は最少必要限度に留めるという方針を存続することで、果たして公益を守るというFCCの責務にも最もよく応えられるのかどうかも自問しなければならない。

  • FCCは、広帯域インフラを米国民に普及させることが最重要であることを認識したところである。広帯域設備が増加していくなかで、通信サービスとネットワークは、同一のネットワーク・インフラを同時にデータをIPパケットの形で流すことにより効率を上げる方向に向かっている。企業の世界では、その企業内および外部との通信でIP利用のアプリケーションに既に相当依存しつつある。それどころか、VoIPサービスの事業者は住宅市場においても従来方式の電気通信事業者に挑戦を開始しつつある。既に今日でさえ、一部の事業者は利用者にはそうとはわからないものの長距離通信の伝送でIPを用いている。広帯域設備の拡充に伴い、消費者により多くの選択肢を与える多様な機能のサービスやアプリケーションが、既存の電話網利用のアナログ・サービスと対抗できる料金で提供され始めている。多くの識者が、事業者はそう遠くない将来に音声とリアルタイム・ビデオを統合一体化したサービスの提供を行うようになろうと予測している。これらのサービスは、IP-Enabled Servicesを大衆に早期に普及させる有線、ケーブル、無線、その他の広帯域設備の普及を加速し、そしてそれが回りまわって、今度はかかる諸サービスの一層の開発と普及を助けることとなる。このようなプロセスは過去100年間にわたり、米国の通信の世界を支配してきたテクノロジーへの挑戦ともなりえよう。
  • PSTNを利用した場合の高度機能はネットワーク事業者が作り、通常は物理的な終端地点に縛り付けられているのに対し、IP-Enabled Servicesは利用者や第三者により創られうるし、きわめて競争的で革新的なサービスが作り出される無限の可能性があり、かつ、利用者はIPネットワークにアクセスさえできればどこででも通信が可能となる。このように、IPの登場は、通信ネットワークやその規制の基礎となっている前提を覆す力がある。

  • 以上のような理由から、IP-Enabled の通信の登場がもたらす変化はまさに革命的となろう。こうした進展は通信コストを削減し、イノベーションと個人化が推進され、お仕着せの画一的なサービスではなく、利用者個々人の選択に適った低料金の多様なサービスがもたらされよう。ひろくIP-Enabled Services全般、とりわけVoIPは、消費者が一層広帯域接続を要望するよう促進するであろうし、それがさらに一層IP-Enabled Servicesの開発を促進することとなる。IP-Enabled Servicesは、経済生産性と成長を増進し、ネットワークの余裕を手厚くし、その信頼性を強固なものとする。

  • FCCの今回の手続の目標は、こうした移行を促進することにある。その過程では、できうる限り競争にまかせ、こうした重要な目標の実現のために必要な場合に限り熟慮したうえでの規制をおこなう。FCCとしては、最終的には様々なIP-Enabled Servicesをいくつかに区分していく必要があると認識している。例えばFCCの行う電気通信の規制の根源は、PSTNの独占的な所有をコントロールすることにあった。IP-Enabled Servicesはこのような独占状態として特色付けられるものではないが、FCCは、IP-Enabled Servicesの事業者についてもこうした伝統的な規制を適用する強固な理由があるのかどうかについてもコメントを求めるものである。以下詳述するが、その他の問題としては、現行の規制の枠組、すなわち、障害者によるアクセス、消費者保護、緊急911サービス、犯罪捜査当局等による通信傍受のためのアクセス、等の確保が、通信がIP-Enabled Servicesへと移行していく過程でもその妥当性を継続しなければならないのかどうかである。

■望まれるインターネット規制の早急な包括的基本ルールの策定

 6月の二つの出来事は、こうしたグランド・ルールの制定の遅れを待ちきれず、とりあえずの暫定措置を打ち出さざるをえなかったことを物語っている。この間の事情は、E911の義務づけ規則でも正直に述べられている。

 電気通信事業者は、今回の最高裁判決でケーブル事業者はその設備をライバルに利用させないでもよいことが確定した以上、電気通信事業者に課されているDSL事業者への開放義務についても撤回を求めるのが確実と予測されている。

 共和党政権と、FCCの多数派共和党系委員(5名中3名)がケーブル事業者への設備開放の義務付けに反対している背景には、インターネット等の新しい高度通信の早期の全国への普及のためには、ケーブル事業者の新規則設備や改良投資を促進しなければならないとの考えがあり、ライバル事業者にも設備を利用させる義務があったのでは、ケーブル事業者の投資改良意欲がそがれることを危惧していることがある。

 電話事業者についても、FCCは最近の改定で、同様な政策的な意図から、フアィバ・ツゥ・ザ・ホーム等の光ファイバ設備については、ライバル事業者への設備解放義務を除外、廃止している。

 インターネット等の新しいサービスは、そののびのびとした自然な発展のため、なるべく規制しないという高邁な基本姿勢は理解できるものの、そのサービスも多岐にわたり、現にその矛盾も顕在化しており、一律にはゆきかねる事情もある。FCCの策定にも時間がかかろう。しかし、市場に新しいインターネット等のテクノロジーに立脚した多種多様な新サービスがどんどん登場しつつある以上、規制の行方が不透明では、新サービス事業の採算見通しも立てにくく、包括的な視野からのグランド・ルールの一日も早い策定が待たれているのである。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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