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2009年2月掲載 |
政権交代でFCCはどう変わる
1月20日の政権交代でBush大統領が退任し、オバマ新大統領が正式に就任した米国で、通信関係の規制当局であるFCCでも、共和党系のMartin委員長(Chairman)が退任した。後任として、1月上旬には新大統領がHarvard大学ロースクールの同級生だったJulius Genachowski氏を指名するのではないかと報じられたが、その後正式な発表は行われていない。同氏は、10年ほど前、Reed Hundt元FCC委員長の法律顧問として補佐した経歴があり、FCCの事情には精通している。 現在FCCのトップは大統領の指名により、Copps委員長代行が務めている。
■FCC幹部の任免FCCは、他の行政機関とは異なり、大統領にではなく議会に報告する「独立委員会」であるが、幹部の5名の委員(Commissioner)はいわゆるpolitical appointmentで大統領が指名し、上院が承認することとされている。また、「委員は一つの政党が3名まで」という制限もある。これまでは政権党系から3名、その他が2名という慣行が守られてきた。今年の1月1日現在では、
となっていた。1月早々にTate委員が退任したので、現在はCopps, Adelstein, McDowellの3氏のみとなっている。新委員長に指名内定と言われたGenachowski氏は勿論民主党系であり、今度は民主党系が代わって多数派となる。退任したMartin前委員長は、シンクタンクThe Aspen Instituteで通信関係を担当する予定となっている。[ニューヨーク・タイムズ (2009/1/15)] Bush政権当時には、FCCの多数派は共和党系であったが、議会は民主党が実権をもついわゆる「ねじれ現象」だったため、委員長は議会との調整に苦慮する事態もあった。 FCCを統括する下院エネルギー・商業委員会の通信・インターネット小委員会委員長も、このほどEd Markey, D-Mass.から Rick Boucher, D-Va.に交代する。BoucherはこれまでEnergy and the Environment小委員長だった。 ■共和党系と民主党系委員の違いこれまで約8年間、FCCは二代続いた共和党系のPowell, Martin両委員長のもとで、様々な案件を捌いてきたが、民主党系委員との間では、政策理念の違いが折にふれて露呈した。FCCの議決は多数決であるので、3名の委員を擁する多数派の共和党系が有利であったが、2005年のSBCによる旧AT&Tの買収、VerizonによるMCIの買収などの大型合併案件の審査過程では、両派の意見の食い違いが際立った。 「規制より市場にまかせ競争促進」の共和党系と「消費者保護」に軸足の民主党系 案件により相違はあるが、共和党系委員は、「規制をできるだけ少なくして市場に任せ、競争を促進すること」を基本とする。合併や買収のケースでも、競争減退という負の側面だけではなく、「規模の経済」や「合併のシーナジー効果」によるコスト削減や、地方などこれまでサービスが十分ではなかった地域にも大手事業者の新しい高度サービスが効率的に展開されるプラスの側面をも十分比較考量して決定する。 これに対して、民主党系委員は、まず「消費者の利益の保護」を念頭に置き、合併による競争減退で料金値上げにつながらないか等を懸念する。先の2件の合併審査でも、最後まで審査を引き延ばし、SBCやVerizonから「今後数年間は料金値上げをしない」というような具体的なコミットメント(約束)をとりつけてからようやく承認に回っている。 こうした背景があるので、Martin前委員長は、退任に際して、新政権が今度は規制強化に傾くのではないかと懸念し、「規制が過剰となれば広帯域や無線ネットワークの拡大を阻害するおそれがある」と表明し、牽制している。[フィナンシャル・タイムズ (2009/1/19)] 案外少ない「全委員一致」 これまでのFCCの意思決定では、「全委員5名の一致」の案件は案外少なく、共和党と民主党の党派ラインにより賛否が割れることが多かった。規則等が多数決で決定される場合には、action by Commissioner A and B(AおよびB委員が賛成)、Commissioner C dissenting(C委員は反対)などと委員ごとの賛否が明記される。協議や根回しで最終的に妥協が図られた場合には、concur(同調)とかdissent partly(一部不同意)などと付記される。 ■当面は、民主党系のCopps委員が「委員長代行」にオバマ大統領から5年間の任期を持つ新委員長の候補が発表されない中で、当面は、Copps委員が委員長代行に任命されて民主党がイニシャチブをとった。彼は、商務省次官補などの公務のほか、通信にも詳しいErnest Hollings (D-SC) 上院議員のスタッフや業界団体、大学教授の経歴もある。8年前にFCCの委員として任命された。なかなかの鋭い論客で、現職にありながらFCCの広帯域政策を「200kbps以上を高速通信と定義しているFCCは時代遅れだ」と痛烈に批判し、ワシントン・ポストに投稿したりした。 彼は1月26日に、FCCの全職員に対して大要以下のような訓示を行った。
■オバマ政権の景気対策に「広帯域普及のための助成」が登場 オバマ新政権は、8,250億ドルもの経済振興計画を打ち出したが、その中に通信関係の施策が盛り込まれた。広帯域テクノロジーに60億ドルの助成金が割り当てられたのである。 米国での広帯域サービスの普及率は、先ごろのOECDの国際比較調査では韓国、日本、北欧諸国等に大きく水をあけられ、第15位となった。これをきっかけに、前述のようにFCCのCopps委員が火付け役となって、急激に危機感が醸成された。FCCの広帯域普及状況調査も、「高速通信」の定義自体を従来の「200kbps超」から「200kbps超 768kbps未満」を最低とし、「100mbps以上」までの8階層に大幅アップしたほか、地域ごとの普及状況も「地域」を従来の「郵便番号区域」から「国勢調査ブロック」に大幅細分化し、各地の細かい現状把握がなされるようになった。 この件では、新大統領の通信問題顧問のBlair Levinが早い時期から、「新政権はユニバーサル広帯域アクセスと緊急用全国無線ネットワークをしっかり助成する方針だが、経済再建の目的から、助成資金は目的を絞り込み、雇用創造にタイムリーに使用されねばならない」としていた。[ワシントン・ポスト (2009/1/14)] わが国では定額給付金などで紛糾しているが、米国では同じ景気対策にしても、大統領就任までの短い期間に、単なる目先の施策だけでなく、通信分野での未来のインフラ整備という明確で建設的な目標にも割り当てる米国の企画力には頭が下がる。 ■まだFCCの課題は多い 退任したMartin前委員長は、1月早々に「委員長在任4年間でのFCCの成果」という大部の報告書を発表した。次のような事項を達成したと、いわば自画自賛的に振り返っているが、これまでの4年間のFCCの努力の簡便な総まとめで、参考になる。
この報告書のようにFCCは精力的に活動してきたが、次のようにまだまだ多くの重要な課題が残されている。
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寄稿 木村 寛治 |
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