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清原聖子が伝える「2008年米国大統領選挙戦」
2009年1月26日掲載

最終回:エピローグ―高支持率に支えられ、オバマ政権発足

グローバル研究グループ 清原 聖子

 2009年1月20日、バラク・オバマ氏の大統領就任式が行われた。首都ワシントンのリンカーン・メモリアルから連邦議事堂まで続く「ナショナル・モール」と呼ばれるエリアには、200万人以上の観衆が、この歴史的瞬間をともに祝おうとつめかけた。日本でその様子をNHKBS1の生放送などでご覧になった方も少なくないだろう。

 当日私は、オバマ大統領の出身地のハワイにカンファレンス参加のため滞在していた。大統領就任演説は、米国東部時間20日午後12時に行われるが、ハワイでは20日午前7時にあたる。私たち、カンファレンス参加者60名ほどは、まだ外も暗い朝6時半から、カンファレンス主催者らによって用意された大型テレビで就任式を見よう、ということでホテルのホールに集まった。オバマ大統領の就任演説の間、私の両横に座っているアメリカ人は、固唾を呑んでその一言一句を聞き逃すまい、といわんばかりに、身を乗り出してテレビを見入っていた。最後に国歌斉唱の段になると、周りの人々は一斉に起立し、中には涙を浮かべながら国歌を歌っている人もいた。これまでこのコーナーで2008年大統領選挙戦を伝えてきた私は、オバマ大統領の就任式を楽しみにしていたが、やはり、アメリカ人と受け止め方は違うのだろう。もし1人でホテルの部屋でテレビを見ていたならば、私は就任式というイベントを遠く離れた別空間で行われている出来事として、見たことだろう。しかし、多くのアメリカ人とともに見ることで、たとえテレビ映像を通じてであっても、ワシントンに集った200万の観衆とのある種「連帯感」を感じることができた。

(写真1)Pacific Telecommunications Council会場ホールで、オバマ大統領就任式の模様を見るため早朝から集まった参加者たち:筆者撮影
(写真1)Pacific Telecommunications Council会場ホールで、オバマ大統領就任式の模様を見るため早朝から集まった参加者たち:筆者撮影

 2008年大統領選挙戦を伝える本コーナーも今回で終わりを迎える。最後に、オバマ政権の情報通信政策がこれからどの方向へ向かうのか、就任演説を基に占うこととしよう。

 オバマ大統領といえば、ハイテク通で知られている。大統領就任後もブラック・ベリーを手放さず、また、恒例の大統領による週末ラジオ演説の伝達チャンネルにYouTubeを使うところも、オバマ流。そのオバマ大統領は、就任演説の中で、わずかだが情報通信政策に関連して言及した。つまり、「雇用創出と経済成長のための新しい基盤を形成するため、大胆な経済復興のためのアクションが必要であるという認識の下で、デジタル回線の建設を行うこと、そして、技術の活用により、医療サービスの質を引き上げ、コストを下げる」という部分である。この内容は、政権発足前からオバマ大統領が再三「全米再生再投資計画」としてスピーチしてきたもののダイジェスト版にあたる。

 就任演説での言及から考えても、オバマ大統領は手始めに、経済再生プランの一貫として、ブロードバンドの全国的な普及に積極的に取り組むだろう。その方針を推進する上で、連邦議会の協力が欠かせない。早速連邦議会で見られる動きとして、1月22日現在、民主党主導の下院エネルギー・商業委員会では、先に発表された8,250億ドル(約73兆円)の包括的な経済刺激策の一部として、60億ドル(約5,309億円)規模のブロードバンド補助金交付法案を可決した。補助金は、ルーラル地域のブロードバンドや携帯電話サービスを拡大する目的で、高速インターネット網や無線ネットワークを建設する事業者に対し交付される。補助金を受け取るものはオープン・アクセス原則に同意しなければならない。また、連邦通信委員会(FCC)のブロードバンド政策声明を遵守しなければならない。同プランでは、補助金を交付する全国電気通信情報庁(NTIA)に対し、全米のブロードバンド利用可能性を2年間で地図化し、そのデータを公表することが求められている。NTIAはFCCと協力してブロードバンド計画を実施することになる。同法案に対し、下院エネルギー・商業委員会メンバーの共和党議員は、同法案に反対する必要はないが、十分な審議ができていない、と不満を表した。他方、利益団体では、携帯電話業界団体のCTIAは、オープン・アクセス原則に懸念を表明しているが、Public Knowledgeなどの公共利益団体はオープン・アクセス要件が盛り込まれた点を高く評価している。同法案は2月半ばには下院本会議にかけられるものと見られている。

 このように、オバマ政権発足と同時に、経済再生プランを早急にまとめるべく、民主党主導議会は動き出している。しかし、オープン・アクセス原則の厳守などの点で、業界団体からはすでに反対も浮かび上がっている。そうした反対が存在する中で、オバマ政権の経済復興計画の一貫として、ブロードバンド網の整備拡大がスムーズに進められるかどうかは、ホワイトハウスと連邦議会の協力関係が重要である。就任当初の支持率では、ケネディ大統領に次ぐ高支持率(68%)を誇るオバマ政権。その高支持率を後ろ盾に、これから様々な反発を抑え、雇用創出のためにもブロードバンドの全国的な整備を早急に実現できるだろうか。それは、大統領就任から100日が鍵である。

(写真2) オバマ大統領が通ったPonahou高校。同校はハワイでは歴史のある名門校として知られる。キャンパス外から筆者撮影。
(写真2) オバマ大統領が通ったPonahou高校。同校はハワイでは歴史のある名門校として知られる。キャンパス外から筆者撮影。

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