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2009年6月掲載 |
通信業界のここ数年来の大きな話題の一つは固定と移動、通信と放送の融合、あるいはトリプルプレーサービスの提供ということでした。事実、融合がトリガーとなり、世界の主要キャリアの再編が起こりました。
米国では結局、固定と移動通信事業を行うAT&Tとベライゾンの2大キャリアにほぼ集約されました。 また、映像サービスを巡り、この2大通信キャリアがIPTVサービスを開始し、ケーブルTV事業者であるコムキャスト、タイムワーナーケーブルと顧客獲得競争を繰り広げています。 欧州でもフランステレコムのように携帯事業子会社のオレンジをいったん上場した後で再び100%子会社化し、オレンジを統合的なブランドにするといった流れに見られるように、主要な欧州キャリアも固定事業と携帯事業を一体で行う体制になっています。 目をアジアに転ずると中国では今年初めにようやく3Gライセンスが付与されましたが、その前段として昨年末までに6通信キャリアが中国移動、中国電信、中国聯通という固定、移動の両方の事業を行う3大キャリアに再編されました。また、最近の動きでは韓国のKTがこれもいったん分離した携帯事業を行うKTFを再統合しています。 新たなプレーヤーの登場しかし、ここにきて通信業界に新たなプレーヤーが登場してメディア業界まで巻き込む混沌とした融合の動きが出てきました。グーグルやアマゾンといったいわゆる「ポータル事業者」の登場です。インフラ、ポータル、コンテンツというレイヤー区分を超えた融合の動きが一気に始まり各プレーヤーが混沌とした融合の渦に飲み込まれ始めています。 グーグルやアマゾンはいずれも膨大な顧客情報を集め、これをベースに広告収入やネット通販を行うビジネスモデルを目指し、巨大なデータセンタを構築し、グーグルにいたっては更に海底ケーブルの共同敷設といった従来の通信キャリアが行ってきた設備投資まで始めています。また、「クラウドコンピューティング」といわれる保有するサーバ、データセンタなどの設備を生かし、中小企業へのSaaS提供、大学の情報処理、運営を受託するなど身近なところまでその事業領域を拡大しています。携帯事業においてもソフトウェアのプラットフォームである「アンドロイド」を無償でオープンにし、ソフトウェア開発を広く開発者に委ねるという手法で業界に衝撃を与えました。グーグルの狙いはPCであれ携帯端末であれ、プラットフォームをオープンに統一し新たなサービスを開発するとともに、出来るだけ多くの顧客情報、顧客特性を集めるのが狙いではないでしょうか。 今年二月のバルセロナの世界最大級のモバイル展示会においては携帯端末ベンダーによる開発者コミュニティの設立が大きな話題となるとともに携帯サービスに力点が置かれた展示になり、携帯端末もタッチパネル端末に置き換わるといった変化を見せています。 どうする既存通信キャリアこのような課金モデルとは違う新たなビジネスモデルを目指すプレーヤーに対して通信キャリアは今後どのように対抗するのでしょうか。ユーザー数が飽和、減少する中で、新たなプレーヤーと同じくオープンなモデルで、新たなサービスを展開することにより新たな収入源を求めるか、あるいはこれまで築いたインフラを生かした信頼性の高いサービスを提供することに徹するか、新たな事業戦略が求められています。 今後、動画などによる膨大なトラフィックの急増に設備が対応できなくなる事態が想定され、早晩、インフラ投資が回収出来なくなったときには、定額制ではなく従量制を求める動きが出てくるものと思われます。グーグルなどはそれも見越し、データセンタや海底ケーブルに多額の投資を行っているのかもしれません。従来の通信キャリアにとっては混沌とした融合の中で今後どのような事業戦略をとるのか大きな岐路に差しかかっているように思われます。 |
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