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ICR View
2009年10月6日掲載

ICT消費の拡大が進む?

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 今月は新政権下の経済運営とICT産業動向について考えてみたいと思います。

 先ず、総務省の情報通信白書によると、我が国全産業の国内生産額の合計は、2007年で1005兆円、うちICT産業は98兆円で9.8%を占めています。生産額と比率を追ってみると、バブル崩壊前の1999年では全産業生産額931兆円に対し、ICT産業生産額は94兆円で金額、比率とも大きな変化は見られません。我が国のICT産業は規模、割合とも大きな変化をすることなく、ここ10年過ごしたことになります。ただし、内訳的には、通信業と情報サービス業の比率が高まり(約25%から約40%へ)、一方で、情報通信関係製造業の比率が大幅に低下しています。最近の10数年を見る限り、ハードウェアからソフトウェアへの移行、インターネットと移動体通信の急拡大とがあり、ICT産業の内訳構成が変化して来たことが裏付けられます。

 また、生産面から消費側に目を移してみると、ここでも大きな構造変化があったことが分かります。総務省の「家計調査」から個人消費全体とそのうちのICT消費の動向を見てみると、1990年代に年額400万円あった個人消費は、2008年には350万円強にまで、約10%低下しています。ところが、この間、個人のICT消費は一貫して上昇を続け、1990年代前半の年額8万円から、2008年には年額18万円にまで2倍以上に拡大しています。特に、1995年以降、携帯電話料金とインターネット接続料を中心に急拡大して来ましたが、2005年以降はさすがに伸びがゆるやかになりながらも、今日まで増加が続いています。

 ただ、ここで言うICT消費は、「家計調査」によりますので、何がICTの消費なのかは個人の回答により、振れがあると思われます。つまり、いわゆる通信料以外に、家庭で使うPCや小型のデジタル機器は通常含まれていますが、さらに、オンラインで購入する音楽やゲーム、コミックなども請求のされ方によっては、ICT消費と認識されていると想定されます。従って、広く通信業と情報サービス業、さらに家庭用の情報通信機器の製造業が対象になっていると考えられます。このように、調査上の多少のズレがあったとしても、個人消費に占めるICT消費の割合が1990年頃の2%から、2008年の約5%にまで高まっていることは大きな教訓を与えてくれます。日本の個人消費全体が伸び悩むなかで、個人のICT消費が拡大し、新しい消費スタイルを生み出して来たと言えるでしょう。これにより、私達の生活が便利で手軽になったことは確かですが、その一方で、安心・安全面で新しい難問も作り出して来ました。解決に向けた努力が必要です。

 さて、民主党政権下の政策は、どのような影響をもたらすのでしょうか。マクロ経済的に見て、民主党の経済政策は、その政策集によると、公的部門から家計部門への資源配分のシフト、子育て世帯等への所得配分のシフトを追求しているようです。経済運営上も、公共投資主導型から、個人消費の刺激により経済成長を図る、従来と異なる内需拡大型路線を目指していると思われます。こうなると、個人によるICT消費も大きく刺激される可能性があると予想されます。もちろん、最近10年のようなインターネットと携帯電話、PCなど家庭用情報通信機器だけではない、新たな消費対象が求められています。インフラの面では、NGNを始めとする情報格差のないブロードバンド網構築、モバイルの更なる利便性を高めるLTE(3.9G無線通信)の発展などさまざまな施策が進められていますが、問題は、これに見合った消費サイドのサービス・商品作りでしょう。テレビ、PC、携帯に続く、第4のスクリーンが家庭に普及しようとしています。高速・広帯域通信によって有線・無線を問わない常時接続型スクリーンが家庭に入って来る時代になります。テレビ放送に加えて、特定者向けの放送型配信(ナローキャスト)やゲーム性のある娯楽や教材の配信などの成長を望みたい。子ども手当ての支給が大きな柱となっている以上、子育てや教育などに役立つサービスが求められています。政策目的に合致した個人消費が進むことがベストです。

 現実問題として、我が国の家計貯蓄率は、高齢化要因を調整すると、約20%のままで低下していないという分析があります。(週刊ダイヤモンド2009/10/03、河野龍太郎氏「新政権は過剰貯蓄問題を解消し内需主導回復を実現できるか」)。家計が保有する金融資産は、約1400兆円と巨額な規模に上っています。しかしながら、将来不安から人びとは消費を抑制しています。折角の家計部門への資金シフトも貯蓄に回ってしまっては内需拡大とはなりません。そのためには、将来不安の根源となっている、年金、医療、介護分野に、国民共通IDの導入やナショナル・データベースの構築など、コスト負担を抑制しながら満足度を上げる方策を実施することが、個人消費拡大の車の両輪となると考えています。需給両サイドに新しくICTの世界が拡がることがポイントです。

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