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2009年12月9日掲載

期待される「経済成長戦略」

企画総務グループ
グループリーダー 伊藤 史典
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 政権交代後、八ッ場ダムの工事中止や、公開の場での2010年度予算の事業仕分けなど、「コンクリートから人へ」、政治主導のかけ声のもと、新政権による新たな取り組みが話題を呼んだ。
 一部には、パフォーマンスにすぎない、財務省の言いなり、短時間で結論を出すのはおかしい等々の声も聞こえるが、今までとは全く異なる方式に対する目新しさもあってか、支持する声の方が多いように思える。

 一方、経済情勢は厳しさを増しており、政府によるデフレ宣言、ドバイショックによる急激な円高の進行、新卒者の3人に1人はまだ内定が決まっていない、依然として高い失業率など、師走を迎えて厳しい数字が出てきている。
 これを受けて、政府の追加経済対策(第2次補正予算の上積み)や日銀の金融緩和策の追加など、当面の対策が打ち出された。また、国家戦略室では、年内に「経済成長戦略」の策定を計画しているようだ。
今、求められるのは、中長期的な「経済成長戦略」とそれを具体化するための即効性のある経済対策を公表することにより、国の成長戦略・ビジョンが見えないことによる先行き不透明感や国民の不安を払拭することだ。
特に、新政権になって、政治主導を標榜しているのであるから、是非、従来のような省庁縦割りの小粒な政策の寄せ集めではなく、予算の分割損を避けるためにも、複数の省庁・業界・分野にまたがって効果が期待されるような経済波及効果の大きい、業界横断的な骨太の成長戦略が期待される。

 ICT業界に身を置く立場からすると、従来、デジタルデバイド解消や地デジ難視聴解消に向けて、ブロードバンドインフラ整備へ公的資金が投入されてきたが、ブロードバンドインフラ(特にFTTH)は、それを利用して様々な業界からのプレイヤーが参入することにより、多彩な新サービスや新たなビジネスモデルが花開きつつあり、いわゆる「コンクリート」とは違って、その設備(インフラ)を作るための仕事と雇用が一時的に発生するだけではなく、その上で(いわゆる上位レイヤで)様々な仕事ひいては雇用が継続的に発生する、経済波及効果が高く、かつ長く持続するインフラであることから、景気対策としても、また成長戦略としても、公的資金の投入が継続・強化されることが望まれる。
 また、単にブロードバンドインフラの構築だけでなく、その上位で展開される様々な ICT端末機器、アプリケーション・サービスやビジネスモデルについても、セットで助成する政策も必要だ。

 地方出身者としての立場からすると、中央と地方の経済格差を解消するための施策、特に疲弊している地域経済を活性化するための施策を期待したい。
ICTの活用と規制緩和によって新たな仕事と雇用を創出するため、省庁横断的に取り組まなければならないであろう施策を思いつくまま、いくつか具体例を挙げてみたい(既に一部実施されているものもあるし、そんなことできるかというご批判は覚悟の上で)。

  1. 高齢者が細々と担っている地方の農業に、規制緩和により企業の参入を促すとともに、ICTを活用し農業生産物に不可価値を付けて他地域との差別化を図り、農業ひいては地域の再生、全国的には食料自給率の向上を目指す(例えば、食の安全に対する消費者のニーズをとらえた産地・生産者・有機無農薬栽培等の証明やトレーサビリティ、ご当地ブランドの育成・商品化と、世界、特に食文化の共通する中国・韓国の富裕層への情報発信とインターネットによる直接販売など)。

  2. 規制緩和により、地方の医師不足に対応するためのブロードバンドによる高精細映像を使った遠隔診断や、現地の医師に対し中央に偏在する専門医が行う遠隔医療・手術指導を推進する。

  3. ICTを活用し、中央から現地の安い労働力を使ったコールセンター業務・消費者相談業務などを地方へ分散することにより、地方に雇用の場を創出する(業務を地方分散し分散先で現地の労働者を雇用して業務を行う企業への助成を拡大するなど)。

  4. 少ない医療機関の偏在する県庁所在地級都市に、周辺地域の高齢者が低価格で居住できる住居(医療介護付きマンション、シェアハウス等)を整備(コンパクトシティ構想の促進)するとともに、ICTを活用した医療情報(電子カルテ)を当該施設と医療機関・介護施設等で共有する。

  5. 環境対策を大きな柱として取り組むからには、エコポイントの対象商品を人の移動を減らすことに効果のあるICT関連商品・サービス全般に拡大する。

 いずれにしても、総花的にお金をばら撒くのではなく、この国の経済成長戦略(ビジョン)を明確に示した上で、まずそのビジョンを実現するために必要であり、かつ短期的に経済効果・雇用創出効果の出る施策に的を絞って直ちに着手する(経済対策としての効果を期待)。

次に、多少時間はかかるが、大胆な規制緩和により重点分野でICTの活用を可能にして産業構造を変えることにより、新たな事業と雇用を創出し、しかも多くの業界・分野に対する経済波及効果の高い、また効果が持続する施策に焦点を絞り、大胆な財政出動を実施する。こうした取り組みを期待したい。

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