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2010年6月15日掲載

近づく株主総会とソーシャルメディアの登場

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 今月6月中下旬には、3月期決算会社の株主総会が予定されています。ICT産業の各社においても、2010年3月期の決算報告や役員の選任など必要な議案が付議されており、例年どおり慎重な準備がされていると感じています。今年は、こうした恒例の議案のほか、事業戦略、構造改革などが話題となる会社が多く見られます。メーカーでは新経営陣による事業戦略、M&Aによる構造改革を進める工事会社、さらに成長戦略が注目される通信会社など、さまざまなポイントがあります。

 毎年、株主総会の時期になると開かれた総会、会社にとって最大のステークホルダーである株主と経営を負託された経営陣との対話の場である株主総会のあり方が議論になります。会社のあり方を定める(決議)場でもある株主総会の運営こそ、“株主民主主義=ピープルズキャピタリズム”の本質につながるものです。最近では、株主と資本主義、市場経済の関係のあり方よりむしろ、ベンチャーによる起業の方に関心が移って来ていますが、株主重視の経営姿勢、即ち、成長戦略を追及する経営姿勢が今、問われているのだと思います。

 ICT経済動向は、1〜3月期生産活動はもとより前向きの在庫投資が増加するなど力強い回復基調にあります。ICT関連の機械受注(民需)など設備投資にも動きが見られるなど好調な上昇過程にあります。だからこそ、今回の株主総会において、ICT産業各社がどのような事業戦略、構造改革、成長戦略を打ち出すのかが注目されます。特に、通信業界では、インフラ・ネットワークのトラフィックが急増している中、無線と光ファイバーのブロードバンド回線構築が話題となっているので今後の成長戦略に特に注目が集まります。各社の「光の道」への対応、LTEへの取り組み、マルチメディア放送の取り込み、WiFiの活用など、株主総会で株主に対し積極的な説明と活発な質疑が行われることを期待したい。

 一方、今年の株主総会で別の意味で注目されるのは、ツイッターによる総会模様の発信や反応、ユーストリームによる公開などがより一層進展することが予想されることです。現株主なら出席する権利があり決議に参加する資格がありますが、それ以外の関心を持つ者はツイッターやユーストリームによる発信・公開を期待するのでしょう。潜在的な投資家・株主を作り出し、将来の株式市場の厚みを増す方策として開かれた株主総会へのこうした取り組みは前向きに評価したい。特にICT産業各社がソーシャルメディアの活用を具体的に取り入れる姿勢となることは良いことです。もちろん、既存株主、なかでも出席株主への説明と質疑が先決であり、その意見に耳を傾けるのが第一ですが、資本主義/市場経済の裾野を広げることに有効なソーシャルメディアの活用も必要であると考えます。最新ICTサービスの具体的なSocialization(社会化)実施の場として評価できるものです。

 ただし、インターネットを活用するソーシャルメディアの限界、留意点にも当然配慮が必要です。株主総会はあくまで権利者たる株主を主役とするものであり、ソーシャルメディアがベースとする不特定多数の関心者を対象とするためのものではないことには、注意しておくべきです。早耳情報の手段となってはいけません。ソーシャルメディアのユーザーを意識するあまり、現実の株主や出席株主の権利を制約するものであってはいけません。開かれた株主総会は先ずもって文字通り株主に向って開かれたものであるべきだからです。

 最後に、NTTにとっては、1985年に公社形態から株式会社になり、特殊会社日本電信電話株式会社が発足してから25年、四半世紀が経過しました。今年の株主総会は第25回になります。この間、1987年に東証に上場を果してのちの多数の株主を迎えての株主総会も20回以上となっています。ただ、NTTは「日本電信電話株式会社法」の適用を受けている特殊会社であり、株主総会の運営もその条件の下で行われて来ました。

 1980年代から90年代にかけてヨーロッパ先進各国(英仏独)で相次いで実施された電気通信事業の国営から株式会社運営(株式の売却を経て民営化)への変更の結果、株主との関係が新たに生まれて英仏独各国の主要(インカンバント)通信会社で株主総会が開催されるようになりました。日本と違うのは、フランスを除いて(注)いわゆる特殊会社法はなく、株主総会の運営が一般の商事法制(商法など)だけに基づいて行われていることです。NTTに適用されているいわゆる“NTT法”のような役員の選任や事業計画を政府の認可に係らしめる規定は存在しません。株主総会において株主の決議によって承認される本来の商事会社の姿となっている訳です。四半世紀の間、この点に関してはNTTの株主総会を取り巻く制度面の環境はほとんど変わっていません。従って、NTTの株主総会運営においては特殊会社ならではの困難があるように感じます。

 また、NTT株主の立場からすると株主の利害に関係する事柄が、中立的な立場からならともかく競争事業者などの利害関係者の視点からしばしば取り上げられることに違和感を感じているはずです。株主の立場から開かれた株主総会のあり方が追求されることを期待したいし、併せてソーシャルメディアの登場で会社経営陣と株主との対話がより一層促進されることを望みたいと思います。

(注)フランスには、インカンバント・キャリアであるフランステレコム(FT)を対象とする法律が存在し一般の商事会社とは異なる規定が置かれています。

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