ホーム > ICR View 2011 >
ICR View
2011年9月8日掲載

社会保障・税の共通番号(マイナンバー)制度の発展を期待

[tweet]

社会保障・税番号大綱の決定

 政府・与党社会保障改革検討本部は、その下に設置した社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会の結果をもとに、本年6月30日「社会保障・税番号大綱」を決定し、公表しました。
 今回の大綱で示された社会保障・税番号(マイナンバー)制度は、社会保障及び税制度の効率性・透明性を高めるインフラであり、全国民一人ひとりが固有の番号(一人ひとりに一つの番号=悉皆性、全員が唯一無二の番号=唯一無二性)をもつことになり、年金、医療、福祉、介護、労働保険等の社会保障分野と国税、地方税の税務分野で利用されるものです。これは国・地方の複数の機関に存在する個人の情報を同一人の情報であるということの確認を行うための基盤となるもので、制度の導入時期は制度設計や法案成立時期により変わり得るとしながらも、以下を目途とするとされています。

 平成23年(2011年)秋以降 早期に番号法案及び関連法案を国会へ提出
 法案成立後、早期に第三者機関を設置
 平成26年(2014年) 個人に「番号」、法人等に「法人番号」を交付
 平成27年(2015年)1月以降 社会保障分野、税務分野のうち可能な範囲で「番号」の利用を開始
 平成30年(2018年)を目途に利用範囲の拡大を含めた番号法の見直しを引き続き検討

 また今回の大綱では、番号制度について国民の理解を深めるとともに、国民ID利用を求める各界の要望に応じ、かつ、逆に懸念や不安視する声に対する説明として、「番号制度の可能性と限界・留意点」、「番号制度の将来的な活用」に触れている点が注目されます。特に、後者に関しては、

  1. この番号に係る個人情報は情報保有機関が分散管理すること、その上でシステム上の安全装置と制度上の保障措置を講ずることにより国民の安心をもたらすものであること
  2. この番号制度の情報連携基盤がそのまま国民ID制度の情報連携基盤となり、将来的にさらに幅広い行政分野や民間のサービス等に活用する場面でも機能するようシステム設計を行うものであること

を述べて、国民ID制度への道筋を示しています。

 共通番号制度であれ、国民ID制度であれ、日本は世界のIT先進国の中で、国民一人ひとりが統合したID(番号)をもっていない時代遅れの国となっていますので、ようやくここまで検討が進んできた共通番号制度を是非、実現までもっていく、いわばラストチャンスであると思っています。

 まだ、いくつか気になるポイントがありますので、その点について触れたいと思います。まとめれば、個人情報の保護と活用は車の両輪であるということに尽きます。

グリーンカードと住基ネットの教訓

 過去の日本の番号制度の議論は、30年前のグリーンカードと約10年前の住民基本台帳ネットワークにおいて見られたところですが、導入に際しての反対論では、常に国家による個人情報の管理・統制に対する危惧が主なものでした。現在でも、この危惧は完全には克服されてはいません。また、近年の情報流出、情報漏洩事故・事件が国民や利用者に不安感をもたらしているのも事実です。

 これらに対応するためには、結局、独立の専門的な個人情報保護機能を有する第三者機関が必須であり、特に現行法制下においては、具体的に国家行政組織法第三条に基づく、いわゆる「三条委員会」が少なくとも必要だと考えます。この三条委員会の事例としては公正取引委員会があり、産業界だけでなく、政府や国会などからも煙たがられる存在となっていますが、逆にだからこそ役割を果していると言えるのではないでしょうか。この三条委員会の存在こそ、番号制度の反対論に対する最大の説明・説得になるものでしょう。今回の共通番号制度をさらに国民ID制度に推進する上からも、産業界やIT業界において、個人情報保護にあたる第三者機関へのバックアップが一層求められていると感じています。

国民ID制度と個人情報保護法

 産業界からは、今回の社会保障・税の共通番号制度を越えて、このマイナンバーによる本人確認と名寄せをベースに個人情報の活用として、行動履歴、購買履歴、視聴・閲覧履歴や位置情報などのいわゆる「ライフログ」に関心が寄せられています。具体的には広告の世界において行動ターゲティング広告が迫力をもって取り上げられる実状にあります。

 現在の個人情報保護法は個人情報の保護において、あくまで主務大臣制を採用していて、残念ながら政府統一的な個人情報保護機関はいまだ存在していません。このため例えば、厳しい規制を定めた業法下にある業界(例えば通信や放送など)では厳格な、見方を変えれば過重な個人情報保護が要求されている一方で、業法のない、又は規制の緩い業法の事業者や外資系の事業者は独自の判断や海外での事例をベースに事業展開しているケースが見られるのが実情です。

 この点、今回の「社会保障・税番号大綱」は共通番号を対象に個人情報保護にあたる第三者機関の設置に言及していますが、一方で、現在の個人情報保護法の主務大臣制については何ら触れていません。共通番号だけが第三者機関の保護下にあるものの、個人情報の保護全般はこれまで同様、各省庁の下に置かれている現状のままとなります。これでは、個人情報保護のため第三者機関が必要とされる現実的な喫緊の課題である、EUの定める個人データ保護指令に合致するのかどうか、不透明のまま継続してしまうのではないかとの懸念が残ります。EUから見ると、日本はプライバシーに関して十分なレベルの保護ではないと長年扱われてきて、EU市民の個人データを日本に持ち出すことが禁じられたままとなっています。クラウドの時代、これでは日本のIT産業の国際競争力の重大な制約となります。

 国際的に通用する個人情報保護の第三者機関設置問題に関しては、現行の行政機構からは、消費者行政を扱う消費者委員会(消費者庁)に法制面の取り組み(例えば個人情報保護法の改正)を期待せざるを得ません。しかしながら、IT戦略本部や政府・与党社会保障改革検討本部の取り組み及びその議論過程、例えば、個人情報保護WG、情報連携基盤技術WGの検討状況に比べて、この種の個人情報保護法の基本的問題についての認識が進んでいないのが残念なところです。

個人情報の保護と活用は車の両輪

 今回の大綱による共通番号を越えて、国民ID制度へと道筋を進めて、民間部門での利用を推進していくためには、情報連携基盤の技術的な詰めや配置ばかりでなく、政府統一の個人情報保護全般を領域とする独立の専門的な第三者機関の設置が必須であると考えます。行政部門においては主務大臣制から離れることに抵抗感があるのではないかと感じますので、個人情報の活用のため国民ID制度を求めている民間部門、産業界においては、活用を進めるに際して同時並行的に個人情報の保護を推進し、国際的なレベルにまで引き上げる必要があることを十分理解して、行動・支援することが求められていると思います。

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。