2015年1月15日掲載 ICT経済 ICR View

「21世紀の資本」とICT - 代表取締役社長 浮田豊明

新年、あけましておめでとうございます。今回の年末年始は日の並びがよく、大型連休となった方も多かったのではないでしょうか。私も久しぶりにまとまった休みを取ることができましたので、予てより気になっていたトマス・ピケティ氏の600ページにも及ぶ大作「21世紀の資本」を通読することにしました。


同書については、ビル・ゲイツ、サマーズ、クルーグマン、スティグリッツといった有識者が挙って推奨している他、各種のビジネス書の書評でも取り上げられることも多く、経済関連の書籍としては異例のベストセラーとなっているとのことで、ご関心をお持ちの方も多いのではないでしょうか。


その内容ですが、ざっくりまとめると以下の3点になろうかと思います。


  1. 経済成長率よりも資本収益率が高くなり、資本を持つ者に更に資本が蓄積する
  2. この格差は世襲を通じて拡大する
  3. これを是正するには、世界規模で資産への課税強化が必要

このうち3については、それぞれ意見の分かれるところだと思いますが、1、2については多くの人が直感的に感じていることのように思われます。とりわけ少子化が進む日本においては、一人が相続する富が大きくなりますので、2の世襲を通じた格差拡大の傾向は懸念されているところでもあります。そういう意味では主張自体にはそれほど斬新さはないとも言えますが、にも関わらず同書がこれほど注目を集めている理由の一つに、統計の不十分な19世紀から現在に至るまでの300年に亘るデータに基づき実証して見せた点が挙げられるのではないでしょうか。執筆に15年を要したというその労力には全く頭が下がります。


さて、この格差拡大の要因の一つとしてよく挙げられるのがICTの進展です。コンピュータやロボットが人に代わり働くことで、資本を持つ者は更に生産性を高めることで収入を増やし、他方持たざるものの収入は低水準に留まる、といった議論です。確かにマクロ的に見ると、ICTが格差の拡大に寄与していると言えるのかも知れません。しかし、ここ数年の取り組みを見ていると、逆にICTが格差を解消するツールとしても活用され始めていると感じています。


例えば教育分野を例に取ると、「富裕層の子供は高度な教育を受ける機会に恵まれることから、非富裕層と比較し優位となり、結果として世代を超えて格差が固定化する」という議論が従来からありますが、ICTの活用により誰もが良質な高等教育を受ける仕組みが整い始めているのです。MOOC(大規模公開オンライン講座)と呼ばれるもので、インターネット環境さえあれば、ハーバード大学やスタンフォード大学といった高等教育機関が提供する講義をオンラインで受講できる仕組みです。2012年に米国で立ち上がって以降、世界的に普及し始めており、わが国においても昨年4月にJMOOCが講座を開講しています。このまま順調に拡大して行けば、意欲のある人は誰でも、何時でも、何処でも勉強することが出来るようになり、教育格差の解消に一役買うのではないでしょうか。


また、ICTは起業のハードルを下げることにも寄与しています。ネット系企業に代表されるように、大規模な資本がなくても優れたアイデアがあれば事業を立ち上げられるケースが数多く出始めています。さらにクラウドファンディングと呼ばれる不特定多数から資金を調達する仕組みを使えば、事業アイデアに対し、かなりの資金が調達可能となるようになっています。


資本主義の下、このまま格差は拡大するのか、あるいは一定の修正がなされることで是正されていくのか。細かい議論は経済の専門家に譲りたいと思いますが、ICT分野に従事するものとしては、ピケティ氏の想像を上回るようなイノベーションが起ることで、ICTが格差の解消に貢献し、結果として同氏の予測を覆されることを期待したいと思います。

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