2015年5月19日掲載 ICT利活用 ICR View

高齢者におけるICT利活用の広がりがもたらすもの

先日、通勤途上の乗換駅で始発電車を待って座席を確保し、いつものようにスマホを取り出し新聞記事を読んでいた。ふと隣を見ると、かなり年配の方がタブレットを操作していた。画面は電子版の新聞だ。かつては自分自身も車内では遠慮しながら新聞を読んでいたが、現在は紙媒体の新聞や雑誌・書籍よりスマホ・タブレットなどのデバイスを手にしている人が多い。その後、意識的に高齢者に目を向けて観察すると、FacebookやTwitterで情報発信をする人、ゲームをする人、映画鑑賞をする人…、それぞれのやり方で日常生活にICTを取り入れていることを再発見した。


このように高齢者におけるICT利活用が広がった背景には、2つの要因が考えられる。


1つは、現役時代に業務を通じてデジタル機器に慣れ親しんできた層が増えてきたことだ。パソコンの業務利用が本格化する前にリタイアした世代であっても、ワープロの利用経験があれば、同様のキーボードを持つパソコンを使い始めることへの抵抗感は少なく、スムーズにネット利用を始めることができるだろう。この傾向は時間の経過とともにさらに加速するものと思われる。


もう1つは、デバイスの進化だ。いわゆるガラケーの普及がパソコンを使えない層でもメールやインターネット閲覧を可能としたが、スマホやタブレットといった直観的なユーザーインターフェースを有するデバイスが登場したことにより、更にICT利活用のハードルが下がったことが挙げられる。とりわけ、大きな画面を持つタブレットや電子書籍リーダーは老眼に悩む世代にとっては救世主となっており、2本の指で画面を拡大するピンチアウト機能を使うことにより、新聞や書籍を読むことが億劫になっていたお年寄りが久しぶりに文章を読むきっかけとなることもあるようだ。


高齢者がICTを利活用することで、社会との一定のつながりを維持し、心身の健康に寄与するとともに、比較的消費活動にも積極的になり、経済的な効果も認められているという点については、異論はないだろう。

(参考:電通・東京大学の共同調査「シニアはネット利用により消費行動とコミュニケーションを活発化」(PDF)


「亀の甲より年の功」と言われるように、長年の豊富な「経験」に基づくお年寄りの「知恵」は時代を超えた普遍的な意義を持つとされている。私見ではあるが、この「経験」が「知恵」となっていく過程に、加齢に伴う情報インプット力・量の低下という要素もあるのではないだろうか。最新の情報のインプットは若者・壮年層には敵わない、しかしその代わりに過去蓄積した経験・情報を年月をかけて反芻し、普遍的な概念・知恵に昇華させてきたとも考えられる。ネット上にはそんなお年寄りの「知恵」も情報として蓄積されている。一方で、ICTの普及により、誰もがいくつになっても簡単に世界中の情報を入手できるようになった今日、今はごく一部の進歩的な高齢者が注目を集めている状態だが、今後こうした層が模範とされ、誰しもが追随することを余儀なくされると、前述したようなプロセスを経たお年寄りの「知恵」が生まれにくくなり、結果として高齢者層と若年・壮年層が均質化し、究極的には、その差異は体力的なものだけになる可能性もあるのではないか…。


と、少し議論を極端に振ってみたが、現実にはまだまだICTリテラシーの低い高齢者層も一定数存在しており、またリテラシーを有する層にしても、いたずらにトレンドに追随するのではなく、各々のライフスタイルのアクセントとして上手にICTを取り入れている、というのが実態であろう。いずれにしても、今後高齢者のICT利活用はますます広がっていくことは間違いない。その中で、ICTとの関わりにおいても、お年寄りの「知恵」で程よいバランスをとっていくことを期待したい。


リタイア後は情報の波から遠ざかり、ゆっくりリアルな趣味の世界にでも没頭したいと考える人も多いかも知れない。しかし、ここまで来るとICTから離れることは難しく、押し寄せる情報の適度な取捨選択の中で、うまく付き合っていくのがちょうどいいところなのではないだろうか。


そして最後は、「終活」だ。高齢者のICT利活用が一般的になったことで、遺言のように法的拘束力はないものの、ネットを利用した「終活サービス」も充実しつつあるようだ。また、SNSなどのアカウントをどうするかという問題も顕在化してきた。遺族がその扱いに困るケースもあり、最後は本人がどうしたいのかをきちんと決めておく必要がありそうだ。各社でいろいろ手続きも定められているようだが、これはネットの「終活」といっていい。やはりICTとは生涯縁が切れることはなさそうだ。

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