映画『スペクター』とサイバー・インテリジェンス | InfoComニューズレター
2016年2月3日掲載 ITトレンド全般 ICR View

映画『スペクター』とサイバー・インテリジェンス



007映画の最新作『スペクター』を観た。昨年末は『スター・ウォーズ フォースの覚醒』と本作のどちらを観るか、迷った人も多かったのではないだろうか。もちろん、私は両方観た。ダニエル・クレイグ主演シリーズは、相互に関連する四部作構成になっており、今回がその最終回にあたる。これまでの3作での伏線が本作で収束するため、プロットが絡みあう複雑な展開になっている。

開始前にはネット上で反対運動が起きたダニエル・ボンドも、良い評価が定着しているようだ。ジェームズ・ボンドが007になる前のエピソードで始まった『カジノ・ロワイヤル』から、早いもので10年近くが経つ。若きボンドもいつの間にか年老いて、前作『スカイフォール』では「00(ダブルオー)」部門での勤務が、もはや難しいと評価されてしまっている。彼がキャスティングされた際には、とうとう自分より若い俳優がボンドをやるのかと思ったものだ。なんだかとても悲しい。

今回のボンドガールはレア・セドゥとモニカ・ベルッチだが、このシリーズはそれ以外の女性キャストも豪華だと思う。新しいミス・マネーペニー(ナオミ・ハリス)はキュートだし、バーボンを飲む女性の「M」に驚かされたジュディ・デンチは、本作ではフラッシュバックのみだが、さすがの名優ぶりだった。敵役クリストフ・ヴァルツも、存在感のあるオーベルハウザー(秘密結社スペクターの首謀者)を演じている。

本作では、主要国の諜報機関の情報網を統合する「ナイン・アイズ」というシステムが、重要な役割をはたす。MI5の新責任者となった「C」は、時代遅れの「00」部門を廃止すべきと主張するとともに、テロ対策等をより強固にするために「ナイン・アイズ」の構築を推進しており、これをめぐる陰謀がストーリーのポイントになっている。諜報機関がその生命線である機密情報を統合しようと考えるのかという疑問はさておき、情報通信技術の進展を反映した設定だ。

確かに、インテリジェンスの世界でも、コンピュータ・ネットワークに蓄積された情報が重要になっている。このことは、スノーデン事件で明らかになった国家安全保障局(NSA)のインターネット傍受をみれば明らかである。一方で、諜報や治安維持のために利用できるデータは、通信内容や国家機密情報だけに限られない。もともと諜報活動のほとんどは、公知の情報の分析によって行われているという意見もある。さらに、現在我々はさまざまなセンサーに取り巻かれて生活しており、自分が思っている以上に自分に関する情報がさまざまなところに蓄積されている。

携帯電話やスマートフォンは常に位置情報をネットワークとやり取りしているし、GPSをはじめとする各種センサーが内蔵されており、本人が意識しなくてもさまざまな情報が発信され得る。自動車の情報化も進展が著しく、カーナビや制御装置がネットワークに接続しつつある。ICカード型の電子マネーを利用して、買い物をしたり公共交通機関を利用したりすれば、購買履歴や乗車履歴が記録される。随所に取り付けられた監視カメラの映像から顔認識や顧客の施設内での動線をトレースして、把握分析することも技術的には可能である。インターネット上の閲覧履歴や購入履歴、ブログやSNSでの投稿、写真、動画、発言など、膨大な情報がある。

こうした情報は、テロや犯罪の対策や捜査にも役に立つことは間違いない。現在すでに、民間が設置している監視カメラの映像が犯罪捜査に使われることは、一般的になっている。被疑者自身や関係者が発信した情報はもちろん、たまたま周辺にいた人がSNS等に発信した情報が、貴重な手がかりになる場合もあり得る。大量の情報を分析して、犯罪発生の可能性の高い場所を予測するシステムも、実用段階に入っている。

諜報機関が大掛かりに画策するまでもなく、本人の目が届かないところで淡々と情報が集積される。もちろん適正に使われればメリットも大きい。しかし、こうした情報の利用が暴走する可能性を考えれば、むしろ脅威としては深刻かもしれない。もちろん、個人情報保護の制度はこうした情報の本人を保護するためのものでもあるが、捜査機関等への情報提供は許容されることが多い※。社会の安全を維持する要請に応えながら、こうした利用が過度に行われないようにするにはどうしたら良いのか。まだまだ検討すべき課題は多いが、少なくともある程度の透明性確保は必要であろう。

※ビッグデータと犯罪捜査の法的課題については、拙稿「ビッグデータと捜査機関との情報共有」大沢秀介監修・山本龍彦他編『入門・安全と情報』(成文堂、2015年)をご参照頂きたい。

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