2015年8月28日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

Ofcomが専用線市場においてBTに対するダークファイバー提供義務化を提案


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2015年5月15日、英国規制当局Ofcomが専用線市場における競争評価結果「ビジネスコネクティビティ市場レビュー(以下「レビュー」)」を公表し、意見募集を開始した。レビューでは、一部地域・市場を除いてBTが専用線市場において大きな市場支配力 (Significant Market Power; SMP) を持つとして、Ofcomは専用線の卸提供(規制料金での固定系事業者への接続専用線提供や、携帯電話事業者への基地局回線提供等)義務の継続、およびダークファイバーの提供を新たに義務付けるよう提案している。2013年3月に発表した前回のレビューではBTへのダークファイバー提供義務化は不要とOfcomは判断しており、今回はその方針を見直している。

また、BTの設備運営会社であるOpenreachによる競争事業者に対する卸サービスの提供品質が悪い、として品質の改善を義務付ける提案も併せて行っている。一方で、古い方式の専用線については卸提供義務を廃止するなど、一定の規制緩和も併せて提案している。

本稿では、今回のレビューにおいてOfcomが提案したダークファイバーを含む卸提供義務の概要、Ofcomの判断根拠を紹介する。

ビジネスコネクティビティ市場レビューとは

OfcomはEU指令および2003年通信法に基づき、3年ごとに専用線市場の競争評価を実施している。競争評価の目的は消費者保護および有効競争、投資、革新等の推進にある。本レビューの卸提供義務案は卸料金規制案(2015年6月に規制案を公表)と併せて運用される。

本レビューでは2014年4月1日に関係者への情報提供依頼を公表しており、その中でBTがSMPを持つと判断した場合に卸売専用線に加え物理的インフラ(光ファイバーや管路)の開放を義務付けるべきかどうかを検討することを明らかにし、関係者に意見を求めていた。その後2014年10月に市場分析状況、11月に物理的インフラ開放義務に関する意見募集を行い、今回の規制案の提示、意見募集を実施している。意見募集の締め切りは2015年7月31日に設定されており、Ofcomは結論を2016年の早い段階で公表する予定である。

事前規制対象卸売市場・SMP事業者

【表1】事前規制対象卸売市場・SMP事業者
*イングランド東海岸の都市Kingston upon Hullのこと。
BTではなくKCOMが独占的に固定電話サービスを提供している。
(出典:Business Connectivity Market Review, Ofcom(2015)を元に作成)

Ofcomの市場分析

Ofcomは本レビューにおいて専用線市場における事前規制が対象な市場として、

  • 8Mbps 以下のアナログ・TDMインターフェイス (Traditional Interface; TI) 専用線
  • イーサネット・ファイバーチャネル・WDMインターフェイス (Contemporary Interface; CI) 専用線

 を指定し、TI専用線については英国全土(Hullを除く)、CI専用線についてはロンドン中心部を除くイギリス全土(Hullを除く)でBTをSMP事業者に指定している。

8Mbps以上のTI専用線については利用者数が減少しており、CI専用線により代替可能として事前規制は不要と判断している。またロンドン中心部におけるCI専用線市場についてはすでに競争が機能しているとして今回のレビューで事前規制は不要とする規制緩和を行う判断を下している(表1参照)。

専用線市場におけるSMP規制

Ofcomはレビューにおいて、BTに対して以下のSMP規制を提案している。 

  • 英国全域(Hullを除く)における8Mbps以下のTI専用線の卸提供義務
  • ロンドン中心部を除く英国全域(Hullを除く)におけるCI専用線の卸提供義務
  • ロンドン中心部を除く英国全域(Hullを除く)におけるダークファイバー提供義務
  • 卸サービスの提供予定日の順守、および提供期間の短縮(2018年までに平均提供期間を40日以内に短縮)

一方で以下の市場については事前規制不要と判断しSMP規制を緩和することも併せて提案している。

  • 8Mbps以上のTI専用線の事前規制廃止(CI専用線等代替サービスが存在)
  • 2Mbps以下のアナログ専用線提供義務廃止
  • ロンドン中心部におけるCI専用線市場における事前規制廃止(競争事業者が複数存在しすでに競争が機能している)

また、Hull地区については、KCOMに対して継続してTIおよびCI専用線の小売りおよび卸提供の継続を義務付けている(ダークファイバー提供義務は無し)。

ダークファイバー提供義務提案の概要

これまで、BTには事前規制対象市場において、専用線の卸売を規制価格で提供する義務が課されていたが、今回のレビューでOfcomは既存の卸提供義務に加え新たにダークファイバーの提供を義務付けることを提案している。

ダークファイバーの提供においては、①公平かつ合理的な条件・料金での提供、②不当な差別的取り扱いの禁止、③BTに提供する場合と同一品質での提供義務、④リファレンスオファー(標準提供条件)の公表、⑤料金規制の導入が併せて提案されている。

リファレンスオファーについては義務化確定後4カ月以内の案版公表、7カ月以内の最終版公表が、サービス提供については義務化後1年以内の提供開始が求められている。

また、ダークファイバーの提供料金については1Gbpsのイーサネット接続サービス料金からLRIC(Long Run Incremental Costs:長期増分費用)で算定した通信機器費用を引いた額とすることを提案している。

ダークファイバー義務化の理由

2013年に公表したレビューでは、物理的インフラの開放を義務化するには制度面での支持や仲介、場合によっては規制枠組みの見直しも必要になるが、

  • 物理的インフラを開放しても通信事業者が必要な投資を行う保証はない
  • 消費者向けの超高速ブロードバンドサービス用の次世代アクセスへの設備投資につながる証拠はない
  • 物理的インフラ開放の義務化により現状の卸専用線提供義務による競争状況が改善されるかどうか不明であり、規制見直しを正当化する明確な証拠がない
  • 非効率な市場参入を促進する可能性があるほか、追加コストが発生するなど消費者や効果的な競争に対して悪影響を与える可能性が高い

としてダークファイバーを含む物理的インフラの開放を義務化しなかった。

しかし、今回の提案にあたりOfcomは関係者からの情報に基づき以下の分析を行い、物理的インフラの中でも今回はダークファイバーを義務化すべき、と判断している。

  • 通信事業者が卸専用線を提供するBTの設備会社Openreachに新たなサービスの提供を要請した場合、BTを含む他事業者にも新サービスに関する情報が共有される仕組みになっているため、事業者間の差別化を図るための技術革新が起きにくい状況にある(BTが一方的に優位にならないよう定められた情報共有が逆に作用している)。
  • Openreachは要請された新たなサービスについてその1/3のみしか実際に提供できておらず、残りの多くの要請は発注側から取り消されている。取り消された要請のうち27%は物理的インフラがあれば通信事業者が自ら提供可能であった。
  • Openreachのサービス開発期間は平均で17カ月と長く、最も長いケースでは開発に5年かかっている。急速な市場発展の下で、長期にわたる開発期間は問題となりうる。
  • 卸提供義務のみでは通信事業者や消費者が望むような柔軟な対応を提供することが困難で、革新やサービスの改善・向上を阻害している。
  • 物理的インフラの提供を義務付けることにより、通信事業者は自社の顧客に独自の機器を併せて採用可能になるなど、革新を加速できる。
  • 管路を開放した場合はファイバー設置等のコストがかかることから大手事業者が有利になるが、ダークファイバーの開放であれば小規模な事業者までメリットを享受することができる。
  • 管路を開放しても都市部を除いては利益が出ないことから、通信事業者が独自にファイバーを設置するとは考えがたく、ダークファイバーの提供義務化により管路開放とほぼ同じ効果をもたらすことができる。
  • そのためBTがSMPを持つCI専用線市場において物理的インフラのうちダークファイバーの提供を義務化する。
  • ダークファイバーの提供により、BTよりも低コストでサービスを提供することができる事業者が料金低下を推進する。またイーサネットサービスでは使用機器を削減可能でコスト効率化に繋がる。

また、今回のレビューでは卸専用線とダークファイバーの提供を同時に義務付けることを提案しているが、Ofcomはいずれダークファイバーの利用が進めば卸専用線の提供義務は不要になるとして、長期的にはダークファイバーの提供義務に一本化する考えを示している。

まとめ

ダークファイバー提供義務化についてはBTのほか、Virgin Media, KCOMは2015年3月時点でダークファイバー提供義務化に反対を表明していたが、今回Ofcomはこれまでの方針を変更しダークファイバー提供義務化を提案した。

今回の提案は、既存の卸提供のみでは顧客要望の多様化に追いつけなくなっている実態にOfcomが懸念を示した結果と考えられる。2013年のレビューで懸念されていた容易に市場参入が可能となることによるデメリットよりも、顧客の様々な要望に速やかに対応できるようになることのメリットの方が国家の利益になるとの判断を下したものである。また、Openreachに対しては卸売CI専用線の納期短縮や納品日厳守を新たに義務付けるなどそのサービス品質にもOfcomが不満を持っているたことも伺える。

Ofcomは本レビューで規制強化だけではなく不要になった規制につては緩和も行っている。競争が激しい都市部や、代替手段があるサービスや利用が減っているサービスについての事前規制を廃止するなど、市場の実態に合わせて規制の見直しを地理別・サービス別に行っている。本レビューに関する報道ではダークファイバー提供の義務化が強調されることが多いが、事前規制においてはこのように細やかな市場分析に基づく判断が行われている点も注目されるべきであろう。

また、本件は現在審査が行われているBTとEEの合併に影響を与える可能性もある。Ofcom自身もレビューの中でBTとEEの合併を念頭においた審査を行うことを明らかにしている。競合携帯電話事業者はBTとEEの合併が認められた場合、EEがBTの専用線網を有利に活用し競争力を不当に高めるのではないかとの懸念を示していたが、ダークファイバーの提供が義務化されればこれらの懸念は解消されるとの見方もあり、BTとEEの合併審査に有利に働く可能性もある。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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