2015年11月26日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

ユーラシアからの撤退を決めたスウェーデンの通信事業者TeliaSonera ~足元の欧州事業も苦戦、音楽配信サービスSpotifyへの少額出資


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スウェーデンの通信事業者TeliaSoneraは2015年9月17日、ユーラシア地域での事業から撤退し、今後は欧州に事業を集中していくことを明らかにした。

撤退の大きな理由は営業コストといわれている。同社では、撤退に際しては進出先の各国の事情を考慮し、国ごとに撤退を進めていくが、いずれは全面的に撤退する方針に変わりはないと説明している。TeliaSoneraのユーラシア事業をめぐっては、欧米では昨年からずっと贈収賄スキャンダルで頻繁に報じられており、そのゴタゴタも撤退を決定した要因の一つだろう。

ユーラシア地域での相次ぐ不祥事:国際関係にも大きく影響

前述のように、TeliaSoneraは過去にウズベキスタンやアゼルバイジャンなどで贈収賄スキャンダルに関与した疑いがある。欧州だけでなく米国のメディアでも多く取り上げられており、TeliaSoneraのイメージは非常に良くない。

アゼルバイジャンでの不祥事

アゼルバイジャンでの子会社の株式取得をめぐっては、2008年にアゼルバイジャン政府から格安で取得したが、TeliaSoneraはその一方で、パナマのトンネル会社傘下のトルコ企業に対し、数年間で合計で60億クローナ(約910億円)の使途不明金を支払っていた。この使途不明の資金が、アゼルバイジャンで買収を可能にするために賄賂として用いられた疑いがあると2015年5月に報じられた。TeliaSoneraはこの報道に対して、実際に不明朗な資金の動きがあったことは承知しており、1年余り前から外部の専門家や内部のスタッフを動員して調査を進めてきたが、真相は解明できなかったと説明している。また、この件に関するすべての文書はすでにスウェーデン司法当局に提出済みであるとも明らかにしており、現地では大きなニュースとなっている。

ウズベキスタンでの不祥事

特にウズベキスタンでは、TeliaSoneraは、ウズベキスタンのIslom Karimov大統領の娘に賄賂を贈った疑いで、スウェーデンの司法当局による捜査対象となり、前CEOのLars Nyberg氏は本件で引責辞任していることから、印象が非常に良くない。そしてウズベキスタンでの問題では米国司法当局も乗り出している。ここ最近、米国の司法当局や検察は捜査対象を海外まで拡大しており、海外で展開している米国企業だけでなく外国企業や個人による汚職疑惑をも標的にして捜査している。そしてウズベキスタンで事業を展開しているTeliaSonera、Vimpelcom、MTSの通信事業者3社が周波数帯割り当て取得を目的として、ウズベキスタン大統領の娘のGulnora Karimova氏の関係する複数の企業に対して何億ドルも流していた汚職疑惑についての広域犯罪捜査に関連して、約10億ドルの資産を差し押さえるよう欧州当局に要請していると2015年8月に報じられた。TeliaSoneraとしても、結果として売上よりも不正な費用が大きくかかり、さらに国際問題にまで発展してしまった自社イメージの悪い市場で事業を展開していくことにメリットはないと感じているだろう。

ユーラシアの経済状況は見通し不透明

またネパールでもスキャンダルが指摘されている上、増収増益ではあるものの、大地震の影響も被って設備投資が今後は増加することが予測されている。他のユーラシア地域での状況も芳しくない。カザフスタンでは料金引き下げ競争が激しく、タジキスタンでも売上は減少している。モルドバ子会社はそれらに比べると健闘はしているが、業績にはほとんど貢献していない。またタジキスタン、ジョージア、モルドバ、カザフスタンでの事業については経済状況の見通し不透明なことを受けて2015年1月に減損処理を行った。現在のTeliaSoneraにとってユーラシア地域での事業継続は将来への収益よりもリスクの方が大きい。同社としてユーラシアでの事業を継続することは難しいと判断したことも頷ける。

TeliaSoneraが展開する各国での携帯電話事業(固定電話、ISPやテレビ事業等は除く)

【表1】TeliaSoneraが展開する各国での携帯電話事業者
(固定電話、ISPやテレビ事業等は除く)
出典:TeliaSonera公開資料等をもとに作成

出典:TeliaSonera公開資料等をもとに作成

【表2】ユーラシア地域でのTeliaSoneraグループ
出典:TeliaSonera公開資料等をもとに作成

欧州でも苦戦:売上の多くがスウェーデンとノルウェー市場

それではユーラシア以外の地域、TeliaSoneraのお膝元の欧州事業を見ていきたい。

TeliaSoneraは地元スウェーデンではブロードバンド事業が好調であるが、モバイル事業の売上は微増にとどまっている。スウェーデンはすでに携帯電話普及率が150%まで達しており、人口約960万人にもかかわらず主要通信事業者が4社存在している競争的な市場だ。TeliaSonera自身はスウェーデンで1位(加入数)だが、非常に競争が激しい市場である。スウェーデン市場では成長に限界があるため、TeliaSoneraは他国へ進出しているが、事業展開をしている他の欧州諸国では、フィンランド、ラトビア、エストニア、スペインなど同じく競争が激しい市場であることもあり、減収となった。

また2012年まではグループ全体の通年で増収増益だったが、2013年通年では、経済の停滞、規制強化および顧客の行動様式の変化を受けて、売上高は3%減の1,017億クローナで、純利益は25%減の149億クローナと減収減益になった。そして2014年通年の売上高が0.8%減の1,010億クローナ、純利益が3.1%減の145億クローナと減収減益が続いている。

またTeliaSoneraとノルウェーの通信事業者Telenorは2015年9月11日、2014年12月に発表した両社のデンマーク子会社統合計画を断念すると発表している。断念の理由としては、統合条件に関して、欧州委員会と合意に至らなかったことが挙げられている。当初の計画では、統合によってデンマークでのシェアが約40%以上となり、デンマークの通信事業者TDCを超えて1位になる予定だったが、デンマーク国内では、新会社とTDCによる寡占が懸念されていた。また欧州委員会も2015年4月に、デンマークでの2社統合について懸念を表明していたことから統合は難航していた。

TeliaSoneraグループの収益の大部分はスウェーデンとノルウェーである。ノルウェーではデンマーク市場では協力関係にあるノルウェー地元のTelenorが最大のライバルである。さらにノルウェーはスウェーデンよりも人口が少なく508万人と市場規模の小さい市場である。そして東京都の人口の半分以下の市場に主要通信事業者が3社あり、競争が非常に激しいため営業コストがかかる。またスウェーデン同様にスマートフォン導入が進み、携帯電話の普及率が125%を超えている成熟市場であり、今後の大きな成長は期待できない。

ユーラシア7カ国は増収増益であるものの、グループ全体の中では決して大きくない。ユーラシア7カ国全体での売上でもノルウェーの売上の半分程度である。さらに設備投資などの費用が嵩んでグループ全体では増収減益である。ユーラシア地域は増収増益であるものの、グループ全体への貢献は大きくないことから、将来性はあるものの、上述のような周辺の問題が多いこともあり撤退を決定したのだろう。だが欧州の他地域での事業展開も、各地域においてシェアは獲得しているものの、TeliaSoneraグループ全体への売上の貢献は大きくない。

TeliaSonera(スウェーデン)の加入者等の情報

【表3】TeliaSonera(スウェーデン)の加入者等情報
出典:公開情報をもとに作成

TeliaSonera(グループ)の業績(単位:百万クローナ)増収減益

【表4】TeliaSonera(グループ)の業績
増収減益(単位:百万クローナ)
出典:TeliaSoneraアニュアルレポートをもとに作成

TeliaSonera(スウェーデン)の業績(単位:百万クローナ)増収減益

【表5】TeliaSonera(スウェーデン)の業績
増収減益(単位:百万クローナ)
出典:TeliaSoneraアニュアルレポートをもとに作成

TeliaSonera(ノルウェー)の業績(単位:百万クローナ)増収減益

【表6】TeliaSonera(ノルウェー)の業績
増収減益(単位:百万クローナ)
出典:TeliaSoneraアニュアルレポートをもとに作成

TeliaSonera(ユーラシア地域)の業績(単位:百万クローナ)増収増益

【表7】TeliaSonera(ユーラシア地域)の業績
増収増益(単位:百万クローナ)
出典:TeliaSoneraアニュアルレポートをもとに作成

ユーラシア地域の主要事業者の売上高(上段)とEBITDA(下段)

【表8】ユーラシア地域の主要事業者の売上高(上段)と
EBITDA(下段)(単位:百万クローナ)
出典:TeliaSoneraアニュアルレポートをもとに作成

地元スウェーデンの音楽配信サービスSpotifyに少額出資

2015年6月、TeliaSoneraは地元スウェーデンの音楽ストリーミング配信のSpotify株1.4%に、1億1,500万ドル出資したと発表した。両社は2010年から提携しており、今回の出資を契機に両社は「イノベーション・パートナーシップ」と称して提携範囲の拡大を表明したが、具体的なTeliaSoneraの収益につながるサービス提供には至っていない。Spotifyは2006年にスウェーデンで創業され、2008年10月からサービスを提供しており音楽ストリーミング配信サービスとしては老舗である。「スマートフォンで音楽を聴く」さきがけとなったサービスであり、日本ではサービスが未展開であるためまだ馴染みがないが、全世界ではアクティブユーザー数も6,000万を超え、有料会員も1,500万人以上いる。Spotifyの2014年通年の売上高は前年比45%増の10億800万ユーロだったが、1億6,200万ユーロの純損失を計上しており、2013年度の純損失5,590万ユーロから大きく拡大している。営業損失は2013年度の9,100万ユーロに対し、2014年度は1億6,500万ユーロである。アプリ開発への投資費用が嵩み、ブラジルやカナダなど新規市場への参入に伴う投資もかさんだ。また2014年のロイヤルティ費用が8億8,200万ユーロと相当にかかっている。このように売上は伸びているものの、費用が相当にかさんでいるため赤字が続いている。さらに、現在はGoogleやAppleなども同じく音楽ストリーミング配信サービス市場に参入しており、今後は競争が非常に厳しくなることが予想される。TeliaSoneraが1億1,500万ドルを出資したが、約2億ドルの損失を出しており、世界規模で展開しているSpotifyにとっては、TeliaSoneraとの「イノベーション・パートナーシップ」の拡大よりも他にやらなくてはならないことがたくさんある。

前途多難なTeliaSonera

TeliaSoneraはスウェーデンのTeliaとフィンランドのSoneraが合併して2003年に設立された会社であり、現在でも両政府が株主になっている。従業員も全世界で26,000人以上いるグローバル企業だ。

韓国KTと技術協力

TeliaSoneraは2015年6月に韓国の通信事業者KTと5G技術およびIoT関発に向けて提携した。TeliaSoneraはKTが実施している韓国の全島や僻地でもブロードバンドにアクセス可能となる「ギガ・アイランド・プロジェクト」に関心を持っている。これは僻地の島や地方でもブロードバンドを敷設して、デジタルデバイドを解消していこうというプロジェクトである。スウェーデンやノルウェーなどの北欧市場では北極に近い地域ではインフラ敷設が大変な地域が多いことから、TeliaSoneraは関心を示しているのだろうが、目先の収益にはなりにくい。

海外の通信事業者も注目のTeliaSoneraの動向

TeliaSoneraはスウェーデンの企業であり、同国の市場は人口規模からしても非常に小さく、飽和していることから、早い時期から国外の収益を求めて海外に進出していた。海外への進出先もフランスや英国、スペインのようにアフリカや中東諸国、中南米市場といった旧植民地があるわけでもなく、同様のドイツが地理的に近い東欧市場に行く戦略を取ったのに対し、ユーラシア地域へ進出した。ところが、そのユーラシアでの事業が芳しくなく撤退をせざるを得なくなった。

また、足元の欧州でも経済停滞や競争激化によるコスト高が影響して、決して順調ではない。儲かっていない欧州市場からの撤退も時間の問題かもしれない。最終的にはスウェーデンやノルウェーなど北欧市場だけに集中して事業を展開していくことになる可能性も高い。現在TeliaSoneraはグローバル企業として欧州やユーラシアなど17カ国で事業展開しているが、近い将来は北欧中心のローカルな企業になることだろう。

そして、今後は各国の通信事業者への出資ではなく、Spotifyのようなコンテンツやアプリを世界に向けて販売している事業者への出資や提携などを行っていく方向に舵取りをしていくだろう。資金力にゆとりがあるうちに多くのコンテンツやアプリ事業者と提携や出資をしていく可能性が高い。但し、このようなコンテンツ事業者にとっては通信事業者から出資してもらうことは嬉しいかもしれないが、提携するメリットを通信事業者がどこまで出せるかは難しい。特に今後TeliaSoneraが北欧のローカル企業になってしまった場合、コンテンツ事業者としてもTeliaSoneraの顧客規模に期待できないことから、提携にメリットはない。TeliaSoneraのユーラシア事業からの撤退は通信事業者の海外事業展開の難しさを表している。今後は英国やフランス、スペイン、ドイツなど欧州の通信事業者で、発展途上国で海外展開をしている事業者にも影響を与えるかもしれない。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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