2015年12月24日掲載 ICT利活用

日本でも根付きはじめたFinTech


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ここ数年、金融サービスとIT技術を融合させた「FinTech(フィンテック)」という言葉を目にする機会が多くなった。欧米の金融業界では、革新的なIT技術を活用した新しい金融サービスが次々に生まれている。しかし、日本はこの分野では出遅れ気味の感は否めない。金融にはもともと高い公共性と信頼性が求められるが、ITの高度化とネットワークの高速化に伴い、さらに高いセキュリティとスピードへの対応が求められている。ITと金融が結びつくことによって何が起こるのか、FinTechの発達と普及によって私たちの生活はどのように変化していくのだろうか。

本稿では、FinTechの世界的な潮流と日本における動向を概観し、今後の課題について考察する。

「FinTech」とは

「FinTech」は、Finance(金融)と Technology(情報技術)を組み合わせた造語である。この用語に関しては明確な定義が確立されておらず、対象とする分野や内容範囲も幅広い。一般的にはITと金融を融合させることによって、新しい金融サービスやビジネスモデルに関連するソリューションを創造するという動きを指して使われることが多いとされている。

欧米では近年の急速な IT の発達を受け、今まで金融とはほとんど関連のなかった分野のベンチャー企業が、先進的で使い勝手の良い金融サービスや、従来の銀行やカード会社が提供していたものに取って代わるような金融関連のサービスを矢継ぎ早に発表しており、それと同時に商用のサービスとして提供を開始している(図1)。

米国における有力なFinTech関連企業

【図1】米国における有力なFinTech関連企業(出典:venturescanner.com)

既存の金融システムに取って代わる新しい動きが出始め、そのような動きが FinTech と呼ばれるようになってきた。ベンチャー企業により新しいソリューションやソフトウェアが金融の分野にもたらされたことにより、新たな収益機会が生まれるだけでなく、既存の収益モデルにも効率化によるコスト削減等の効果が現れてきている。今後もFinTechに関連する市場規模はますます増えていくことが予想されている(図2)。

FinTech分野へのグローバルな投資活動

【図2】FinTech分野へのグローバルな投資活動(出典:Accenture)

FinTech対応はベンチャーが主導

FinTechでは、主にBtoCのサービスを中心に、インターネットを活用した新しいビジネスモデルが次々と生み出されている。これらの新たなビジネスモデルと既存の金融機関とで大きく異なるのは、ITに対する投資の考え方である。これまで金融機関では法律に基づいて業界共通のサービスが提供され、安全で安定して稼働することが最重要と考えられてきた。構築してきた電算センターや通信回線や端末機器等の情報システムは、金融機関がベンダーやキャリアを選定し、業務に対する独自のポリシーや文化を反映させて自前で作り上げたものであった。このやり方だと、確かに信頼性は高く、安全で堅牢なシステムを用意することができる。しかし、ほとんどが自社用にカスタマイズされたハードやソフトウェアを用意するため、構築はもちろん、運用や維持管理に多額の費用が必要になる。さらには、安全やシステムの安定性を優先するために、新たな業務に対応するための機能追加やシステム更改の際には費用だけでなく時間もかかっていたのである。つまり、インターネットやスマートフォンの普及と回線速度の高速化により利用者のニーズが変化しても、既存の金融機関ではそれにタイムリーに対応できていなかった面がある。

これに対し、FinTechでは利用者の端末とインターネット上の資源を活用して、かなり安いコストで構想を具現化し、ビジネスを立ち上げることができている。しかも、制度や慣行に縛られることなく、ベンチャー企業によっていろいろな新しいアイデアを試行することが可能になるのである。もちろん、試行したサービスすべてが商用的にうまく行くわけではないが、その中から従来の金融機関では考えつかなかった斬新な技術革新が生まれて、広く世の中に普及し、スタンダードとなる可能性も大きくなっている。その結果、人々の生活や行動に対して大きな変化をもたらすかもしれない。

もちろん、経済を支えるインフラの役割を持つ金融システムの安全性と安定性は最優先で考慮し維持していかなければならない。しかし、利用者のニーズは多様化し、変化のスピードもますます速くなっている。そのような状況を踏まえてか、従来型のサービスを提供してきた金融機関ほどますます盛り上がりを見せているFinTechに対して危機感を持っており、対応に向けた取り組みを加速させている動きが見られる。

スマートフォンの普及が背景に

急速にFinTechが盛り上がった背景として重要なのは、iPhoneをはじめとするスマートフォンの世界的な普及にある。もちろん、日本では2000年頃の携帯電話普及期にもNTTドコモの「i-mode」プラットフォーム上で動作するモバイルバンキングやクレジット決済、電子マネーの実装が進み、利用が一般化した。ここが出発点となり、現在のFinTech隆盛の動きにつながっていることは間違いないだろう。携帯電話がライフスタイルの中心を占めるようになった後に、通信速度が向上し、高度に機能と性能が進化したスマートフォンが登場・浸透したことで、金融サービスにおけるイノベーションを加速させる環境が整ったのである。

それまでの日本では、スマートフォンが世に出る前には、NTTドコモがキャリアとして初めて、高機能化したフィーチャーフォン向けに「iアプリバンキング」の提供を開始するといった進んだ独自の動きも見られた。しかし、提供キャリアが限定されるうえに、利用登録できる金融機関が最大2つであること、対応する携帯電話の機種が限られること、そしてサービスに接続する金融機関も自社用の取引アプリを独自に開発しなければならず、IT投資が可能な資金と技術力がある、一部の都銀や地銀しか対応できなかったことがハードルとなり、なかなか普及が進まなかったのである。

ここ数年のスマートフォンやタブレットの登場と利用率の向上により、パソコンで利用できるインターネットの各種ホームページやサービスが、場所や時間を問わずに同じように利用できる、というのが普通になりつつある。若い年齢層では、パソコンよりもスマートフォンやタブレットを使う時間の方が長いという場合も多い。スマートフォン利用者は肌身離さずスマートフォンを持ち歩くため、高いセキュリティレベルが求められる金融サービスの提供においても、スマートフォンは非常に使い勝手が良い。もともと、スマートフォン自体に生体認証や複雑なコード入力に対応する、といった高機能な認証の機能が実装されており、厳格な本人確認と認証を必要とする金融取引にそのままその機能が利用できるため、とても都合が良いのである。

FinTechで既存の金融サービスに変化

ここ数年で、日本でのFinTechという言葉に対する認知度はかなり高くなったものの、結局何ができるのか、生活にどのような変化をもたらすのかは、まだまだ未知数である。

しかし、少しずつではあるが確実に、変化の動きは出てきている。例を挙げると、ソーシャルネットワークサービス (SNS) 大手の LINE(株)は、独自の決済サービス「LINE Pay」をすでに2014年末から日本国内向けに提供している。このサービスだけを取っても日本におけるFinTech勃興の動きと捉えることが十分できるのだが、ここに来て、既存の金融機関がこのようなLINEを活用した決済サービスを活用することで自社のサービスチャネルの拡大を図ろうとする動きも始まっている。

みずほ銀行は、「LINE」アプリ上で銀行口座の残高、入出金明細を照会できるサービス「LINEでかんたん残高照会サービス」を提供開始している(図3)。LINE上での口座照会機能の提供は邦銀初だという。

みずほ銀行×「LINE」

「LINEでかんたん残高照会サービス

【図3】「LINEでかんたん残高照会サービス」
(出典:みずほ銀行ホームページ)

このサービスはみずほ銀行の口座を持つユーザー向けのサービスで、みずほ銀行LINE公式アカウントのトーク画面上で専用スタンプを送信することで「口座残高」と直近の手続き10回分の「入出金明細」を照会できる。利用するには、同行のWebサービス「インターネット残高照会」への利用登録が必要となる。みずほ銀行に口座を保有する個人の顧客が「LINE Pay」の利用を希望する場合は、あらかじめ「LINE Pay」へチャージを行う口座振替の申し込みを行う必要がある。口座振替の手続きが完了すると、銀行口座から「LINE Pay」にチャージすることができる。また逆に「LINE Pay」から登録した銀行の口座への出金も可能となるので、結果として銀行振込と同じことがアプリ上で可能となる。

みずほ銀行とLINE Payの連携図

【図4】みずほ銀行とLINE Payの連携図
(出典:mynavi.jp)

もちろん、従来のインターネットバンキングでも同様の機能が提供されているが、初回利用申込時の手間が決定的に違う。インターネットバンキングでは面倒な申し込み手続きが必要だったが、「LINE Pay」ではスマートフォン上の申し込み登録だけで利用が可能になる。ただ、いくら便利に利用できるからといっても、日本では、ユーザーが金融取引に求めるセキュリティの水準や個人情報の保護意識が高いため、LINEのような簡単に利用できるアプリを自身の銀行口座と連携することに対して、漠然とした不安を感じる人たちがまだまだ多く存在することも事実である。FinTechを活かした金融サービスが日本で普及していくためには、彼らが持つ不安が解消できるような仕掛けや運用、利用実績の積み重ねがまだまだ必要だろう。

銀行への規制緩和が鍵に

日本において、銀行またはその子会社には、銀行法が定める業務範囲規制を満たさない、国内の会社について、5%(グループ合算)を超える議決権を保有することが禁止されており、さらに、最近増えてきた銀行持株会社の形態をとる場合でも、合算で15%を越えた議決権を保有することができない、という規制が適用される(銀行法第16条の3、第52条の24)。加えて、一般企業の関連会社に相当する銀行法上の関連法人等にも業務範囲規制が及ぶとされている。

つまり、銀行や銀行持株会社、およびその子会社と関連会社の業務範囲は厳しく制限されており、自らFinTech領域のビジネスに参入するにあたっては制約がある。今後、銀行が買収や出資によって新しい金融サービスの業態を展開しようと動いても、その買収や出資の対象となるFinTech領域を扱う企業の業務に銀行法で認められた範囲に該当しない業務が含まれる場合は、買収や出資が不可能となってしまう。普通は、買収や出資候補となるFinTechを得意とするベンチャー企業で扱っている業務範囲が、銀行法で定める範囲をクリアするというのはまれであり、結局、国内では5%(銀行持株会社の場合には15%)を上限とした出資の関与しか許されないことになってしまう。銀行を取り巻く現行の法制度は、FinTech領域への進出や活用に積極的な銀行や金融機関の意欲を削いでいるだけでなく、障害にさえなっていると言わざるを得ない。そして結果的に個人法人を問わず実際の利用者にとっても、先進的な金融サービスを利用する機会が遠ざけられていることになる。金融機関や、FinTechに取り組むベンチャー企業の動きを活性化し、ユーザーが安全にサービスを利用できるような環境を作るために、関連する法制度について早急な整備が必要であろう。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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