2016年4月25日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

NTTドコモの新たな災害対策~地震予測・津波監視へのアクティブな協力~

※本記事の内容は、2016年3月25日時点のものです。
平成28年熊本地震で被災された方々、ご家族の皆様には心よりお見舞い申し上げます。


2016年3月2日、NTTドコモ(以下「ドコモ」)は災害対策としての以下の新たな施策2件を同月4日から開始すると発表した。

  • 地震予測:(株)地震科学探査機構 (JESEA) の「地震予測システム」実証実験への協力
  • 津波監視:基地局に設置したカメラからの津波の被災状況監視

地震や津波といった自然災害に対し、ドコモ・KDDI・ソフトバンクの3社は緊急速報メールでユーザーへ情報を周知している。しかし、上に挙げたドコモの取り組みはモバイルキャリアの中ではおそらく初めてのものだ。このような災害対策への取り組みには、災害からの自社ネットワークの保護、および社会貢献への参加という2つの側面があるだろう。
本稿ではドコモの新たな災害対策への取り組みを解説するとともに、同社の社会貢献について考察する。

JESEAと「地震予測システム」

ESEA独自の地震予測手法

JESEAは、独自の手法で地震を予測し、その予測内容をメールマガジンやWebサービスで配信する企業だ。
「独自の手法」とは、村井俊治 東京大学名誉教授と、(有)環境地質研究室を主催する荒木春視氏の、JESEA顧問を務める両氏が発案した、測量工学をベースとした手法だ。両氏は地震学者ではなく、村井氏は測量工学の権威、荒木氏は地盤調査・環境調査・火山活動調査のエキスパートで、地震学者とは異なるアプローチで地震予測を行っている。

この手法は、「地表の3地点から成る三角形の変形を測定して地震や火山噴火を予測する」と要約することができる。図1を用いてもう少し具体的に説明しよう。3次元のXYZ座標内に観測点A, B, C、およびこれらを直線で結んだ三角形ABCを設定する。三角形ABCをXY平面・YZ平面およびXZ平面に投影すると、3つの三角形ができる(図1下のXY平面に投影された三角形AXYBXYCXY、ほか2つ)。日本全土をこのような三角形のメッシュで覆い、これらの三角形の面積変動率を測定して地震予測を行うわけだ。

「地震予測システム」の概要図

【図1】「地震予測システム」の概要図
(出典:特許第3,763,130号 特許公報)

短期間で地表の変動が大きい場合は地震発生の可能性が大きいことは我々も感覚的に理解しているが、この手法はそれを定量化するとともに、三角形の面積、およびその変動率で数値化している点に特徴がある。従来手法では観測点を結んだ直線(つまり図1の三角形ABCの辺ABなど)の変化を測定していたが、それでは震源や被害地域の面的な予測が困難であった。

村井・荒木両氏は2003年にこの手法を特許出願し、2006年に「特許第3,763,130号 地震・噴火予知方法」として認められた。本特許は日本初の地震予測に関する特許となった。

JESEAによると、地震予測に当たっては本特許に示す三角形の面積変動率に加え、1週間以内の観測点の異常変動、約2年間の隆起・沈降、観測点の累積変位、東西・南北・水平方向の異常変動という、計5つの要素を利用している。

日本全土に配置された観測点

前述の予測手法では観測点A, B, Cが設定されていた。実際に日本の国土で設定されている観測点としては、国土交通省 国土地理院が設置している「電子基準点」がまず挙げられる。電子基準点は、GPSや準天頂衛星等の測位衛星システム(総称してGNSS)で地上の位置変動を観測するために設けられた観測点で、高さ5mのステンレス柱に衛星受信アンテナや通信機器が搭載されている(図2)。

日本全土ではこのような電子基準点が約1,300基設置されており、世界でも有数の規模・精度を誇る(図3)。図3では、近い将来に大規模地震発生の可能性が高いと指摘されている東海地域で電子基準点の密度が高いことがわかる。
上述の電子基準点のほか、JESEAは独自でも電子観測点を設置しており、地震予測の精度を高めるように努めている。

様々な年式の電子基準点

【図2】様々な年式の電子基準点
(出典:国土地理院Webサイト「電子基準点とは」)

国内の電子基準点設置状況

【図3】国内の電子基準点設置状況
(出典:国土地理院Webサイト「電子基準点とは」)

 

実証実験へのドコモの参加

ドコモの発表によると、今回の実証実験で電子観測点を設置するのは国内16カ所の基地局だ(図4)。これらの基地局サイトに設置された電子観測点から、地殻変化のデータをドコモのモバイルネットワークを用いてリアルタイムでJESEAに送信する。ドコモから送信されたデータは平均化単位時間を任意に設定可能で(国土地理院の電子基準点では平均化単位時間は1日)、他の電子基準点・電子観測点では発見できなかった地殻変動を捉え、地震の発生場所・時刻の精度向上に貢献することが期待されている。

JESEAの実証実験に参加するドコモの基地局

【図4】JESEAの実証実験に参加するドコモの基地局
(出典:ドコモのプレスリリースをもとに情総研作成)

図3と図4を比較すると、ドコモ基地局への設置は必ずしも東海地域で厚いわけではない。ドコモでの運用上、ドコモの各支社の管轄地域に最低1基は設置される形になっていることはわかるが、なぜこのような配置になったのだろうか? 実は、これもJESEAの予測に基づいている。村井顧問は、今後震度5以上の地震が発生する可能性が高い地域として、以下を指摘している※1。

  • 東北・関東の太平洋岸、奥羽山脈周辺
  • 南関東
  • 南海・東南海地方
  • 北信越地方、岐阜県

なお、ドコモの基地局に設置される電子観測点、および後述する津波観測用カメラの外観は図5のようになっている。

ドコモの基地局サイトに設置された電子観測点、および津波観測用カメラ

【図5】ドコモの基地局サイトに設置された電子観測点、
および津波観測用カメラ
(出典:ドコモのプレスリリース 2016/3/2)

ドコモの「津波監視システム」

「津波監視システム」は、JESEAのシステムとは独立にドコモが設置を進めている。設置場所は図4とほぼ同じ場所の基地局だが、津波監視という性格上、内陸部の(3)北海道足寄町、(6)山形県村山市、(9)長野県茅野市は除外された。一方で、沿岸部の(11)三重県志摩市は3カ所に増強し、静岡県御前崎市にも設置される。

これらの基地局には、図5に示すように基地局タワーの頂上部に遠隔操作可能なカメラが設置され、津波発生時の沖合の様子、および基地局の通信設備の被害状況を確認することができる。本システムで撮影された映像は、基地局設備の復旧作業を行うタイミングの見極め、また必要な復旧作業の内容判断などに活用される。

2011年3月に発生した東日本大震災では、全国で約6,720基、東北では約4,900基の基地局がサービスを一時中断した。このときは全国からの人員支援により、約1.5カ月で震災前のエリアまでほぼ復旧することができた。ドコモの「津波監視システム」は東日本大震災から5年を迎えた節目において、災害対策への新たな取り組みと、被災からの迅速な復旧を目指すものといえるだろう。

まとめ:社会貢献も視野に

ドコモがJESEAの実証実験に参加することになったきっかけは、村井顧問の「地震予測は苦しいが、苦しいところから逃げない」という発言に触発されたものという。予測は外れることもあり、外れたときの世間の目は厳しい。しかし、そこから逃げないという姿勢の根底にあるのは、苦しくても社会のためになるという気持ちだろう。
ドコモが今回設置した電子観測点や津波観測用カメラは既存の基地局設備を利用しており、今あるものを有効活用しようという側面もあると考える。これらの設備が活用されることで、ドコモだけが利を得るのではなく、社会全体に役立つようになれば、立派な社会貢献だ。

JESEAにせよ、ドコモにせよ、今回紹介した取り組みは民間企業によるものだ。東日本大震災以降、内閣官房は「国土強靱化」へ取り組んでおり、国全体だけでなく地方自治体でも計画策定が進んでいる。このような流れの一環として、国や地方自治体で民間の力を活用し、国土強靱化の一端を担ってもらう可能性も高いのではないか。

※1「地震予測の権威 村井俊治さん NTTdocomoと新しい取り組みへ! | Mr.サンデー」.PAGE(ブログ) 2016/3/6

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