2016年5月19日掲載 IoT InfoCom T&S World Trend Report

ICT雑感:地図が導く人とクルマ~その2(自動運転編)



2016年1月号のICT雑感「地図が導く人とクルマ」には、クルマ愛好家や運転そのものが好きな方々などから反響をいただき、当研究所内においてもそのようなメンバーが集い“自動車部”が発足した。
若者を中心としたクルマ離れが言われて久しいが、旧来の自動車産業の枠を超え、ICT/IoTを取り巻く様々な要素との親和性が極めて高いクルマがもたらす未来予想図からは、当分、目が離せそうにない。

前回の本コラムで触れた「地図」とは、紙や本の形状の地図であり、まだICTという単語も生まれていない80年代に実用化された初期のカーナビゲーションシステムでは、その地図を傍らに置きつつ、ひと手間かけながら運転することが求められ、苦労の末に目的地に誘ってもらったり、文字通り「地図を頼りに」新たな行き先も決まるという“道標”であった。
その後、電子版の地図が登場。iモードケータイで、初めて紙ではない地図を見ながら街を歩いた時の不思議な感覚を、今も鮮やかに覚えている。

一方、このところ連日何かしらの関連記事を目にするクルマの自動運転であるが、それを先導する重要なファクターの一つが詳細・精緻なデジタルデータとしての地図だろう。
そのようなことを考えながら書いた前回コラムの原稿を提出直後、偶然にも次のような見出しに触れ、思わず膝を打った。

トヨタ自動車、自動運転の早期実現を可能にする地図自動生成システムを開発
-2020年頃に実用化を目指し開発中の自動運転車両に適応-
(出典:2015年12月22日付 日経プレスリリース)

というわけで、今回は、「地図が導く人とクルマ」の続編として、既に一部が実用化されている運転の自動化について、ユーザー/ドライバーの立場から考えてみたい。

その昔、教習所で教わったとおり、いかなる状況下でも、五感を研ぎ澄ませて運転に集中することこそがFun to Driveの醍醐味だと信じて疑わなかった私も、今年の2月、山間部の高速道路を経由する往復600kmの道のりを、最新の安全装備や制御機能を備えたクルマで日帰りする機会があり、そのインプレッションから、自動運転に対する考え方が大きく変わったのである。
往路こそ、すべての機能をOFFにし、“手動”安全運転に徹したものだが、復路は夜も遅くなり、疲労感もあったことから、利用可能な“自動”の全機能をONにし、高速道路に入った。

まず、車間距離を一定に保ちながら追随走行する機能(ACC:アダプティブクルーズコントロール)は既に経験済みだったが、車線の中央付近を常に走り続ける操舵制御(レーンキープアシスト)は、直線部分ではそれほど驚かないものの、カーブに差しかかると自動的にセンタートレースするようハンドルが勝手に動く様には、最初のうちは違和感というか危険すら感じ、その機能をOFFにしたい衝動に駆られた。
しかし、ここでOFFにしては時代についていけない? と意地になり、機能ONのまま不安と戦いつつも、そのまま連続するカーブを次々とクリアしていくうちに、巧妙な車線維持の走行支援技術にすっかり魅せられてしまった。とにかく楽であり、安全への貢献度も大きい。

また、真っ暗な山間部の高速道路は、普段ならヘッドライトのロービーム/ハイビームをチャカチャカ切り替えながら走っているところだが、その操作も自動化されているばかりか、前方や対向車線の車両の存在はもちろん、カーブの状況まで察知し、ライトの照射範囲をキメ細かく調整してくれる。 弧に沿って取り付けられた反射板にもビームが当たり、まるで高輝度LEDが行く道を誘導するかのようだ。夜道の視界向上は安心感や心の余裕を生む。
前方の遅いトラックを追い越すためにウィンカーを右に出そうとすると、ドアミラーの端が点滅して、追い越し車線を猛スピードで近づいてくる車の存在を知らせてくれる。心強い。

ナビ画面には、「路肩に故障車あり」「この先渋滞中」といったITS(高度道路交通システム)からの情報が割り込み表示される。
渋滞の車列が見えるとスムーズに減速し、ノロノロに差しかかると先行車の動きに合わせ微速度で追随し、先行車が停止すれば一定の車間を保持してピタっと止まる。
高速道路に入って以来、右足は何も動かしていない。

運転そのものを楽しみたい私としては、このようなシステムの介入は“お節介”以外の何物でもないと、以前は思っていた。しかし、今回の走行体験を通じ、天候、時間帯、状況次第では、先進的な運転支援機能と素直に協調すれば、周囲の車両や前方の状況をクルマ自ら確認・判断し、危険回避動作を行うことで、安全性の向上や、渋滞緩和につながる効果も期待できることを実感させられた。

現在市販されているクルマでも、既にこのような部分的な自動制御の域に達しているが、いわゆる完全自動運転に至るまでには次図のような段階がある。

【図】クルマの自動運転の概念 (出典:国土交通省資料をもとに作成、レベル1~4区分はNHTSA(米国道路交通安全局)の提言より)

【図】クルマの自動運転の概念
(出典:国土交通省資料をもとに作成、レベル1~4区分はNHTSA(米国道路交通安全局)の提言より)

 

前述したクルマは図中のレベル2に該当するが、レベル3の域に入った車種も一部ではあるが販売され始めている。

ここで非常に気になる点がドライバーのモラルだ。運転支援機能の高度化に伴い、疲労感は確実に減少するが、裏を返せば運転中の緊張感の低下も招きかねない。
昨今、路上を走るクルマの多くはレベル2以下であるが、それでも、携帯片手に電話しながらの商用車ドライバー、タブレットや漫画本を膝の上に置きながらの若者、ハンドルの直径より大きな犬を抱きながらのマダム等々、信じがたいような、「ながら運転」の光景に遭遇した経験はおありだろう。
私見をお許しいただければ、これはひとつには、パワーステアリングとAT(自動変速機)普及の功罪と思えてならない。今後、自動運転レベル2や3のクルマの普及に連れ、それに乗るドライバーの負担軽減効果は、パワステやAT導入時の比ではないだろう。となると、緊張感の低下から、さらに恐ろしい運転光景が危惧される。
決して間違ってはならないのは、レベル2や3は「ドライバー支援型自動運転」であり、完全自動運転や無人運転ではないことだ。つまり、レベル2~3段階では、ドライバーが自ら運転およびシステムの監視を行うとの意識を徹底することが何より大切。これらのクルマの取扱説明書にはその旨の注意喚起がしつこいほどに書かれており、販売時や納車時にも、当然そのような説明がなされるであろう。
しかし、慣れほど怖いものはない。
実際にレベル3段階のクルマですら、高速道路上の落下物を認識できなかったというニュースも目にした。
ドライバーは、自らが運転しているという意識とともに、支援システムを常に監視する任を負っていることを忘れてはなるまい。クルマが勝手に走っているわけではなく、エラーが生じた時には即座に対処する必要がある。今年3月に山陽自動車道のトンネル内で起きた多重衝突事故では、加害者であるトラックドライバーがオートクルーズ機能を利用していたとの報道に触れ、戦慄が走った。
自動運転を取り巻く法的課題などの環境整備と併せて、ドライバーに対する啓発も徹底されるべきだろう。

将来的にシステムの制御精度や状況認識力が向上し、レベル4の域に近付いてくれば、高齢者等の運転支援や、運転中に急病に襲われた方の痛ましい事故などの減少も期待できるかもしれない。
ドライバーの運転姿勢をカメラで検知し、体が倒れるなどの異常が続いた場合、まずは音声で警告した上で、反応がない時は、自動運転に切り替わってクルマを路肩に停止させる仕組みを2020年に実用化させる、といった国内自動車メーカーの取り組みも記事になっていた。
(病的な異常の検知のみならず、“ながら運転”も監視し、警告や緊急停止のアルゴリズムが組めないものか)

願わくば,これらのシステムは普及価格帯の大衆車からの導入を望みたい。
歴史を振り返れば、パワーウィンドウやオートエアコンといった快適装備の類はもとより、ABS(アンチロックブレーキ)やエアバッグといった安全対策装置も、おしなべて高級車や一部の上級グレードから採用が始まり、今や軽自動車にも標準装備されるに至ったが、相応の時間を要している。

交通事故の削減、渋滞緩和、環境負荷の軽減といった社会的課題の早期解決に向けては、高レベル自動運転技術を搭載したクルマの普及速度も、大きなポイントと思われる。
数年前にひと騒動あったエコカー補助金が、ハイブリッド車や低燃費車の爆発的な普及に一役買ったのは確かだ。
自動運転支援システム装着車に対する補助金や保険料の割引等の経済施策も、早期普及に有効かもしれない。
自動車メーカーサイドに立てば、前回のコラムでも述べたとおり、今後のIoT・AI領域の更なる進化や、“コネクテッド”系デバイス類のローコスト化がもたらすインパクトが、極めて大きいだろう。
そして、精緻なデジタル地図データや膨大なトラフィック・ビッグデータと、車両/車載センサーが捉えた様々な情報の交信・演算・活用が瞬時に可能になった時、「地図が導く人とクルマ」は最終章を迎える。

2020年まであと4年。街を走るクルマの自動運転は果たしてどの域に達しているのだろうか。

最後に質問です。「レベル4のクルマにいち早く乗りたいですか?」

私の答えは「NO」だ。
それは超高齢化社会…老後の楽しみに残しておこう。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

今井 聡のレポート一覧

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

ICR|株式会社情報通信総合研究所 情報通信総合研究所は情報通信のシンクタンクです。
ページの先頭へ戻る
FOLLOW US
FacebookTwitterRSS