2016年8月5日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

ICT雑感:結局、ブロックチェーンって何だ?



結論から言おう。誤解を恐れずざっくり言うと、ブロックチェーンとは「分散型の改竄防止機能付き台帳(簡易データベース、以下「簡易DB」)」である。

2014年にビットコイン取引所「マウントゴックス」で115億円を消失する事件が起きて以降、ビットコインとそれに用いられる技術のブロックチェーンについて巷間でも話題に上るようになった。その後、ビットコインとブロックチェーンには冷ややかな見方が多かったが、最近では、マウントゴックス事件は取引所の問題で、ビットコインやブロックチェーンの問題ではなく、むしろブロックチェーンは将来の産業の鍵を握る技術の一つと言われて注目されている。例えば、経済産業省の「FinTechの課題と今後の方向性に関する検討会合(FinTech検討会合)」(H28年7月~)では6つの横断トピックの中の一つとして「新技術としてのブロックチェーン」と取り上げられている。

本稿では「ブロックチェーンは、ビットコインに使われる技術なので、お金のための技術かと思っていたけど、……」と思いつつ、「結局のところ、何なんだ?」と首を捻った経験から、ブロックチェーンについて紹介してみたい。

ビットコインとブロックチェーン:なぜ台帳で通貨が実現できるのか?

まずはビットコインについて述べるべきだろう。ビットコインは2009年に「中本哲史」と名乗る人物によって運用開始された仮想通貨だ。ビットコインを実現するために使われた技術がブロックチェーンである。

それでは、なぜ「分散型の改竄防止機能付き台帳(簡易DB)」であるブロックチェーンで仮想通貨が実現できるのだろうか(図1)。

【図1】送金の方法

【図1】送金の方法

 

通貨の機能としては、価値の交換を媒介することと、それを保存すること、また、価値の尺度となることがある。「円」のような貨幣は、国が信用できるとお墨付きを与えた紙(紙幣)や金属(硬貨)によって、これらの機能を実現している。国が管理しているので、価値が一定であることが基本だ。もちろん、金融政策で通貨の供給量を調整することはあるが、通貨を発行する中央銀行は基本的にインフレを防ぐ通貨の番人である。また、通貨の偽造は困難になっており、偽造した場合は罰せられるので、価値の交換と保存が可能になっており、これにより価値の尺度になっている。

世の中に一つの銀行しか存在しなくて、すべての取引をその銀行を介して実施すると考えてみればどうだろう。その銀行が信用できれば、すべての取引を台帳に記録しておくことで、価値の交換も保存も可能になる。その銀行の台帳が短期にも長期にも信用できればよい。もちろん、取引を他人に見られたくない場合もあるかもしれないが、我々が銀行を使う時には銀行を信用して、取引がその他第三者に漏れることを前提にしていない。ブロックチェーンでは識別しにくいアドレスを使い、適宜、変更させることにより、第三者から見えにくくしている。こう考えると、台帳(簡易DB)があれば通貨の機能が実現できるというイメージが湧いてくるのではないだろうか。

そこで、「改竄防止機能付き台帳(簡易DB)」としてのブロックチェーンである。「分散型」と言うが、これはどういうことだろうか。

この「分散型」ということこそがブロックチェーン技術を特徴付けている。台帳を複製して多くの人が持ち合うことにより、送金等の取引の正しさを担保している。信頼できる一つの台帳によって正しさを担保するのではなく、皆が同じ台帳を持つことによって正しさを担保しているのである。

台帳の複製を皆が持つことにより、システムダウン等からデータが守られている。また、台帳に載せる個々の取引は電子署名によって正当性が担保されている。さらに、取引毎に容量が増えていく台帳に皆が認めたルール(コンセンサス・ルール)に従ってブロックを追加している。台帳の容量は増え続けることになるが、前のブロックと関連付けて追加されることにより、台帳の正しさを担保しているのである(図2)。

【図2】ブロックチェーンのイメージ (出典:アイティメディア オルタナティブブログ)

【図2】ブロックチェーンのイメージ
(出典:アイティメディア オルタナティブブログ)

 

分散型を実現する肝になったのは、このコンセンサス・ルールである。前のブロックとの関連を計算により証明することになっており、正しい計算をしてブロックを追加するとご褒美のビットコインが少々もらえるようになっている。偽のブロックを追加しようとすると、それ以降のブロックすべてを、正しいブロックが新たに追加されるより前に計算して改竄する必要がある。余計な計算をするくらいなら、正しく計算してビットコインをもらった方がよいので、台帳を改竄するモチベーションが働かないという仕組みである。

ブロックチェーンの長所: 分散型の良さは何か?

それではこの「分散型」ということにどんな良さがあるのだろうか。

まず、上述したとおり台帳の複製が無数にあるので、システムダウン等の障害に強いと言える。また、通貨として使うとなると、攻撃や不正によるトラブルが心配されるが、ビットコインは2009年から運用が始まってブロックを追加し続けて、2016年6月末日で約1,600万BTCまで増えているものの、この原理に端を発したトラブルは起きていない。

コストの面について言うと、このシステムを利用していくのにかかるコストはブロックを追加する際のご褒美分だけであり、これを極めて広く薄く参加者全員で負担することになるので、利用に際しての取引あたりのコストは非常に小さい。例えば、海外送金の場合などは銀行による送金の場合、数百円から数千円の送金手数料と1ドルにつき1円程度の為替マージン、場合により受取先手数料を取られることを考えると、ビットコインを利用する場合はかなり低いコストだと言える。

また、ブロックチェーンによる取引は、一つの国や金融機関の問題が全体に及びにくいと言える。これは、ブロックチェーンによる取引は一つの管理者に依存しているわけではなく、取引参加者全体への信用度が重要になるからである。もちろん、ビットコインの場合を考えると、国家が発行している通貨の取引に比べて、現在のところ、ビットコインによる取引は微々たるものなので、普通の通貨との交換レートは大きく動いている。しかし、これはビットコイン経済圏が発展途上にあるからであり、センター型のシステムのように一つの主体への依存によるものではない。ブロックチェーンに基づくビットコインの信用度は参加者全体が支えていると言えるのである。

ブロックチェーンの課題: ブロックチェーン共通の課題は? ビットコインの課題は?

このように新たな可能性を開いたビットコインであるが、「分散型の改竄防止機能付き台帳(簡易DB)」としてのブロックチェーンを広げるためにはいくつかの課題もある。

ブロックチェーンの適用範囲を広げるための最も大きな課題は、データ処理の確定に時間がかかることである。新しいブロックの追加のために一定の計算および計算時間が必要なため、リアルタイム処理への適用は難しい。ビットコインの場合は、この計算時間は10分程度である。現在、ブロックチェーン技術の実装には様々な取り組みがなされており、データ処理の確定にかかる時間は短縮されているが、多くは10秒程度である。改竄防止機能を分散型で実現するためにコンセンサス・ルールが用いられているが、これには一定の時間がどうしても必要となる。ブロックチェーン技術の本質的な問題点と言える。

これに加えて、ブロックに格納できるデータ量の上限とブロック生成にかかる時間から、単位当たりの取引(トランザクション)の数が限られている。VISAの決済システムは毎秒65,000件以上の処理能力を有すると言われているが、ビットコインの上限は毎秒1,000件程度と言われている。これもコンセンサス・ルールに起因するので、ブロックチェーンの技術の限界と言えよう。

また、分散型として台帳を複製して持ち合うという仕組みは、記憶容量の点でも課題がある。上述のとおり、分散型はシステムダウン等の障害に強い半面、取引毎に増え続ける台帳を多くの箇所(ノード)で保持する必要があり、各ノードにとっては必要な記憶容量が右肩上がりに増加し、システム全体として消費するリソースも増大していく。これも、ブロックチェーン技術が持つ問題点と言える。

この他、ビットコインについては、スクリプトを実装できるものの、その機能が限定的であることが問題点として指摘されている。スクリプトとは一種のプログラムであるが、資産管理等での自動的なデータの生成等が自由な形ではできないことを意味している。仮想通貨では必要ないし、混乱の引き金になりうる機能だが、応用範囲を限定することにはなるだろう。ビットコインには、仮想通貨を実現するために実装されなかった機能があるが、これはそのうちの一つである。

これに加えて、ビットコインは改竄防止機能を強固にするために、データ内容の書き換えが極めて難しくなっている。データベースとしては正規な書き換えを可能にしておくことも必要かと思われるが、ビットコインでは仮想通貨として二重支払い等の防止に重きを置いているためか、こうした機能は実装されていない。

ブロックチェーンの可能性: 応用範囲はどう大別できるか?

これまで、ビットコインのブロックチェーンについて見てきたが、ブロックチェーン技術は仮想通貨以外には使えないのだろうか。

ブロックチェーンは「分散型の改竄防止機能付き台帳(簡易DB)」なので、金銭という価値だけではなく他のデータも扱える。例えば、経産省のホームページでは、土地の取引を記録すれば登記簿にもなり、住民票もブロックチェーン上の台帳で管理できると紹介している。

ブロックチェーンの応用例は大別して2つある。一つはビットコインを前提にしたもの。これは、ビットコインは2009年以来の信頼があるため、これをベースに通貨以外の機能を付加した例である。もう一つはビットコインの課題に対応したブロックチェーン自体を新たに生み出したものである。これは「分散型の改竄防止機能付き台帳(簡易DB)」であるブロックチェーンの機能をそれぞれの応用に向けて適用させるものである。以下で、いくつかの応用例を紹介していきたい。

ブロックチェーンの応用(1): ビットコインのブロックチェーンを利用したもの

まず、ビットコインのブロックチェーンを利用した応用例である。既に一定程度信頼されているビットコインのブロックチェーンという台帳(簡易DB)に通貨として以外の情報を挿入することにより、別の台帳を実現しているものである。価値のあるモノや情報を識別子 (ID) で紐付けることがビジネスのポイントになるので、何を紐付けるかが新しい付加価値になると言える。

Factom

Factomはビットコインのブロックチェーンの中に資産の所有権の情報を埋め込むことにより、モノの貸し付け記録、証券、保険、医療等の記録を管理・追跡・監査するサービスを提供している。ビットコインのブロックチェーンの外側にブロックを作ることで、ビットコインの速さや負荷の限界を超え、安くすることを可能にしている。なお、Factomはオープンソースのプロジェクトであり、プラットフォームを提供している。

Ascribe

Ascribeはデジタル著作物の作品証明書を発行することにより著作権の権利を守るサービスである。著作者の権利を守るためにデジタル著作物を複製不可能にするのではなく、作品証明書が正規品を証明することとなっており、これを複製できなくしている。作品証明書の台帳としてビットコインのブロックチェーンを用いており、デジタル著作物の売買に際しての手数料を得るビジネスとなっている。

ブロックチェーンの応用(2): ビットコイン以外のブロックチェーン

ビットコイン以外のブロックチェーンも多数出てきている。ビットコインの仕組みをそのまま使ったものもあるが、ビットコインの問題点を解決しようとしているものも出てきている。

Ethereum

Ethereumとはブロックチェーン技術を開発し、サービス提供を行うためのオープンソースのプラットフォームである。ビジネスやサービスそのものではない。ビットコインの問題点とされた自由な(チューリング完全な)スクリプトの生成や、正しい書き換えを可能にする機能などが盛り込まれている。内部通貨としてEhterという単位が使われており、コンセンサス・ルールのインセンティブとされている。

ブロックチェーンの応用(3): ビットコイン以外のブロックチェーンの応用例

ビットコイン以外のブロックチェーンを使った応用例も見てみよう。

Ripple

Rippleはブロックチェーンにおいて価値の交換を媒介するものであるが、ビットコインのように通貨というよりは小切手に近いものである。例えば、①AさんはBさんから100円を借りています、②BさんはCさんから100円の鉛筆を買いました、③BさんはCさんに対して「支払いの100円はAさんからもらってね」と伝えます、といった具合の取引をする仕組みだ。IOU、即ち"I owe you"(預かり証)の発行と生産により、金融機能を実現している訳である。Ripple独自のブロックチェーンを貸し借りの記録として使っている。Ripple Labs社はこの中で銀行ネットワークのような役割を果たすとしており、既存通貨等との交換所と交換所間での取引を担っている。交換所間での取引は内部通貨的なXPRという単位で実施している。

Namecoin

Namecoinは、ビットコインの技術を使いながら、ビットコインとは別のブロックチェーンでドメイン名とIPアドレスを対応させる台帳でDNS機能を実現したもの。“.bit”がトップレベルドメインとなる。残念ながら現在のところ、インターネット上の一般のDNSとは接続していないが、ドメイン名を管理するICANNのような団体がなくてもドメイン名を発行していけることを示した例である。ビジネスというより仕組みとして寄付を募っている。

Storj

Storjはブロックチェーンを活用した分散型ファイルストレージサービスである。Google DriveやDropboxのようなクラウド型のファイルストレージの使い勝手を分散型で実現するというものである。ユーザーのファイルを細切れにして暗号化し、ネットワーク上の様々なコンピューター上に保存しておき、そのファイルの在り処をブロックチェーンに書き込んでおく。ユーザーがファイルを利用する際は、ブロックチェーンの台帳を見て組み立ててユーザーに提供するという仕組みである。ファイルを細切れにして暗号化しているため、クラウド型と異なり、情報の漏洩や検閲から守られるということを訴求している。ビジネスとしては1GB当たり月額0.015ドルの課金をしている。ストレージの提供者には仮想通貨Storjcoin Xを報酬として支払う。

まとめ: ブロックチェーンの今後は?

ここまで、「結局、ブロックチェーンとは何だ?」というモヤモヤした疑問に答えようとしてきた過程を紹介してみた。結論は冒頭で述べたとおり、ブロックチェーンとは「分散型の改竄防止機能付き台帳(簡易DB)」と言えるであろう。

台帳と考えると、上記で紹介した応用例が、分散型と改竄防止機能という特徴を活かしつつどのようなデータを台帳に載せるかというところに知恵を絞っていることが窺える。

最大の特徴は、分散型であるため、センター型のような管理主体がいない取引が可能だということである。このことから管理されたくないものに使われていくと思われる。初めてのブロックチェーンの利用例がビットコインという仮想通貨として使われたのも、インターネットで国を超えた取引が多くなってきた時代に、国家という管理主体があり、送金の過程で多額の手数料が取られるということに対する問題提起がトリガーの一つになっていると考えられる。NamecoinもICANNのような一つの団体が全世界のドメイン名を握っているのがよいのかという一種の問題提起として見ることが可能であるし、StorjはGoogle等のOTTプレイヤーにファイルを預けておいて大丈夫かというある種の疑問から出ているとも考えられる。

また、想定される応用例として、登記所(法務局)の土地・建物・法人の登記簿や公証役場で扱う遺言書、国交省の運輸支局で扱われる自動車検査証等、公的機関の証明書が挙げられることも多い。これらは所有権等の権利にお墨付きを公的機関が与えている訳だが、周囲が認めるのであれば、公的機関である必然性はない。こう考えると、分散型でネットワークの参加者全体がお墨付きを与えるブロックチェーンに適した例であると言える。こうした公的証明書等への適用は、影響度も大きく影響範囲も広いので、時間はかかると考えられるが、実現されれば行政のコスト、さらには社会的コストは大きく削減されるだろう。

さらに、今後はブロックチェーンが、ニッチで管理主体が立ち上げられないものに対して使われることも考えられるだろう。一件一件ではセンター型で改竄防止機能付きの台帳を作るのは荷が重いものを全体で薄く広く負担するという使い方である。例えば、農産物の産地表示等はどうだろうか。世界中で共有したいが、先進国のブランド野菜ならデータベースのコストを賄えるが、普通の農家ではコストを負えないという例があるかもしれない。

思えば、インターネットも学術系だけで使われる分散型のネットワークだったが、1990年代中盤に、それまで主流だったセンター型のパソコン通信を凌駕して、今や生活の基盤と言えるものになっている。「分散型の改竄防止機能付き台帳(簡易DB)」であるブロックチェーンも、今は手探りの時期だが、大きく飛躍する技術かもしれない。将来を期待しながら見守っていきたい。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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