2017年4月26日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

通信ネットワークインフラ構築・運用にAIを融合 -新たなビジネスモデルの探求とエコシステムの実現-


イメージ

総務省は 2017年1月24日、「将来のネットワークインフラに関する研究会(座長 相田 仁 東京大学大学院工学系研究科教授)」を開催し、“2020年から2030年頃までのネットワークインフラに求められる機能、将来にわたり安定的なネットワークインフラを実現するための技術課題、取り組むべき推進方策等”について検討を開始しました。研究会のメンバーには、通信事業者やベンダー、サービス提供者の技術開発責任者、大学や研究機関の先生方などが加わっていて今年の夏ごろまで議論が行われることになっています。この研究会に際し基本認識として、IoTサービスや高精細映像配信の進展と2020年までに5G導入が開始されることを取りあげています。

昨今その勢いを増しているトラフィックの急増(特にモバイル系)への対応に加えて、2020年後半から2025年にかけてのPSTNからIP網への移行、2020年の5G商用開始、IoT機器接続数の増大などコアネットワークからアクセス網まで通したネットワークインフラ全体の技術課題を洗い出して取り組む方策を提示するものと思います。そこで気になっていることが2点ありますので指摘しておきます。第1は、今回の研究会の検討テーマには直接見受けられないのですが、発展著しいAI技術を通信ネットワークにどのように取り込んでいくのかについてです。仮想化・ソフト化が著しく進展していくネットワークインフラの構築や運用管理を人手に頼って行うことはもはや不可能になっています。トラフィックコントロールはもとより、障害検索・復旧などの保全対応をはじめ効率的な通信サービスの提供に至るまでAI技術の活用が不可欠な時代を迎えているからです。第2は、5Gの時代を控えて無線アクセス技術の進展が著しく、無線アクセス回線を収容する光アクセス回線側の技術革新が急務となっていることをもっと強く認識しておく必要があるということです。回線速度で見ると無線アクセスは光アクセスに遅れること10~15年のギャップがありましたが、5Gに至って肩を並べるレベルに達することになりますので、5Gサービスの展開上、光アクセス回線がネックとなるようなことは避けなければならないからです。

こうしたなか、NTTドコモは今年5月頃から「5Gトライアルサイト」を設けて、パートナー企業と連携して5Gを活用したサービス創出を図る計画を発表しています。まずは28GHz帯の周波数を用いて、基地局に超多素子アンテナ(マッシブMIMO)を実装して基地局当たり最大20Gbps、端末当たり最大5Gbps/10Gbpsをサポートし、5Gエリアでは5G通信環境を、5Gエリア以外ではLTE環境に自動的に接続・切替が行われるとしています。場所はお台場・青海地区と東京スカイツリータウン周辺の予定です。NTTドコモは、これによって新しいサービスが試行され、新たなビジネスモデルをパートナー企業が創出することにつながると期待しています。また、このトライアルで実装されるマッシブMIMOによるビームフォーミングと高度化C-RANとの組み合わせで、28GHzという高い周波数でも遠くまで届く安定したシステムが実現できることを狙っています。NTTドコモからは中核技術の検証は終えたとの発表もあり、いよいよビジネスモデルの探求とエコシステムの実現のステージになるようです。

この5G無線アクセスこそが、冒頭の総務省の研究会での検討のベースになるものであり、この基盤の上に今後のコアネットワークが構築され運用されることになります。5Gアクセスとコアネットワークで展開が想定されている技術にはネットワーク構成区分から見て、ネットワークスライシング、NFV、SDN、モバイルエッジコンピューティング (MEC) があり、個々のサービスに適した論理ネットワークの選択が可能となる高性能で経済的なネットワークを実現するものです。これには当然、機能の仮想化とソフト化が不可欠であり、人手を伴わないで実施できる運用管理体制が求められるところです。ネットワーク構成が複雑化し仮想化するなか効率性を高めるため、また、新しいサービスを創出・普及するためには、AI技術をどのように活用するのかが鍵になることは言うまでもありません。

最近のこうした動きのなか、先日2月16日・17日に開催された「NTT R&Dフォーラム2017」で、講演を含めてNTTの研究開発の動向を見てきました。私はNTTのAI領域の取り組みである「corevo」に関心を持って、主にNetwork-AIの展示とデモンストレーションを見学してきましたが、残念ながら個別の研究成果の発表にとどまっていて、要素を有機的に融合して通信ネットワーク全体まで視野に入れたものは私には見つけられませんでした。事前に発表されていた“ネットワーク障害原因推定”のデモはネットワークインフラに実装し検証できるレベルにあることは分かりましたが、ネットワーク全体の運用管理の効率化を進めるためには、予防保全や予測型の自動制御など予兆を解析し提示するいわゆるAmbient-AIまで取り込んだNetwork-AI全体の構想が必要となります。corevoの取り組みもそれぞれの分野では個別最適化が進んでいますが、さらに高度化・複雑化する通信ネットワーク全体の効率化・最適化に向けてアクセス網からコアネットワークに至るすべての段階でAI技術と融合する必要があると思います。ネットワークが仮想化・ソフト化すればするほど、AIによる制御や運用管理の機能が発揮できるはずです。NTTドコモの5Gトライアルにおいても、ビームフォーミングによる単純な高速サービスだけでなく、コグニティブ(認知)無線によって複数の通信方式や通信エリア(セル)を組み合わせたり、ネットワークスライシングを用いてサービスに最適化された論理ネットワークを選択したりするなど、無線通信方式の世代交代ではない新しいエコシステムの創出・実証を見据えたトライアルとなることを期待しています。このためにAI技術を取り入れたネットワークインフラのあり方を構想し開発する時期にあるのではないでしょうか。5Gを取り込んだネットワークインフラ全体の効率化を図り、また新しいサービスの運用を最適化するためにこそAI技術との融合が急がれます。こうしたインフラコストの低減は経済構造全体の革新となります。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、情報通信インフラの整備が進められていますが、これまでのいろいろなイベントの時と違って、設備構築や運用体制を資金と人数をかけての力業に頼ることはもはやできません。上手に能率的に通信ネットワークを作り上げ管理していかなければなりません。力業に頼り過ぎると将来に向けて負のレガシーを生み出すことになりかねません。今こそ、AI技術と融合したネットワークインフラの構築・運用が求められています。通信事業者・サービス提供者とベンダーの協力が不可欠な上、標準化の推進も必要です。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

ICR|株式会社情報通信総合研究所 情報通信総合研究所は情報通信のシンクタンクです。
ページの先頭へ戻る
FOLLOW US
FacebookTwitterRSS