ICT雑感:鉄道好きの独り言 | InfoComニューズレター
2018年1月26日掲載 InfoCom T&S World Trend Report

ICT雑感:鉄道好きの独り言



乗り物、特に鉄道に乗るのが好きである(ただし、通勤のために乗る場合を除く)。線路はおろか国道もない(わがふるさとの名誉のために言えば、現在はかろうじて3ケタ番号の国道が通っている)山村で生まれ育った反動かもしれない。

そんな純情な青年(自分で言うのは勝手である)が青雲の志を抱いて東京に出てきて驚いたのは、路線図の複雑さと電車の本数の多さ、であるにもかかわらず車内の混雑のひどさであった。切符を買おうとして路線図を見ると目が回るし、迷路のような駅の構内をやっとホームまでたどり着いても人波に阻まれてなかなかドアまで行けない、次から次に来る電車に見とれて何本も乗り損ねてしまうといった按配で、哀れ青雲の志もはかなく潰えてしまったのであった。

混雑については、執念深いと思われるだろうが未だに忘れられないことがある。文字通り立錐の余地なく身動きできずに固まっているしかない状態のところにブレーキがかかり、鞄の取っ手は外れるはネクタイピンの鎖は切れるは、次の駅で降りた時には息も絶え絶えであった。羹に懲りて膾を吹く、以来筆者はネクタイピンをしたことがない。

これらを大げさだと笑う若い読者は豚に喰われるであろう。一昔前には電車に乗るのにも覚悟がいったのである。

しかし、世の中は進歩する。新路線の開通(路線図は目のかすむ筆者にはもはやただの抽象画にすぎない)、複々線化、増発(そんな余地があったことも驚きである)、連結車両数の増、相互乗り入れ(おかげでいろんな車体を見ることができる)など様々な対策のおかげで、混雑率も徐々にではあるが緩和されてきた。ICカードをかざすだけで改札を通れるようになったし、いちいち運賃表を見て切符を買う必要もなくなった。目的地までの最短経路が検索できるアプリを使えば路線図も不要である。冷房は当然になり、液晶画面のある車両が増えて、目のやり場に困ることも少なくなった。大変結構なことだと思う。

一方で、筆者は一向に進歩しない。何時間かに1本の、乗り遅れると当日中に目的地に着けないような田舎の鉄道に乗った癖が抜けず、数分置きに走る電車でも時刻表を見ないと落ち着かないし、改札を通る時にはこんなカードでゲートが開いてくれるのだろうかとほんの少し鼓動が早まる。地下鉄の出口では「ここはどこ、私は誰」状態になっておろおろしてしまう。

とはいえ、大きな路線図をにらみながらどうやって行こうかと考えるのはやはり楽しいし(あとで検索してみるとたいてい間違っており、家人には最短のみがいいわけではない、回り道こそ人生だとかなんとか強弁しているが、無論のこと一顧だにされない)、特に初めての路線に乗る時には心が躍る。

正直に言えば、行き帰りでわざわざ別の路線に乗るために、真夏に汗みずくになりながら、真冬に北風にさらされながら駅の間を歩いている時などは、「いったい俺は何をしているんだろう」と疑問を感じることもある。しかしそれでも、鉄道のない村に育った恨みは深いのである。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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