2018年3月29日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

電波の応用は無限、あらゆる技術と連携 ~「電波有効利用成長戦略懇談会」検討の方向



昨年11月から総務省で「電波有効利用成長戦略懇談会」(座長 多賀谷一照 獨協大学法学部教授)が始まり、今年夏頃までを目途に、(1)公共用周波数の有効利用推進方策、(2)電波利用の将来像と実現方策、(3)今後の電波有効利用方策の3点の検討が進んでいます。2月下旬までのところ、検討課題についての意見募集、事業者等関係者からのヒアリング、構成メンバーの意見交換などが短期間に精力的に行われています。懇談会の下に、公共用周波数等WGと成長戦略WGが設けられて、検討開始から3カ月間に全部で約20回開催されており、最終報告までにさらに10回以上の会合が予定されているので、モバイル通信サービス関係者にとってはその方向が大いに気になるところです。

この懇談会発足のベースとなったのは、検討項目の1番目に掲げられている公共用周波数の有効利用の促進であり、総務省としては、5G等の新たな周波数需要を踏まえて必要となる周波数確保に関する目標の見直しと、その際に避けられない非効率な公共用周波数の再編や民間との共用を検討することに主眼を置いていたものです。これは昨年6月に閣議決定された「規制改革実施計画」において、公共用周波数の情報開示や民間への開放等の取り組みが定められ、2017年度検討開始、2018年度結論・順次措置と明記されているためです。

ところがその後、政府の規制改革推進会議の第2次答申(2017.11.29決定)にある電波制度改革実施事項が、12月8日閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」に盛り込まれたことで、前述の公共用周波数関係だけでなく、周波数の割当手法の抜本的見直し、即ち、“新たに割り当てる周波数帯の経済的価値を踏まえた金額(周波数移行等に要する費用を含む。)”を含めて競願手続で申請し、人口カバー率、技術的能力等の他の複数項目を総合的に評価して割当てを行う方式の導入を図る法案を2018年度中に提出するべく検討を行うことが示されました。この流れから、今回の懇談会の中で、3番目の検討項目である、今後の電波有効利用方策として「帯域確保に向けた民間部門における対応・割当てに関わる制度の見直し」が取り上げられることとなりました(2017.12.25 第2回懇談会資料)。

今回の懇談会に至る背景と経過を詳しく述べたのは、そもそも周波数オークションを巡っては過去賛否両側からの意見と政党間の政策論争があった中で、総務省の電波管理当局は一貫して総合評価方式で電波割当てに臨んできた流れがあるからです。昨年末の「新しい経済政策パッケージ」決定に至る過程においてもオークション方式を主張するメンバーや経済政策部門と総務省の電波管理当局との間で、オークション方式導入を巡って厳しいやり取りがみられたと報道されたことは記憶に新しいところです。閣議決定をみた経済政策パッケージでは、新しい方式を導入するための法案を2018年度中に提出する旨が盛り込まれていて、経済的価値を踏まえた金額を含めて総合評価するというプロセスに踏み込んではいるものの、オークション制度それ自体については賛成・反対の両論が併記されて“メリット・デメリット、導入した各国における様々な課題も踏まえ、引き続き検討を継続する”と持ち越しとなっています。この結果、今回の懇談会では検討事項としてオークション制度自体への言及はなく、割当手法の抜本的見直し等と述べられているのに止まっていますので、今回直ちにオークション方式に踏み込んだ割当方法を具体的に取り上げることにはならないと想定しています。そこで現在懇談会において2大テーマとなっている、公共用周波数の有効利用方策と周波数割当てに関する制度見直しについて私見を述べて本欄を終えることにします。

第1の公共用周波数に関しては、警察、防衛、消防、防災等政府部門にそれぞれ別々に割り当てられていて通信システムとして統合的に構築・管理運用がなされておらず、また音声通話が中心となっていて設備的にも古く非効率なものが多くなっています。これを現状、一般に普及していてエリアカバーが広く、技術成熟度が高いLTE方式の専用ネットワークにまとめて移行(PS-LTE;公共安全LTE自営網)してコスト低減を図ると同時に使用周波数の利用効率を高めて、不足する民間の周波数需要に応じられるように政府として統一的に取り組むことに整理できます。政府CIOの下で人材と予算を投入して目に見える形で急いで進めるべきことです。既に多くの先進国で実現しているだけに早急な取り組みが望まれます。

 2番目の周波数割当てに関する制度見直しは、結局オークション制度を我が国でも導入するかどうかということに尽きます。私は以前、本欄でオークション方式であっても経済的価値の評価よりむしろ、市場参加者の選別機能に着目した新しいオークション方法が必要ではないかと書いたことがあります。正直に言って、具体的な方法論は私にはありませんが、オークション制度万能といった原理主義にはどうしても馴染めません。例えば、市場拡大期に数多くの市場参加希望者がいて、市場規模予測やサービス開発動向など判断が分かれるような段階ではオークションによって価値評価がなされ参加者(落札者)を選別する妥当性があるとは思いますが、現状のモバイル通信市場のように市場の成熟期を迎えて、利用者数の増加ではなくトラフィック急増による周波数不足に悩まされ、かつ、より高い周波数の使用に進むのでさらに多くの基地局構築を続けざるを得ない状況では、オークション制度を適用する条件を欠いている気がしてなりません。特に技術的にも、キャリアアグリゲーションやネットワークスライシングのように既存の免許周波数と一体となってサービスが行われ、 データ通信の高速・低遅延・多数接続は5Gで、音声通話は4Gでといったサービスの重層化時代には周波数の包括的利用を前提としたオークションは逆に非効率を助長することになり兼ねません。これからの周波数割当てにおいては、電波システム全体の利用価値向上を図るべく、時間とエリアを細分化し動的調整による共用を進めることが望ましく、周波数利用権を固定化するようなオークション方式は現状無理がありそうです。

 電波の応用は無限、あらゆる技術と連携する(2018.1.29 第5回成長戦略WG 伊藤泰彦氏 ヒアリング資料より)からです。電波資源は重要な国民共通の資産なので、特定の時点での価値最大化や選別の公平性だけでなく、長期的な視点に立って周波数の利活用が最も有効に進むよう方策を幅広く検討すべきです。その意味で今回の「新しい経済政策パッケージ」にあるように、メリット・デメリットと導入済み各国の様々な課題を踏まえて継続して検討することはもちろんのこと、加えて長期的見地に立って検討に臨んでもらいたいと思っています。

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