2019.8.15 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

世界の街角から:ジュネーブからベルンへ、スイス都市間鉄道の旅

【写真1】スイスの列車 (出典:文中掲載の写真はすべて筆者撮影。2005年/2018年撮影。なお、写真の一部を加工しています)

今回は、ジュネーブからベルンまでのスイス都市間鉄道の旅と、ベルンについて取り上げたい。

スイスの鉄道と言えば、ユングフラウヨッホに一気に登るユングフラウ鉄道、マッターホルン観賞に欠かせないゴルナーグラート鉄道といった登山鉄道を思い出される方も多いだろう。そちらはそちらでたいへん美しい景色を楽しむことができる。しかし、登山鉄道だけでなく、都市間移動もたいへん快適で良いものである。

また、ベルンはスイスの首都と言われており(※1)、チューリヒ、ジュネーブのように大きな空港がある訳でもなく、鉄道やバスで出向かなければならないが、世界遺産にも登録されている旧市街や、建物自体を観るのも楽しいパウルクレー・センターなどが見どころである。

まずは予約から

切符

【写真2】切符

スイスで都市間移動する場合、列車が決まったら早めに予約する方が良い。チケットは60日前からネット(sbb.ch)で購入できる。ドイツ語、フランス語、イタリア語、英語が利用できる。価格は列車によって異なるが、早めに予約すれば、スーパーセーバーチケット(Supersaver Ticket、早期購入割引)が利用できる可能性があり、お得になる。タイミングが良ければ、正規料金より大幅に節約できる可能性がある。旅行を通じてスイスの鉄道利用が多い場合には、「スイストラベルパス」(乗り放題)や「スイスハーフフェアカード」(運賃が原則として半額となる)の利用を検討しても良いだろう。なお、駅の自動販売機や窓口でチケットを買う方法もあり、これが手っ取り早いと書いているガイドブックもあるが、値段を別にしても、2つの理由でお勧めしない。行列ができていて待ち時間が長かったりすると目的の列車に乗れない可能性があることと、人前で財布を出すのは最低限にする方が良いと考えるためである。スイスの治安は比較的良いと言われてはいるものの、わざわざリスクを高める必要はないだろう。

ネット予約でチケットを購入した場合、端末や紙でQRコードを表示できるようにしておく必要がある。スマートフォンを利用するなら、少なくともスクリーンショットで保存しておくのがお勧めである。いざ検札となったときになぜかネットにつながらないといったことは避けたい。経験はないが、無札乗車は高額の罰金を科されるそうである。

鉄道の旅

ジュネーブには複数の鉄道駅がある。ジュネーブに限らないが、似たような名前の複数の駅があるのは珍しくないので気を付けたい。ホームに降りたら(改札口はない)、まずは列車の確認である。ホームの表示機には、列車番号、主な停車駅と行き先が表示されるので、自分が降りる駅が表示されているかを確認するのはもちろんだが、すべての駅が表示される訳ではないし、事前に予約している場合、列車番号を確認するのがもっとも大切だろう。スイスの鉄道の定時性は高い方だと思うが、それでも、前の列車が遅れていることもある。変更できないスーパーセーバーチケットの旅行者としてはなおさら注意しなくてはならない。

スイス国内列車であれば、国際列車などの一部を除き座席は自由である。空いていればだが、あらかじめ地図を見ておき、景色が良さそうな方に陣取るのも楽しい。ジュネーブからベルンまでの場合、進行方向右側に座ればレマン湖を見ることができる。

ホームの表示機

【写真3】ホームの表示機。腕時計でもおなじみの、スイス国鉄時計の実物もある。

2階建て車両

【写真4】2階建て車両(Genève Aéroport)

スイスの幹線では2階建ての車両も珍しくない。せっかくなので2階に乗る。列車はいつの間にか動き出し、滑るように走る。日本の在来線より軌間が広いこともあるが、揺れも少なく、快適な乗り心地である。車内も清潔だ。車内アナウンスも日本より圧倒的に少なく、全体に静かである。なお、車内販売が行き来することはあまりないので、飲食物は買っておくか、一部の列車にある売店や食堂車を利用することになる。

ジュネーブを出た列車はローザンヌの先までレマン湖畔を走る。対岸に山がそびえる。写真を撮りたくなる良い景色だ(ただし車内からの撮影は難しく、残念ながらお見せできる写真がない)。ローザンヌを過ぎてしばらくすると、レマン湖畔を離れベルンに向かう。列車によるが、都市間を結び主要駅のみに停車する「InterCity」や「InterRegio」(※2)の場合、ジュネーブからベルンまでは2時間弱である。

駅ピアノ

【写真5】駅ピアノ

途中で検札が来た。無事スクリーンショットのチケットが読み取られ、車掌は「Thank you」と言って去っていく。スイスの鉄道では大体検札があるが、帰りの列車ではとうとう検札は来なかった。

ベルン駅は首都の駅だと思うと小さく見えるが、とはいえ多くの人と列車が行き交っている。構内に自由に弾ける「駅ピアノ」があり、弾いている人がいた。多くの人が見守るなか、曲名は忘れてしまったが、なかなかの名演だった。終わると大きな拍手が起こったのを覚えている。私ももちろん拍手。

熊の街ベルン

ベルンは湾曲するアーレ川に囲まれた土地を活かして造られた街であり、その歴史は1191年にさかのぼる。スイス連邦の首都とされている(※1)が、スイス最大の都市ではない。人口規模ではチューリヒ、ジュネーブ、バーゼルの方が大きい。そもそも、ベルンが首都であると定めた法律もなく、連邦議会法と政府・内閣法に、連邦議会が通常時はベルンを拠点とすること、内閣や内閣官房、各省はベルンに配置することが定められているだけだそうだ(※3)。ちなみにスイスの通信事業者Swisscomの本社もベルンに置かれている。

ベルンの街

【写真6】ベルンの街(ベルナー・ミュンスターから撮影)

ベルンの街自体も大きくはなく、郊外にあるパウルクレー・センターなどを除き、市内の主な観光地は歩いて回ることができる。ここでの最大の見物は、1983年にユネスコ文化遺産に登録された旧市街だろう。街並みを見ながら散歩しているだけでも飽きない。しばらく歩いていると、大きな仕掛け時計のある時計塔が見えてくる。泉も多い。「子喰い鬼の泉」に立つ鬼などは、名前はおどろおどろしいが、顔つきはユーモラスである。

時計塔

【写真7】時計塔

子喰い鬼の泉

【写真8】子喰い鬼の泉

また、ベルナー・ミュンスターと呼ばれる教会には100mを超える高さの尖塔がある。筆者がかなり前に訪問した時は344段の階段を登ったと記憶しているが、最近の案内によればエレベーターも使えるそうである。上からはベルンの街と郊外の風景を見下ろすことができる。時間があればぜひ登ってみると良いと思う。歩いて登れば、その後の食事がひときわおいしくなることは間違いない。

ベルナー・ミュンスター

【写真9】ベルナー・ミュンスター

それから、ベルンと言えば熊のことを忘れる訳にはいかない。ベルンという名前自体が熊に由来しており、州の紋章にも熊が入っている。そして、「クマ公園」に行けば生きた熊を見ることもできる。ベルンでは熊が15世紀から飼われていたそうだが、現在、熊は2009年にオープンした新しい公園に住んでいる。ただし、冬は冬眠しているそうだ。

熊の紋章

【写真10】熊の紋章

パウルクレー・センター

街の郊外にはパウルクレー・センターという美術館がある。ベルン近郊で生まれ、ベルンに葬られた画家パウル・クレーが残した作品のうち4,000点が収蔵されているのに加え、さまざまな企画展が行われているのも魅力だが、パリのポンピドー・センターや関西国際空港旅客ターミナルビルを設計したイタリア人建築家レンゾ・ピアノの設計による建物を観るのも楽しい。天気が良ければ、ちょっとしたピクニック気分も楽しめるだろう。ベルン市街からは美術館行きのバスで行くことができる。

パウルクレー・センター

【写真11】パウルクレー・センター

スイスは面積の大きな国ではないが、風光明媚な場所があまりに多い。スイスに行くとなると、どうしてもアルプスの山々に心を奪われてしまう。日本からのアクセスの場合、チューリヒかジュネーブから、まっすぐに山を目指すことも多い。しかし、鉄道でちょっと移動して、スイスのさまざまな街を歩いて巡るのもまた楽しい。ベルンの他にも美しい街がたくさんある。少し寄り道して、1日を街歩きにあてるだけでも、新たな発見が得られるだろう。

※1 厳密には「連邦都市」と呼ばれている。

※2 特急や急行に相当すると言われることもあるが、「特急券」「急行券」といったものはない。

※3 https://www.swissinfo.ch/jpn/%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9%E9%80%A3%E9%82%A6%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2_%EF%BC%91%EF%BC%97%EF%BC%90%E5%B9%B4%E5%89%8D%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%B3%E3%81%8C%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%81%AE%E9%A6%96%E9%83%BD%E3%81%AB%E9%81%B8%E3%81%B0%E3%82%8C%E3%81%9F%E7%90%86%E7%94%B1/44575900

※記載の情報は訪問当時の筆者の体験によるものです。ご旅行される場合は、最新の情報をご確認ください。

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