2019年8月29日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

5Gサービスの開始と発展の方向



2019年4月23日23時、韓国で通信キャリア3社が世界初の一般向け5Gサービスを開始しました。世界で最も早く5Gを活用した世界戦略で主導権を確保しようとする狙いがあり、5Gの早期普及促進と海外展開に向けた韓国の政策に沿ったものです。5Gネットワークの整備を目指して、設備共用、税制優遇、周波数追加、規制緩和、活用促進戦略といった政策措置が行われています。5Gサービスの開始後、約2カ月で契約数が100万契約に達して、開始直後のトラブルやユーザーの不満などが見られたものの滑り出しは順調との評価となっています。5G端末(スマホ)は当初はサムスン電子製だけで、5月になってLG電子製が加わりましたが、2機種しかないなかでの立ち上がりの契約数増加なので好調と言ってよいと思います。ただ、5G料金プランでは、8万ウォン台からはデータ通信使い放題(無制限プラン)となっているので、5G契約はするものの5G端末は購入せず、4G端末を使い続ける契約者が半数位いるのではないかとの見方もあり、5Gサービスが初期ユーザーに十分に受け入れられたと判断するには難しい状況です。一方、日本では今年9月のラグビーワールドカップ開催に合わせて5Gのプレサービスが実施されます。NTTドコモによると、9月20日から、ワールドカップ競技会場12会場のうち8会場でプレサービスを実施し、また、他の場所にパブリックビューイング設備を設置して、競技会場では5Gならではの多視点映像サービスを、パブリックビューイング会場では高臨場感を体験してもらう計画となっています。視聴するための5G端末はドコモがモニター用に提供(貸出)するとのことですが、多視点映像や臨場感溢れる高精細画面が楽しめそうです。さらに、AIを使ったプレー分析システムや高度な顔認証によるセキュリティシステムの活用など5Gシステムの実証の場であると同時に、先端技術を活かした“スポーツテック”の実験場なので、スポーツエンターテインメントには最高の舞台となります。

 また、2020年春には5G商用サービスが開始となり、5G基地局展開は当初の周波数免許時の計画より前倒しされて、各社とも開始後3年で5Gのエリアカバーを全国に確保しようとしています。韓国の事例からする教訓ではエリアカバーの案内・周知方法や4Gとの適切なハンドオーバーなど最初のしっかりした対応が求められています。決して顧客獲得中心のマーケティング先行型の取り組みに片寄らないよう注意が必要です。これまでのマスコミ報道でも、もっぱら個人ユーザーの声が目立っていますが、韓国では5Gのもつ潜在力を発揮して新しいサービスや事業構造に及ぶ取り組み、すなわち社会実装の方向が5Gの本命と考えられています。日本でも、来年春の商用サービスでは事業変革(BtoB)や社会実装(BtoG;ガバメント)の取り組みをどう具体化していくのかが肝要です。4Gまでの開発と違って、いろいろなパートナーとの協力・連携を通じて5Gのもつサービス面の潜在力が多方面で理解されるようになっています。例えば、高速化・低遅延機能を活かすためには、下り(ダウンリンク)だけでなく、上り(アップリンク)の性能改善が求められるようになっています。低遅延性能によって、遠隔操作、遠隔監視、遠隔診断などのユースケースが数多く想定できるようになると、どうしてもデジタル情報の収集に双方向の高速化が必要となります。さらに産業向けユースケースでは、単純な高速化にとどまらず、従来のベストエフォート型に加えて保証型(Guaranteed)のサービスや光ファイバー並みの信頼度の高い通信サービスが要求されています。IoT領域では超低消費電力端末(例えば充電不要など)や超多数のAIデバイス接続を可能とする機能など5Gの能力拡充の方向がユースケース実用化の過程で見えてきています。

 5Gの周波数には、3.7GHz帯と4.5GHz帯の“Sub6”と呼ばれるものと、28GHz帯の“ミリ波”がありますが、これまでの周波数免許帯域との関係では、従来の延長線と考えられるSub6とモバイル通信の歴史では5Gが最初となるミリ波とを分けてサービスと事業経営を捉えておく必要があります。周波数幅もSub6が100MHz幅であるのに対し、ミリ波では400MHz幅もあり周波数の利用効率上も最適化の余地が大きくあります。Sub6はこれまでの3.4GHz帯と同様のエリア形成、すなわち主に集中度の高いエリアをカバーしてトラフィック安定を図るのに用いて、他方、ミリ波は直進性と減衰のため非常に届きにくい特質をもつのでエリア展開では課題が伴います。これこそ5G商用サービスにおけるネットワーク開発の方向を決定します。ミリ波ではすべてのエリアをカバーできないし、屋外と屋内・構内で大きな格差が生ずるので発想の転換が必要でしょう。一定の狭い範囲しか電波が届かないことが、そのエリア周辺の他のトラフィックを抑制してセキュリティを高めることにつながります。工場内や研究所内にエリアを限定して安全性を高めることも可能となります。特に、土地建物の所有関係に着目して周波数免許を認めるローカル5Gではこうした取り組みが中心となりますので、モバイル通信事業者は商用サービス当初から、この新しいエリア形成者と競合することになりそうです。つまり、通信エリアの構築が営業項目に加わるのです。そこでは5Gネットワークをカスタマイズすることが重要課題となります。

 そのためにはサービスの提携パートナーとの間で新たな付加価値を創出して収入を分け合う(レベニューシェア)ことやプラットフォーム利用としてサブスクリプション型に取り組む必要があります。その際には当然、事業リスクを取って個別のユースケースでのサービス競争に対応することになります。競合者は、通信事業者のほか、機器ベンダー、システムインテグレーター、サービス導入先企業まで広範囲に及びます。技術力や設備構築力、オペレーションやサービスを構想し展開する本来の事業力が試されることになります。例えば、5Gサービスで先行する韓国では法人専用の5Gサービスが進められています。一般加入者網と完全に分離して専用端末だけでアクセスできる専用サーバーで回線別速度制御・優先順位制御で企業内ネットワークに接続するものです。KTは法人専用5Gソリューションとして、現代重工業グループの蔚山造船所に5Gローカルネットワークを構築中で今年下半期に本格稼働の予定とのことです。ARグラス、360度監視カメラ、360度カメラ付きネックバンドの導入が予定されていて、生産性や安全性の向上が期待されています。このように研究開発、設備構築、エリア形成、AIデバイスの製品化などを多面的に進めておくことが大切です。韓国の事例でも明確になっていることは、5G開始初期はBtoB・BtoG(法人向け、公共用)分野のサービスが中心に進むこと、BtoCサービスは当初は緩やかな成長を予測して初めはエンタメ系中心の展開が特徴となっています。VR/AR活用のスポーツやeスポーツ、コンサート中継などが想定されていますが、キラーコンテンツ探しというのが本当のところのようです。

 また、社会実装やBtoGなどでは、公共施設の活用や公共機関での5Gサービスの活用が求められるので、Society5.0施策との連携が必要になります。政府が閣議決定した「IT新戦略」で全国に約20万個所ある信号機を5G基地局として利用することとしたのは重要な第一歩と言えます。信号機だけでなく、街路灯や電柱、さらにはビルの壁やガラスなど社会実装のためには思いつく施設や設備を総動員することが必要です。そして今こそ、光ファイバー全国整備率98.3%という世界最高水準にあるFTTHを公益的資産として活かし切る時代を迎えています。我が国では固定通信側の成果により5Gネットワークのエリア構築の基盤は既に整っているのです。

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