2015年1月23日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

クラウドの行方 ─雲行きはエコシステムの競争へ

はじめに

クラウド、またはクラウドコンピューティングという言葉は、GoogleのEric Schmidt元CEOが2006年に使って以来、すっかり根付いた感がある。そこで、クラウドの今後の行方について考えてみたい。

クラウドの定義は、やや曖昧であったが、2009年に米国NIST(国立標準技術研究所)が示した「ネットワーク、特にインターネットをベースとしたコンピュータ資源の利用形態である。ユーザーは、コンピュータによる処理やデータの格納(まとめて計算資源という)をネットワーク経由で、サービスとして利用する。」が最大公約数的な定義と考えて良いだろう。現在ではコンピュータがネットワーク、特にインターネットに接続していないのは特殊な環境と考えられるので、ポイントはネットワークを通してサービスとして計算機資源を利用するか否かである。計算機資源として、アプリケーションまで提供するものがSaaS (Software as a Service)、ここから低位レイヤーに向かって、開発環境(言語等)やOS、DB等を提供するPaaS (Platform as a Service)、仮想的なハードウェアを提供するIaaS (Infrastructure as a Service)と呼ばれている(図1)。

【図1】レイヤー毎の計算機資源

【図1】レイヤー毎の計算機資源

最近の動き─IaaS

2014年はクラウドについても様々な動きがあったが、最も注目すべき動きは今春の大手クラウド事業者の値下げ競争であろう。2014年3月下旬にGoogleが「コンピューティングサービスの料金も『ムーアの法則』に従った料金であるべきだ」として、Google Compute Engineの最大32%値下げを発表すると、これに続きAmazonが「2008年の最初の値下げから実に42回目の値下げ」として、IaaSであるAmazon EC2の最大60%の値下げを発表した。更にMicrosoftがWindows Azure(現Microsoft Azure)もストレージで最大65%等の値下げを発表した。3月下旬のほぼ一週間で大手クラウド事業者が競って値下げしたわけである。

この直後、4月上旬に英Canonicalはクラウド型ストレージサービスUbuntu Oneのサービス終了をアナウンスし、3月に上場(IPO)を発表していたクラウドストレージサービスのBoxは6月に延期を発表後、11月現在でもなお未上場の模様であり、2015年までかかるだろうという予想もあるように、大手以外のクラウド事業者には厳しい状況が垣間見られるようになった。

また、クラウド関連のプレイヤーの合従連衡も盛んである。日立製作所は2014年1月に「クラウド間接続サービス for AWS」という自社クラウドとAmazon Web Service(AWS)間の接続を提供すると発表し、8月には、AWSなど複数のクラウドを組み合わせて使う業界初の組み合わせ型のクラウドサービスを10月から開始すると発表した。海外では、VerizonがプライベートIPを用いた安全なクラウドとの接続サービスである「Secure Cloud Interconnect」という自社のクラウドを、4月にはMicrosoft Azureと接続開始し、9月にはAWSと接続開始すると発表した。SIと接続を合わせた連携の例として、1月にKDDIが発表した「AWS with KDDI」サービスが、AWSへのシステム要件定義、設計、構築、保守運用とイントラネットとしての接続を担うものとして興味深い。

最近の動きが意味するもの─IaaS

これらのクラウドの主要プレイヤーの動きは何を意味するのだろうか。

IDCの調べによると(2014年7月)、クラウドサービスの売上高は2013年に457億ドル(約4,860億円)に達し、年平均23%の成長を続けるという。広がる市場と厳しい価格競争という2つの動向は、市場が確立し、新たに普及局面に入ったことを意味すると考えるのが妥当と思われる。計算機資源をサービスとして提供するというクラウドサービスは規模の経済が働きやすいビジネスである。また、特にIaaSのような低位レイヤーのサービスは差別化が困難であり、その上、OpenStackのようなAWS互換環境を構築できるようなソフトウェアのオープンソースが普及したり、クラウド間で開発環境やミドルウェアをコンテナとしてまとめて移行させることが可能なDockerというコンテナ型仮想化ソフトウェアが普及したり(2014年6月にVer.1リリース)することにより、移行への障壁も低くなり、コモディティ化が進むという状況が生まれたのである。

しかしながら、価格の叩き合いの時代に入ったとだけ見るのは早計かもしれない。IaaSによって提供されるものは、自社サーバーで言えばハードウェアだけであり、所謂、「ソフトが無ければただの箱」という状態である。ここにミドルウェア、アプリケーションを組み合わせてユーザーが使えるようになるが、これを担っているのが、SIer(SI事業者)やCI(クラウド・インテグレーター)という事業者である。ハードウェアに相当するIaaSが低価格化するのであれば、相対的にSIerやCIが提供するものの付加価値が大きくなると考えられる。これは、1つのサービスをユーザーに提供する上で、複数プレーヤが補完関係となっていることを示しており、エコシステムを形成しつつあると考えられよう。こうした観点から捉えると、日立製作所とAmazonの連携はクラウドそのものでのビジネスを考えるのではなく、クラウドのエコシステムのどこを自らの強みと捉えるかという見方が適切ではないだろうか 。

また、このクラウドのエコシステムという観点から考えると、サーバーと接続するネットワークもまた重要なポイントと考えられる。VerizonやKDDIの動きは、自社だけでなく大手クラウド事業者とプライベートIPアドレスで接続することで安全性・信頼性を中心に、高速性・低遅延性をアピールしており、通信事業者がクラウド自体でなくネットワークからアプローチしているという意味で興味深いが、一方で日立製作所がクラウド間通信を提供するというのもクラウド事業者からネットワークへのアプローチと言え、クラウドビジネスにとってネットワークも 差別化要因としての重要性が認められてきたことを示す動向と言えよう。

最近の動き─SaaS・PaaS

これまで、IaaSを中心に低レイヤを見てきたが、上位レイヤはどうなっているだろうか。IDCによるとSaaS事業者のトップはSalesforce.com、次いで人事給与関係のADP、財務・税務関係のIntuitであり、PaaS事業者はAmazon、Salesforce、Microsoftが上位となっている。また、クラウドソフトウェア(SaaSと一部のPaaS)が売上高の86%を占めているとしている。今年の動きとしては、4月にAmazonがクラウド型仮想デスクトップサービスを発表したことや、2014年6月にSalesforce.comがウェアラブル端末向けプラットフォームを発表したこと等が目を引く動きと言えるだろう。

最近の動きが意味するもの─SaaS・PaaS

こうして見ていくと、ユーザーに近く利用シーンがはっきりしているものほど、差別化がしやすい。また、結果としてコモディティ化が進みにくい、ということが言える。今年の上位レイヤの動きは大きくは感じられないが、Salesforce.comのウェアラブル端末へのアプローチ等は注目しておくべき動きと考えられる。これまで、デジタルデバイスはPCの周辺機器からタブレットやスマートフォンの周辺機器へと対応していくことが多かったが、このアプローチはウェアラブル端末をスマートフォンの周辺機器という状況からインターネットを超えて、クラウドの周辺機器という状況にしたと言えるからである。クラウドで新たなサービスを完成度より早さを優先して提供し、速いサイクルでバージョンアップしていく手法はGoogleを筆頭にクラウド事業者が実行してきた方法であるが、端末デバイスの変化に対して、PCを超えて一足飛びにクラウドから追随していこうというこうした動きは、クラウドの一段階ハイレベルな活用方法を示していると考えられる。

今後の見通し─クラウドの行方

それでは、今後のクラウドの動きはどうなるであろうか。

2010年に米国オバマ政権が打ち出したクラウド・ファースト政策が4年経過したが、クラウド・ファースト政策が4年経過したが、クウドへの流れは着実に進んでいると言えよう。もちろん、企業システムは円滑な業務の移行や資産の償却といった難しさがあるので、マス向けサービスのように流行と言えるような急激な変化はないが、確実にクラウドが主流になっていくだろう。

この中でも、IaaS等の低位レイヤーのサービスは規模の経済を背景にした価格競争が進んでいくと思われる。しかし、企業システムについて低位レイヤーの部分だけを見るのはやや近視眼的過ぎるかもしれない。IaaSの上にユーザーが使うアプリケーション等が必要であり、この部分を担うSIerやクラウドインテグレーター(CI)、更に、クラウドまでのアクセスを担うネットワーク事業者という三者からなるエコシステム全体を見ていく必要がある。ビジネスとしては、コモディティ化して価格競争になってきているIaaSを提供するクラウド事業者だけでなく、エコシステムを担うSIerやCI、更にはネットワーク事業者も注目していくべきであろう(図2)。

また、SaaS・PaaSといった上位レイヤーについては、Salesforce.comのような地位を確立したサービスやIntuit等のような単体ソフトウェアからクラウドへサービス展開してきたサービスが中心に動くだろうが、ウェアラブル端末で見られるようなIoTと結びつくような新たなサービス展開が多く出てくると思われる。2015年の新たな展開を期待したい。

【図2】各レイヤーのクラウドサービスとサービス提供者

【図2】各レイヤーのクラウドサービスとサービス提供者

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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