2025.1.30 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

低軌道衛星通信などICTが活用される宇宙開発の国際競争

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Starlinkをはじめとする新たな衛星通信手段の台頭により、通信業界を取り巻くプレーヤーやその戦略が大きく変わりつつある。従来は地上に設けた基地局経由での通信が主流だったが、地上2,000km以下の低軌道上に数千もの小型衛星を張り巡らせ、絶海の孤島や山奥といった場所でも、可搬型の専用アンテナを介して高速通信ができるようになってきた。用途は戦場や被災地といった有事から、従来想定しにくかった遠洋まで、広がり続けている。さらには、端末や基地局がなくても直接衛星とスマートフォンがつながる仕組みが確立され始めている。

本稿では、米国から世界に広がる衛星通信の革新、宇宙開発の現在地を見ていく。

Starlinkの衝撃

低軌道周回(LEO)衛星と位置付けられるSpaceXのStarlinkは、高度550kmの宇宙空間に数千もの衛星群を配備し、地上との通信を可能にする新しいビジネスモデルだ。高度36,000kmの静止軌道(GEO)衛星は1機で地球の約4分の1という幅広いエリアをカバーするのに対し、LEOはより小型の衛星を多数展開することでカバーエリアを補う。LEOはGEOより地表に近いため、低遅延で通信できる。

米国のBoeingとLockheed Martinの二大巨頭、そして米航空宇宙局(NASA)が主導してきた宇宙開発分野において、「衛星コンステレーション」と呼ばれるこの仕組みは、SpaceXによる徹底的な合理化のたまものだ。従来は回収不能だった機体・設備の回収技術を格段に進化させ、再利用することによりコスト革命をもたらした。2024年10月には宇宙船のテスト飛行で、打ち上げ後にロケット部分を発射台に再び収める形での回収に初めて成功した。

打ち上げにかかる輸送コストの低減により、他社製を含む多数の低軌道衛星の打ち上げができるようになった。高度2,000km以下の低軌道は今、「衛星コンステレーション銀座」となりつつある。

Starlinkの名を一気に世に知らしめたのは、ロシアによる侵攻を受けたウクライナでの利用実績だ。地上の通信インフラが壊滅的な被害を受ける中、始まったばかりのStarlinkの通信サービスが、ウクライナの戦禍をSNSで伝えたり、戦場でドローンを飛ばしたりするのに役立った。

また日本でも、能登半島地震により通信インフラが断絶した各地でStarlinkの受信アンテナが配られ、通信網をつなぎとめた。その功績を見た各地の自治体で、2024年度にStarlinkの配備を決める動きが相次いだ。有事における実績に加え、安全保障上の観点からも、衛星通信の有用性に一段と注目が集まっている。

最近では、2024年11月の米大統領選を制したドナルド・トランプ氏が選挙の勝利演説でSpaceXのStarlinkと同社CEOイーロン・マスク氏の功績を激賞したことが話題を呼んだ。9月に米ノースカロライナ州がハリケーンに見舞われた際、やはりStarlinkによるスマホ向け直接通信機能「Direct to Cell」(D2C)のサービスが提供された。トランプ氏はマスク氏をたたえ、「彼は多くの命を救った。彼は超天才だ」と持ち上げた。

このStarlinkによるD2Cのサービスに関し、SpaceXはT-Mobileとのパートナーシップを強化し、米国で展開を進める方針だ。

SpaceXの独走をライバルは手をこまねいて見ているわけではない。米Amazonは、LEO衛星によるブロードバンド「Project Kuiper」を展開すべく準備を進めている。やや遅れ気味だが、2025年には初期サービスの開始が見込まれる。

対抗する中国

米国主導で進む宇宙分野のイノベーションに対抗し、もう一つの宇宙大国である中国は、独自の戦略を進める。

米国が火星探査も視野に、月へ再び宇宙飛行士を送る「アルテミス計画」を遂行しているのに対し、中国国務院は2015年に、「商業宇宙飛行の取り組みを奨励し、宇宙産業において政府と企業の共同推進を図る」と発表、宇宙開発事業が強化されてきた。2024年8月には、中国版「Starlink」構築に向けた独自の人工衛星網「G60星鏈」整備計画の第一弾として、18機のLEO衛星を軌道に乗せた。将来的に1万超の衛星を打ち上げる計画だ。

月面探査では、世界で初めて2019年に月の裏側に探査機の着陸を成功させるなど、躍進が目立つ。

また、中国はより低い高度1,000mまでを「低空経済」と称し、その空間の活用に力を入れている。ドローンによる配送や旅客輸送の商機をにらみ、低空経済の中国市場は2023年の約5,060億元(約10兆円)から2026年には1兆元超に拡大すると見込まれる。

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欧州やインド、第三極も躍動

日本各社も虎視眈々

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